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麻薬

 唯一、人間は嘘をつくことができる生き物だ。それは虚構を操ることと同じ意味である。ばれなければの話しだが。 


 少年が嘘をつけない悪魔を追い詰めるのに時間はかからなかった。


 少年の目はの人間の目とは違っていた。

 逆光の中姿でその目だけが不気味に光っている。しかしその目は角膜に写る人物を見てはいない。少年は目の前の悪魔を見つめてはいるが、その視線はもっと奥底の存在へと向けられているようだった。


「君は構ってもらいたかったんだね」


 少年の言葉に目を見開いた悪魔は、その大きな瞳を落とさんばかりに静止して沈黙が流れた。


「な、なにを」

「君は可愛がられる奴隷が羨ましいんだ」


 瞬間、女の子のように崩れ落ちた悪魔は泣き叫び、黒い涙を流して天井を仰いだ。

 悪魔の体がブクブクと煮えた鍋のように泡立ち、人の形を保てなくなって黒い水へと変わる。水は上流から下流へと流れる川のように少年のもとに集まって服の上も下もなく、伝うようにして少年にすがり付いた。


 少年はふと、なぜそんなにも寂しいのだろうと思った。


 人に条件付きで取引をせまり、持っていないものなど無いような態度をとった悪魔が寂しがっているのだ。


「可哀想に。君は孤独が怖いんだね」


 少年は悪魔の溶けた手をとると、ゆっくりと目を閉じた。

 

「大丈夫だよ。一人は寂しくない。みんながいないと寂しいという常識を植え付けられているだけだ。僕が保証するよ。一人は寂しくない」


 悪魔は溶けた体を寄せ集めて作った唇で少年の腹部に触れた。


「ああ、甘い。幸せです」

「まだ、寂しいのではないですか?」

 悪魔は一瞬体を震わせて、その抗いがたい言葉に全身全霊で答えた。

「わだ!!わだじは秘密を知っております!どうかそれでお取り引きを!!ああその胸に抱いてください!」

「……秘密、といいましたね」

「はい」

 悪魔はうら若き乙女の姿になって少年の肌に体を埋めた。

 

「神様との間に作ろうとしてできた子供は24人。その中で一人だけ覚醒しました。輝かしいダイヤモンド。それは特別な子供でございます。……私はあるお方からその子を守るようにと命令を受けていました」


「それを黙っていたんですね」


「ち、違います!嫌いにならないで!」


「あの盗人がどこにいったか知っていますか?」


「西にいくと、言っていました!」


 命令を聞く、その快感に脳が震え、甘いようなすっぱいような味が悪魔の口に広がる。今、確かに言葉を交わした。悪魔は何度目かわからない絶頂を感じた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 上の者に従うだけの存在、と言うのも……楽ではある、しかしつまらなく寂しいものだ。 愈々一部が見えてきはしたが、氷山の一角よりも少ない。ところでスターリングエンジンとかで車を(戦車を)走らせ…
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