贈り物の価値
翌朝、皆来た。来たよーすごい来た。
寒空で待たすのもあれなんで、部屋に一人ずつ来てもらって話をすることにした。
とてもね、きれいとは言えない人ばっかりだったけど、皆屈託のない子供みたいな笑顔で笑ってたから、会って話そうと思った。
俺の魔法は一晩続いた。一晩だ。たった一晩と思われるかもしれないが、突然死んだ親しい友人に分かれを伝えるには十分な時間だったし、愛した人をもう一度抱き締めるには少し足りない絶妙な時間だったそうな。
「おっどろいた! ほんとに子供なんか!」
「ええそうなんです」
「いやぁ、あんたすごいな! これ、食ってくれ!」
皆食べ物を持ってきた。どれも出来立てで湯気の上がるような熱々。全部手作りで、野菜や小さな肉の切れ端をパリパリに焼いた生地に包んだパンみたいなのが多い。
皆自分の食べるものも困っていそうなのに、である。
多分、皆は自分が食べる分を持ってきている。
嬉しいじゃないか。俺はこれをじっくりと見た。土で真っ黒になった手で握られ、包み紙は何の雑誌なのかわからない。油で濡れて、しっとりとしている。痩せた体でどうか食べてくれと押し付けてくるのをどうやって断れようか。
バリバリ!!!
まーうまいんですよね。
これがまた、旨いんです。
「うちのめしよりうまい!!」
「ガハハハ!!おもしれぇやつだ!」
人と話すことは苦手。でも、相手から人を利用してやろうとか、楽をしようとかそういう感じが全くしないのが面白かった。
日本でそんな人いないでしょ?みんないきるのに必死だし。お金ためたいし。楽がしたいのだ。人を利用し、相手に無駄な労力を払わせたとしてもね。
なんかさ、お金よりももっと大事なものがあるんじゃないかと、俺は彼らに会って教わった。
午後には警官も来た。
僕は会いたくないと伝えた。
警官はさっき来た人たちを殴っていたからだ。
にこにこした人と話してこころもニコニコしたいんだよ。ふりじゃなくてね。僕は人と話すのが苦手だから、必死に擬態しているのだ。それはもう努力の積み重ねでなんとか会話の座席にたっている。会うわけないでしょ。
メイドさん達に止められた警官隊は怒鳴り散らして唾を飛ばした。
「俺の友人は娘がいるんだぞ!! 何で死ななきゃいけなかったんだ!? ああ!? お前にはわかるだろう!? 魂をもてあそぶお前ならなぁ! 子供と嫁さん路頭に迷ってるんだ! 俺たちがどんな思いで給料をカンパしているか!」
「いや、分かんないですよ。誰ですかあんたら。昨晩そこで人を殴っていた人なら話す気はないので帰ってください」
男達の手は赤黒く血で薄汚く汚れていた。警棒をそうとう強く降り下ろしたらしい。皮が剥けていたのだ。最低だ。それで、甘い蜜だけすすって生活できると?
笑わせるな。無理だよむり。帰んな。
「お客様のお帰りだよ」
僕のお気に入りは力が強い。何故なら彼女には黒狼の血が流れているのだ。
大人の男がひょいと持ち上げられて玄関まで運ばれた。