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幽霊の船

 奴隷達は何もかもを失ったが、同時に得たものも多くあった。


 かつては土地で争い、殺し合いをしていたもの達が協力し合って一人の少年のために情報を集めた。

 なに、難しいことではない。敵は巨大な荷物を抱えて逃げている。徒歩での逃亡には限界がある。毎日逃げることばかり考えていた奴隷たちはすぐ一つの答えに行き着いた。


 それは海だ。


 海を船で渡って逃げる。ここは軍港近くで古びた船がいくらでも捨てられていた。海に一度出れば重い荷物を手で運ばずとも風と海が運んでくれる。


 二人の姉妹はその迅速な足でかけた。


 同じように考えた海軍は卵の噂を聞いてすでにガレー船を迎えに出していた。

 そして今朝早く彼と贈り物を引き上げた。

 120名の当直員は全て奴隷であった。海軍は自分の家族を奴隷に落とされたとあって、その恨みは誠に深いものだった。


「報告します。この奴隷が幽霊の船を見たと言っています」


 航海長は顔が膨れ上がった奴隷をつれてきて艦長の前に付きだした。

 奴隷は死ぬほど殴られて、首に繋がった鎖には血がついていた。


「なにをバカなことを!」


 奴隷の描いた船は、船の切っ先の下にもう一つ切っ先があった。まるで鏡あわせのような不気味で気持ちの悪い船だった。


「学がないな。船の切っ先は海を貫き進むもの。これでは海中に沈むではないか。お前、私をバカにしているな」


「い、いえ、ほんとうですぅ。本当なんです」


「それに隔壁が200? 船体は全て鉄だと?それに操舵板が2枚?そんなわけがあるか。あってたまるか」


 ガレー船には隔壁が12。木製で沈まぬようにタールが塗ってある。操舵板は1枚だった。

 その場で奴隷は首を落とされた。サーベルが切れなくて3回目でやっと切れた。


「おい、誰か呼んで砂を撒け」


 船の上では血油は禁物だった。揺れる船の上では良く滑るからだ。

 真っ黒な砂が血でさらに黒くなるのを横目に艦長のヨナは奴隷の絵に目を落とした。


「こんなものがあったとして、どんなに足が遅いだろうか。ふっ。これでは風上に進むことさえままならないだろう」


 その二つの船の設計思想が全く違うことを艦長は理解できなかった。彼にとっては船とは帆をはり、海を突き進む物だった。


 そんなとき、頭の上で太鼓がうちならされた。


「戦闘準備!」


 船をひっくり返したような騒ぎになった。船員は船室を転げ回り、壁掛けのサーベルを競い合うように奪い戦闘に備える。


 ヨナは帽子を直して甲板に出ると、副長が望遠鏡を覗いて右舷の方を見ていた。


「副長、敵はどちらか」

「艦長!それがおかしいんでさぁ!」

「なに?」


「やつらさっきは右舷二度、ゴマみてぇに小さかったのにもう、すぐそこまで迫ってる」


「なに?バカなことを。風はこっちが追い風だ。大方、望遠鏡を逆さに覗いたんだろう」


 艦長は自分の双眼鏡を覗いて絶句した。


 そこにあったのは島だ。二つのそっくりな島が白波たてて向かってくる。

 その船には帆がなかった。


 滑車を運んでいた奴隷がそれを落とし、乾いた音が響いた。


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― 新着の感想 ―
[一言] ものが物だけに、逃がすわけには行かない。さあ、どう攻める? 木製の船ならよく燃えるだろから、燃やしたいものだ。
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