真実の鱗片
目玉の化け物は嬉しそうに笑って言った。
「おお。始まりの地に一番末の子が一番最初に戻られた。よくぞ戻られました」
巨大な塊が瞬時に人ほどの大きさにまで縮まり、ガラスを突き抜けて座席横に近づいた。
それは人ではない。この世のものでもない。
「お前はなんだ?」
「私をお忘れですか……?いや、そうですね。あなたはあまりにも小さすぎた。よく泣き、あやしたものです」
「それよりも、その、見た目が俺には苦痛なので変身できるならば体を変えてくれないか」
この世界には見た目が変わる種族が存在する。俺もその一種だった。
「おや? おかしな事をおっしゃる。下の生活に長く浸かって心まで蝕まれましたか。可哀想に」
目玉は暫くしくしくと泣いて紙とペンを寄越した。
「どうぞ、その紙の上に望むお姿をお書きください。私はその姿になりましょう」
幸いにも、俺は設計家にならなければ絵描きになりたかった。そうはならなかったのは現金収入の面と作れるもののに差があったただ。だからそこそこ絵は上手いと思う。
何しろ、設計家が図面を書くことを業界用語で絵を描くというくらいで、その美しさが作りやすさやコストに直結する。腕は落ちた気がしなかった。
目の前にいたから、という理由で俺は奴隷の子供をスケッチする。
可愛らしい獣耳が頭に寝ていて、ほんの少し痩せすぎかな。そんな彼だが、この船の組み立てに携わったということで乗船していた。
この世界の技術では、溶接した機体の内側に計器を取り付けるには子供の小さな体を使わねばならなかったのだ。
栗色の癖っ毛、引き締まった腹筋、というよりは贅肉の付いていない腹を書き、最後に可愛らしく笑顔を演出して目玉に見せた。
「ギャ!!」っと悲鳴が上がる。
俺は目玉を睨み付けた。お前のその評価はなんだ。すると目玉は続けた。
「……それを書いたのはなぜですか?」
「近くにいて、可愛かったから」
目玉はその大きな目を背け、何もない口から何かを吐こうと体を捻った。
いったいなぜ……?
一瞬、鏡のように反射したガラスに映ったその姿。今描いたばかりの絵は、全く違うものへと変わっていた。
毛むくじゃらの、巨大な何か。目は黒く塗りつぶされ、口には長く延びる不気味な牙。鋭くとがった指先にはドクロが握られている。
「え?」
自分で見返したが、やはりそこには笑顔の少年が書いてある。また反射させてみたが、そこにあったのも同じく笑っている少年の姿だった。
なにか変だ。それに気がついた。