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間違った戦い

 少年は最初の攻撃の一手を打つ際に、パケ部族にお願いして貴婦人を呼びに行かせた。ベスの姉妹艦、まるっきりそっくりなその船を。


 ありとあらゆる武器を積んでこいと伝えた。食料も水もありったけ用意しろと伝えた。


 伝令を受けたパケ部は全員だ。


 全員。その意味が表すのは、その中の誰かがたどり着かなければこの戦いは負けるということである。


 少年が強力な武器を持ちながら、国家相手の戦争を未だ行わなかったのには理由がある。それは、補給の厳しさ。


 たかが四百人程度の軍隊、それも組織的な行動をとったことのない者達に戦争はできない。


 軍事費こそ3兆円もあったが、使えなければ紙屑と代わりない。


 東の空へのゴマ粒のように小さくなる戦士を見送って、ベスは孤軍奮闘の構えを見せた。



 港の入り口からは大挙してドアーフの軍艦が顔を出した。


「諸君。ここまでありがとう。ここから先は戦う意思のある者だけ付いてきなさい」


 もはや海は塞がれ、退路はなかなった。その状態で言われても誰も逃げられない。


「よし!総員かかれ!」


 砲雷長の指示で横一列に並べられた5インチ砲が火を吹いた。


 殺到する船は力士の張り手を受けたように横一列に沈む。

 しかし、この世界には残念ながら弱虫はいなかった。


 ドアーフは沈んでいく仲間の船を乗り越えてやってきた。その次の瞬間には5インチの鉄の塊が木を砕き、砕ける。


 ドアーフ戦士2568名、戦死。



その時、恐ろしい光景が目の前に広がった。


 死体が光輝いて海が明るく照らされている。

 まずい!!敵の攻撃だ!


 爆発の前で人間がとれる行動は少ない。少年は手短に付近の船員を甲板に引き倒して倒れた。光は音速よりも早い。つまりこれから衝撃波が身を焼くはずだ。


 なぜだ。なぜそれが来ない?


 少年は閉じた目を開いて、そっと海を見る。

 美しいほど静まり返った海は、先程までの砲撃とはうってかわって揺りかごのようにベスを包んでいる。


 ゆっくりと体を起こすと、それを待っていたかのように、少年に向かって一直線に光が駆けた。


 少年は「えっ」と小さく言葉を漏らした。目を刺すような強い光とは裏腹に痛みはまるでない。

 次の瞬間、頭でなり響く鐘の音が恐ろしいほどの重奏を奏でた。


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