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偵察

 その日、帝国第13補給拠点リリィは消し飛んだ。文字通り無くなってしまった。残っていたのは擂り鉢状に抉られた大地と砕けて泥だらけになったワイン樽だけだった。


 指揮官は膝から崩れ落ち、泥のなかに突っ伏した。実はワインは軍隊にとってなくてはならない物資だったのだ。


 軍人には必ず求められることがある。それは敵を殺すこと。しかし問題があった。敵を殺す瞬間、それがどんなに簡略化されていても頭によぎるものがある。敵にも家族がいて恋人がいて子供がいるということだ。そう。軍人は現地民を獣と呼んでハンティングだとバカにしていたが、実際には多くの者が自分と同じ人間だと気がついていた。

 自分と同じように複雑な文化を持ち、慈しみの心を持っていると知っていた。

開戦初期、すでに、そういう人間を殺すことを続けることに酷いストレスを感じる者がいると分かっていた。その状態が長く続くと正常な判断ができなくなる。有り体に言えば、戦争が終わったときに家庭に帰れなくなる。この戦争で多くの兵士が自分の子供と同じくらい年の奴隷を殺していた。これがリタイアした兵士に酷い影響を与えた。


 元兵士が夜寝ぼけて自分の子供を殺した事件が多発した。実際には報告されなかった場合もあるため、さらに膨大な事故が起きたものと思われる。


 軍はこれを防ぐために大量のアルコールを戦場に持ち込み、飲酒しながら仕事をすることを義務付けていた。


 それがすべて消えたのである。指揮官は今後どうなるか分かった。

戦場でそんなことを考えていること自体が問題だったが、指揮官は目の前の事実から目を逸らそうとしていたのかもしれない。


 何者かの狙い済ました攻撃によって地面がえぐれているのだ。物資を守っていたはずの兵士が何処かに消えていた。それは死を表す状況であるのに、指揮官はそこに指揮所を立てた。

 指揮官は兵士をかき集めて叫んだ。


「地面を平らにせよ! 本国は直ぐにでも物資の補給をやってくれる!その時に迎えられるようにするのだ!」


 今やるべきことは逃げることであり、谷や洞窟に隠れることだった。


 ツルハシを運んでいた兵士は、空に不気味な影を見た。それは翼をもった奴隷で、どうやら昨晩戦いに出た者らしいと分かった。

 軍はすべての奴隷の特徴を記録していた。


 だが、降りてこいと指示を出しても降りてこないのである。 

 奴隷は思いきり翼を翻して宙返りをしてみせた。だから指揮官は残った翼持ちの奴隷に命令して連れ帰れと指示した。

 空を飛べるのは一部の奴隷だけだったため、殴る蹴るを行って怯えた奴隷を大空へあげた。


 空の上で奴隷達は何かを話すと翼をたたんで急降下した。三匹は美しい三角形を描いて降下するので誰もがそれに見とれた。


 空がまた、ゴウゴウと音を鳴らし始めた。

 



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