アルミニウム
父はわずか半日でアルミニウムを見つけていた。
やはり天才というのはいる。彼は、物を見つけて必要なところに届ける天才だ。
それも全く知らない金属を、特徴を聞いただけで見つけてきたのだ。これにかけては右に出るものがいない。俺はこれにはとても勝てない。
しかもその金属は複雑な行程を経て精製されるため、第二次世界対戦の時、日本が手に入れられなくて多くの設計家が涙を流したもの。
父はそれを分かっているのか、在庫すべてを押さえてきたと豪語した。その量347トン。桁が違う。
値段は鉄鋼の二分の一程度だった。その値段からもこの世界の住人がその価値に気がついていないことは明白だ。
日本で買えばそれは鉄の二倍の値段する。なぜなら、鉄をそれに変えるだけで重さをずっと軽くできるからだ。重さっていうのは力だ。同時に重荷でもある。
同じ性能なら誰だって軽いスマホを選びたいだろう。同じ値段なら燃費のいい車に乗りたいだろう。それらを可能にするのがアルミニウムだ。
加えて、アルミニウムの熱伝導性。これは比類なきもので、ほぼすべての燃料式エンジンはこれを使用する。ヘリコプターの八割、航空機の二割がアルミの合金であるジェラルミンを使用した。
その意味が貴方にわかるか。これは戦略物質なのだ。高度な戦略兵器を作るのにいる。大陸間を飛翔し敵に打撃を与えるミサイルなどこれを当然のように使う。
その大事なアルミの在庫をすべて手放した国はいったいどんなバカだと思って聞いてみた。
「父上、アルミはどこから?」
「鋼の山、その際奥のドアーフから」
これだ。やはりいるのかドアーフ!!背がちっちゃくて酒好きで陽気で、仕事に厳しく、他の種族よりも優れた技術力を有する彼らはボーキサイトと呼ばれる赤褐色の鉱石から、この白銀の金属を見いだした。これぞ天才。
「船はブラウン・ベスを出しましょう。あれは石炭と水を積まなくて良くなったのでそのスペースを全部貨物室にできますから。それにクレーンもつけて」
「ちょっとまて。あれを出すとドワーフに盗まれるぞ。俺がやったように」
「え、ドワーフはあれと同じものを持っていない……?」
「ああ」
アルミがあるのに? どいうことだ?
アルミが生成できる技術力、工業力がありながらまさか中世で足踏みをしている訳ではあるまいに。
「あんな船はドワーフは持っていない」
なぜこの男は断言するのだろうかと思う。かつて、悪魔と呼ばれた戦車を作ったドイツの設計家はそれをトラクターだと嘘をついて開発を続けた。
かつてパソコンもない世界で戦艦を設計した技術者は眠らなかった。文字通り毎晩、製図室から光が消えなかった。
俺達の情熱はそんなところで止まるわけがない。
ドワーフがどんなやつか知らないが、同じ技術者ならばわかる。
彼らは絶対にその誘惑には勝てない。
それがなんに使われるかが重要なのではなく、できるから作ってみたいのだ。その頭の中にある美しい光景が形を帯びる瞬間を俺達は見てみたい。そのためになら命を削り、悪魔に魂を売って、死神にもなる。
是非会いたいではないか。この世界最高の技術大国の技術者に。
でもなぜその大事なアルミを安く、しかもどこの人とも分からない父に売ったのだろうか。まさか父が騙したのか? そんなにやり手なのか?