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リリィ

 今思い返しても、あの少年は異常だったと思う。

 子を無くし妻を殺され錯乱し色が見えそうなほど深い殺気を帯びた戦士に、砲の操作を担当する船員がまでまるで近づけない。


 その雰囲気のなかで少年は手製の地図を持ってきて笑っていた。


 その地図は精巧に陸地の地形を写し取ったもので、木材や粘土を使って作られ、ちょうど空から見た景色と重なった。紙の地図など見たこともなかった戦士達はこれならばと思った。そして、自分達が働いていた軍隊との違いを知る。軍隊では運ぶ場所を文字通り体で覚えさせられたのだった。むち打ちは当たり前でそれでも覚えられないと指を落とされた。飛ぶのにはいらない部位だからだ。


 この年、海岸線にはおびただしい量の補給拠点と前線基地があった。そこに物資を運んでいた戦士には、その地図を見て何が言いたいのか直ぐに分かった。敵の場所を教えろと言うことなのだ。


 勿論、まだ敵に囚われたままのものもいる。しかしその者達も自分の家族がどうなったか知ればこれから起きることを許すだろうと思った。


 解放された戦士は、一人残らずこの船に戻ったのだった。怪我をした者もすべてだ。それは大局を打ち破る戦槌がここにあると分かっているからだった。自らも身に受けたあれを敵にも……そう考えての事だった。


 敵の基地から500メートルの海上に近づいたとき、戦艦の一番、二番主砲塔合わせて四門が火を吹いた。


 元々戦艦は自分と同程度の装甲、主砲をもつ化け物を沈めるために建造される。かつての大艦巨砲主義は、あの国にはあの戦艦があるから戦争をするのはやめよう、といった考えを国の上層部に植え付けるほどのものであり、それまでの兵器とは比べ物にはならない戦略兵器だった。それは国の矛であり盾である。国の名前であり、威信そのものである。当然、砲弾に使われる炸薬は恐ろしいほどの量だった。


 悲しいかなこの世界の軍隊は敵を軽視した。奴隷として買われる先住民の主力武器とは弓矢と剣であり、藁を縛って作った壁でそのどちらも防ぎきれるために、拠点は開けた土地に置かれ、毎晩の酒盛りと宴が開かれていた。まるで見つけてくれと言わんばかりだ。人間には魔法があるので戦いはいつも一方的であり、先住民が頭に獣の耳を持つため、いつしか戦いはハンティングと呼ばれるようになっていた。


 戦艦の砲弾というのはそれ自体が巨大なために物凄い音がする。高速道路で窓を開けた時の音を何倍にも大きくしたような音だ。地割れを起こしたような音と言ってもいい。


 軍の指揮官はその異音に簡易テントの中から顔を出して外を見上げた。

 凄まじい轟音が頭上を越えていった。彼がそれをはじめて聞いた時、感じたのは恐怖だった。頭上をドラゴンの群れが飛んだのだと思った。そして、遠くの山が夕日のように赤々と照らされ、立っていられないほどの突風が吹き荒れた。


「ほ、報告します!リリィ消失!!」

「そんな馬鹿な話があるか!!!」


 リリィと呼ばれる拠点には1000人分のワイン樽と一ヶ月分の食料が、山のように並べられていたのである。置く場所が足りず、物資の上に物資を並べ、やっと運び込んだ。それがなくなるということは、作戦そのものが失敗することを意味していた。まさかそれが無くなるとは考えられなかった指揮官はリリィを見に行くことにした。

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― 新着の感想 ―
[一言] リリィを見に行く←愚か者過ぎて失笑しか出ない。 出来れば、囚われの翼種を味方につけたいけれども、そうも言っていられない。異世界とは言え、もう少し考えられないものなのか……無論軍人の方です…
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