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二本足の豚

 俺は恐ろしい現実に直面した。


 それはドワーフの市場にあった。

 なんということはない肉のマーケット。

 ひどく残酷な話をするが、そこには洗面器ほどの器の中に、肉が首つきで入っている。こういう光景は発展途上国では珍しくない。我が国でも肉屋の軒先では生の肉がそのまま売られているのが珍しくない。


 しかし、肉が特殊だった。

 それは人と良く似ていたのだ。ただそれらは獣耳がある種族で我が国でも奴隷として売りさばかれている種類だった。


 俺はひどく嫌悪した。


 ドワーフは鉄を作るために環境を破壊していた。太い木は建材に、細い木は木炭にするため徹底的に森から緑が消える。

 その森で果物などを食べていた動物たちも同時に死ぬ。


 ドワーフは食肉の確保という問題にぶち当たった。


 全ては経済的な理由である。と、ドワーフの王は言った。国王様は俺の姿を見て震え上がっていた。


「これは見過ごせませんね」

「は、はい? これは我々の文化ですので……これが普通ですが」

「ちょっと見せてもらえますか?」


 店の裏では焚き火がされていて、その上に生きたままそれがのせられていた。


 巨大な鉈をもったドワーフがにこにこ笑顔で毛を焼いているのだ。


「すぐスープにしますから、うちは旨いですからねぇ」


 店主は素手で処理していた。浅黒い手に多くの血がついているが何も気にしている様子はない。

 足を捕まれた子供は、ひどく怯え言葉にならない悲鳴をあげている。


 ガシャーンと音がして焚き火の上の網が落ちた。それが暴れたためだ。


 その可哀想な被害者は俺を見てすがり付くように這ってきた。


 すでに白く焼かれた目は俺の姿を見えなかったのだろう。なぜなら俺はまだ狼だったからだ。


 ただぎゅっとしがみついてきた腕は、その細さからは想像ができないほど力強く、毛が抜けるほどだった。


 それを見てパケ部族が引き離そうとするのを止める。


「魔法を使う」


 俺の手が青く光ると、赤黒く焼け、白い頭蓋骨がみえていたそれの皮膚が戻った。髪の毛が毛根からはえ、腰ほどまでの長さもある美しい黒色のロングヘアとなる。切り落とされた指は内側から盛り上がるように生え、爛れた眼球は瑞々しく甦った。


 これこそが敵であったドワーフのおよそ半数の命を救った力だった。


 彼らはそれに怯えている。彼らの考え方からすれば、与えられたものはまた奪われると思うらしい。

俺は死んでいたものは生き返らせなかった。わざわざ金ももらっていないのに余計なことはしない。


 体を焼かれていた少年は一切口を利かなかった。それはもうショックであろう。なぜなら俺は二足歩行の珍しい狼で、しかも魔法を使うのだ。しかも人語を話している。ちなみにこの世界の共通語は母国語だ。なぜなら侵略国家であり、その土地土地で種を撒いたからだ。我々こそがもっとも悪魔なのだよ。


「この肉を食べないようにできないのか?」

「我々は貧乏です。『二本足の豚』しか食べられない人も多くいます」


 彼らの言う二本足の豚は、ドワーフにとって貴重なタンパク源である、と同時に捕まえる方からすればすぐに金になる商品でもあった。


 なぜ、奴隷を商品とする父がこのドワーフの国について詳しかった。売ったことがあるのだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] この回の話しで、"文化革命"による出来事を逃げたアメリカで、旅行者に語って聞かせた人物の言葉を思い出した……"奴らを決して信用してはいけない日本人よ" 机以外の脚のあるものを全て食べる………
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