光る時計
少年はベスの薄暗い機関室で頭を抱えていた。
燃料棒が多すぎたため、これを半分の24本にしようと言う話をしていた時のことである。さすがにあのスピードを繰り返していれば、ピストンが吹き飛んでしまうため苦肉の策だ。
「いやだ!!!」
「危ないですから、早くやった方が良いです。幸い、貴婦人にはまだ原子炉がありませんから、そちらに持っていく計画で」
「やだ!」
少年はいつも通り丁寧な口調で説得を試みたが、一部の船員、それも機関部以外の船員が異議を唱えていた。
その船員とは、背中に翼を持つ、パケ部族の戦士たちだ。
彼らは原子炉の巨大なキューポラに、表現は悪いが、セミのように貼り付いていた。10人近くがそのまま動かず2時間が経過しようとしている。
キューポラにとりつけられた耐圧ガラスの窓から、中の燃料棒を見ているのだった。
彼らは太陽を信仰している。彼らからすれば、暑く熱を放ち、光輝く棒が、ピカピカに磨きあげられた入れ物のなかで青白い光を放つのがそれはもう、美しく見えたのだ。
欲しくて欲しくてたまらない。中にはなんとかガラスの窓を開けようと叩く者もあったので少年は急いで降りるように命令した。
「開けちゃダメです」
「あれ、欲しいな、なんて。思うんですけど、きっとだめって言われるんでしょうけど、欲しいって言うか」
まるでスマホを親にねだる子供のようであるが、言っているのは体に深い傷が刻まれたおっさんである。
どうしても欲しいことを理解した少年は仕方なく、本当に仕方ないといった様子で代替案を示した。
「じゃあ、仕事を頑張った人に懐中時計をあげますから」
「物でつろうったってそうは行きませんぞ!」
「いや、普通のじゃなくてですね、針の先っぽがこれとおんなじ風に光るやつです。暗闇でも数十年くらい光ってるやつなんですけれど」
実際、そういう時計が存在した。日本でも普通に市販されていた。その時計が光るのは、放射性物質が崩壊して光を出しているためだとも考えることができたけれど、その蛍の光のような美しさは女性も男性も虜にした。
皆疑いの目で見てくるので仕方がなく少年がその塗料を取り出すと、冷ややかな目を向けていた男たちは獲物を前にした獣のように目をギラギラさせた。
それは、薄明かりのなかで淡い青色で光っていた。小瓶に入った僅か数ミリリットルの塗料は数十人の信者の目を奪う。
しかも少年はやり手であり、それをさっとジャケットのなかにしまってしまうのだった。
パケ部族。目の前で宝物を仕舞われる。
彼らが太陽と同じくらい大切にしていたのは金と宝石だった。
どちらも太陽と同じく輝くために、彼らはそれを太陽の涙と呼んでいた。
しかしそれが偽物なのは彼らも分かっている。なぜならギラギラ輝く黄金もこぶし台のダイヤも暗い闇夜では光らない。
ではあれは何か。
暗闇でも光る。それは喉から手が出るほど欲しいものだった。