暴発
敵が案外あっさりと折れたことに少年は安堵した。
いや、実際には血を血で洗う争いに発展しても可笑しくはなかった。しかし、敵の戦闘員は鞭で動かされるタイプの奴隷であり、奴隷は奴隷と戦うことを望まない。
それこそ肉親を人質にされているなら話は別だが、彼らは奴隷二世の生き残りであり、この世界につれてこられてから生まれた混血児だった。有り体に言えば家族のいない奴隷達で少年の家の主要商品だ。
特別な軍事訓練を受けているわけではない奴隷達が、戦いよりも信仰に身を捧げるのは難しくない判断であり、すでに同族が何人も付き従っているのを見れば、腰に下げたサーベルを捨てるのは早かった。
しかし納得しないのは海軍である。それも、神を殺す力を持っている状態で降伏することは彼らにとって恥だった。
「お前たち!分かっているのか!? これは人類史上初の快挙なんだぞ!それに携われる幸福をなんと心得る!!」
しかし、その言葉にも奴隷達の反応は冷ややかだった。
「我々は!人類は死から解放されるのだ……お前たち価値のない奴隷の血がそのために使われるならば何の問題があるというのだ。今こそ玉座でふんぞり返る神々にも同じ苦痛を与えるべきではないか」
振り返った奴隷達の目には怒りがあった。
「貴方はあの船を見て、まだそんなことを言えるのか。あれは昔話に聞く神々の船ではないか。逃げればどこまでも追ってくる」
神様は、そもそも海に吹く海風を作られた。だから海をわたるのに帆はいらない。
奴隷達は自分の首に巻かれた鎖や、甲板に転がったこん棒、錆びたサーベル等思い思いの武器をもって進み始めた。
自分達を虐げた軍隊に向かって。
「お、お前たち!何をしているか!このバカどもめ!!」
一人の奴隷が袈裟懸けに右肩から左脇腹までをバッサリと切られたが、他の奴隷達の目に宿った淡い情熱の火が消えることはなかった。
「私たち奴隷は、お前の首をもってあの方へ重用を願う」
振り落とされた棍棒がヘルムにおおわれた頭を砕き、返り血で赤くなった何十本もの奴隷の腕が頭上高く盗まれた卵を掲げた。
神々にそれを返すために。
正確にはそれは核爆弾である。それも改良を重ねられた新型で、本当の形はひょうたんの形をしている。それが丸いのは片割れであるからで、それ一つでは何の意味もないものだった。
少年が元々焦っていなかったのは使えないとわかっていたためだった。
奴隷達が黒い戦艦にそれといっしょに収容された後、ガレー船に残ったわずかな軍人は船を反転させ西へ西へと進路をとった。大海で揺れる白い帆は美しくもはかない存在であり、巨大な砲弾によって的にされたのは少し残念に思えるほどだった。
奴隷達は消耗品のように扱うのをやめてほしいだけだった。なんども意見軍信を行ってその度に人が死んだ。撃沈は恨みによる行動だったが、少年には暴発と言うことで伝えられた。




