夜のおきて
メイドは暗い廊下で震えていた。
お屋敷は大きく、とくに夜には骨を噛み砕くような不気味な音がしたり、どこからともなく首元を舐めるような生暖かい風が吹き込む。
少年の部屋のなかからは、何かを倒したような音や、「わぁ!やっちゃった!」という声も漏れ聞こえている。
メイドはその声に少し安堵した。自分の主人は時々子供ではないようなことを口走ることがある。人の心のうち、隠しておきたい部分をちょいとつまむような物言いは、頭のいい大人のような印象を受ける。
見た目と実年齢とが合っていないのではないかと多くのメイドが噂していた。
そして彼は、部屋に一人のメイドを呼んでいる。身の回りのことを自分ですべてやりたがる少年が、である。
それは、少年が背伸びをして身の回りのことをやりたがっているならば、微笑ましいことだか、彼の場合、自分のことは自分でやると無意識に考えているような感覚がにじみ出ている。
それもここ数年でそうなったという話だ。それまではごく普通のぼっちゃんであり、奴隷を殴るのが好きだったそうだ。
「はい!お待たせしました!」
メイドはなかから響く元気な声を聞いてゆっくりと扉を開けた。
彼女自信、その部屋の中に入るのは初めてで、聞いた話では女が囲われているという噂だった。
メイドが伏せた目をそっとあげると、そこには机と椅子と、布団があって、部屋のいたるところに書類がつまれており、北の山脈のようにうずたかくつまれていた。
「ごめんなさい。金庫には入りきらなくて」
おどけたように頭をかく少年がそこにはいた。
メイドはそのあどけない表情にくらりときてしまい、その小さな体を抱き締めた。
「ちゃんとお風呂入ってますか? お、おねぇちゃんが入れてあげようか?」
メイドの広角はピクピクと震え、己がしている裏切りへの罪悪感と快楽に脳が浸されている。
裏切りは主人への裏切り。仕事をきちんとこなすためにメイドはおり、その制約のもと支えている。これは逸脱した行為だ。
快楽は、思っていた以上に細い少年の体と、熱いほど感じるその血潮に母性本能が擽られて感じたものだ。
「お風呂めんどくさいです」
スンスンとうなじ辺りをメイドが嗅ぐと、僅かに汗の匂いがした。
この神様はまだ人間の体を持っているんだなと思う。そして少年からは見えないことをいいことに、メイドはその首をなめた。
白い肌は一瞬の感触に震え、ビックリした表情の少年がメイドを引き離す。
しかしその腕は非力な少年のものであり、力仕事もこなすメイドの腕力には到底敵わない。
「いたっ」
「あ」
主人が声をあげたことで瞬時に手を離したメイドだったが、まだ、欲望は収まらず、後ろ手に部屋のドアを閉めた。鍵も、探し当ててガチャリとかける。
少年の長いまつげがゆっくりと目元で揺れて、狂おしいほど白く、細い足が際奥を隠すように組まれる。
「ぼっちゃん。ひとつ教えましょう。あなたが考えるほど奴隷はいい子ではありません」
メイドは微笑んだ。