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姉妹の船

 空が燃えていた。


 ドアーフの戦士は最後の手段として油に火をつけ、それをベスに向かって投擲した。自分達の船もあったというのに、今ではもう、その跡形もない。僅かに残っているのは遥か海底につき立った煤けたマストだけだ。


 ほとんど外れた。しかし、運の悪いことに甲板に命中した一発が、三人の船員を瞬時に火だるまにし、重度のやけどを負わせた。魔法で治療すると言ったが、彼らは笑って断った。

「大丈夫です。もっと重症の人がいるはずですから」


 確かにそれはそうだった。ドアーフは全く損害を無視していた。矢がなくなれば剣で突撃を敢行し、夜になろうとも攻撃は一回、二回と続いている。


 しかし、戦艦ベスに言わせれば、それは単なる悪足掻きにすぎなかった。少々戦う意思が強かろうと、武器のレベルに絶対的な差があった。

 どれ程体力を持つものであろうと、重さ100キロを越える砲弾を受けて立っていられるものはいなかった。


 三度目の攻撃で少年がドアーフに無理だと告げると、ドアーフの戦士はどんなに強い武器でも打ち止めが来るはずだと反論した。その通りだった。ドアーフはベスの主砲、片側120発、合計480発の砲弾を抜こうとしている。


 ベスがバカスカ撃ちまくっているのをドアーフは戦うのを恐れているからだとみなしていた。実際のところベスの船員には敵を至近距離で叩く覚悟が不足していたが、しかし簡略化された殺しの手段、戦艦の砲撃の前に、無意味だと説得したのに、彼らは耳を貸さない。


 半ば意地になっている。ここがドアーフの故郷であることも災いした。これよりあとに引く先が彼らにはないのだ。

 彼らは自分達が優れた戦士であり、果敢に向かってさえいれば、敵は尻尾を巻いて逃げると思い込んでおり、悪戯に兵力を無駄にした。


 彼らは怖かったことだろう。例え燃えても主砲はこちらを狙ってくる、さらに攻撃は精密、確実に当たるのを見るとそれは武器ではなく、悪魔の攻撃の一種であると決めつけた。


 少年は自分を包む光をなんとか無視しようとしていた。

 目の前をハエのように飛び回る光の弾が体に入り、どくどくと心臓が高鳴る音が聞こえた。手で光を弾くと、手から雪崩れ込むように光が入ってきた。


「なんだろこれ」

「分かりませんよ!そんなの見たことないんですから!」

 甲板の上を少し歩けばガツガツと5インチ砲の殻薬莢が足に当たった。棄てるのが間に合わないほど速射して甲板は火薬のカスで真っ黒に染まっていた。


「弾をくれー!!弾をくれー!!」

 船員が叫んでいる。

 今持ってくるからと言おうとしたが、遅かった。5インチ砲据え付けの盾、その僅かな隙間をぬって矢が飛び込むと、船員の肩に吸い込まれていき、出てくる頃には腕がボトリと甲板に落ちた。少年は思わず悲鳴をあげそうになった。


「まて!今使うから!」

 拾った腕を千切れた肩に押さえつけて少年は魔法を発動した。

「息をしてください」

「痛い」

 少年の魔法は真っ赤な戦場の中で輝く青。押し付けた傷口はミミズのように蠢いて、絡まり、元通り肉が繋がった。

「ところで何発撃ちました?」

「分かんないです」と船員は火薬で真っ黒になった目をかいた。


 少年は息をついて火薬庫の方を見、遅れてきた砲弾の補給に手を貸し始めた。無駄な口をきいている暇はなかった。

 10発運んだところで、背後から汽笛が聞こえた。振り向くと、真っ白な戦艦が一隻艦首を傾けて横腹を見せようとしていた。

「全員伏せろ!」少年はあわてて砲弾をおいて頭を守った。

 貴婦人は横腹を見せて一番砲、二番砲の両方を敵に向けていた。

 少年は安堵のため息をついた。それにしてもよくこんなに早く来たものだ。無理とは言わないが、それは本当に困難だったはずだ。そもそも蒸気機関の貴婦人がそんなスピードを出して大丈夫なのか。よほど焚いたのか真っ黒な煙は雲に届きそうだった。

 


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― 新着の感想 ―
[一言] 一心不乱に突貫、ね……悪手ですね。とは言えども、知識の無さはこうなる。クラスター爆弾使いたいし、やっぱり……毒ガス弾頭をお城とかにぶち込みたい。まっ黄色な発生物で地獄を生み出し、彼らに力以外…
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