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図面の神殿

 ベスは機関に熱を持った以外は、特に問題なくドアーフの納める港へとたどり着いた。


 しかしここで問題が起きた。


 ドアーフの船は細く、それように作られた港にベスが入れなかった。戦艦ベスはあまりにも巨大で、試すまでもなく、入れなかった。それを見たドアーフはベスを船の母と呼んだほどだ。その張り出したお腹を妊婦だと言ったのである。


 なぜ、腹が出っ張っているのか理解できなかったかは、仕方がないことであった。ベスはドアーフらの技術から見ても異質な存在だったからだ。


 ドアーフという種族は、かつて金や銀等の鉱物を掘り出して貿易を行う種族であった。しかし、山の資源が枯渇するにつれ、外から材料を輸入、加工し、付加価値をつけて輸出することを外貨の収入源にするようになった。


 特に鋼は数多くの道具を作る材料となったため、ドアーフはこれを中心に飯を食い、国を広げていった。2トンの鋼を作るのに山ひとつ分の木材を必要とし、そのために、彼らの国は常に禿げ山であり、灰色の国である。


 ドアーフを探すには禿げ山を探せばいいと言われるほどだ。


 加工技術の根底となる加工機の図面は彼らにとって聖典であり、海岸に創られた神殿には、聖典として図面が納められている。それらを使って作られた防具は世界最高の名前を欲しいままにし、遠くの国から買付が行われるほどである。

 

「なんだあれ」


 少年は真っ白な石から削り出された神殿を見た。それは日本にはない、美しい作りで屋根を支える支柱には恐ろしく細かな彫刻がなされている。


「あれは神域です。中にある図面を有事にすぐ持ち出せるよう、海にあるんでさぁ」

「なに!?図面が!」


 設計家にとって図面とは命である。文字通り命を削って書くものであるし、誰にもとられたくないものだ。


 普通の人から見れば、それは小難しい絵に見える。しかし、読める人から見ればそれは言葉(げんご)なのだ。技術者と技能者間でのみ通じる言語で、現代に生きる日本人が100年前に書かれた図面を読み取ることもできる。しかも日本語など知らない技術者が書いたものを、だ。


 かくも難しい内容を技術者はできる限り分かりやすいように書くのだ。それを読めるというのはこの上ないご馳走である。


 長年積み上げられたドアーフの技術の全てがそこにあるのだ。

 少年は息巻いて何とかそれを見られないものかと唸った。


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― 新着の感想 ―
[一言] どちら側から見ても、知識イコール財産ですからね。 某ガス欲しさに他を差し出すくらいですから……業が深い。
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