白い光
この日、町には避難指示が出された。
これから始まる地獄の説明があった。
それは光であり、熱であると。
圧倒的な力であり、魔法では到底太刀打ちができないものである。それは太陽だ。
使用されるのは神であると。
神はこの町を悲しまれ、世界から消すことを決断された。これがもっとも正しいのだと考えた。
彼は科学の炎を使う決断をしていた。
核爆弾である。
最初に息巻いた兵隊たちが町に残ると言い出し、そして住民達もあとにつづく。彼らにとって魔法とは、誰にも負けることのない唯一無二の武器であり、それより上があることは想定の外、まさに夢物語だったのである。住民達は財産である奴隷を手放すことはなく、誰も逃げ出さないかにみえた。
そこに悪魔が現れるまで。
現れた二匹の悪魔達は地面を転げ回り、建物の戸に体を打ち付けて子供ばかりをさらっていった。それを追いかけるために奴隷たちが町を離れた。それを待っていたかのように、奴隷で栄えた町を白い光が包んだ。
それはマグネシウムを燃やしたような白く強い光で、瞼を閉じてもなお眩しい光だった。
世界から音が消える。まるで時が止まったように動物の鳴き声も、虫の羽音も全部が消え去って静まり返ったなかで、住民達はこれから起こることも知らず、世紀の大パノラマショーに感嘆の息を漏らし、ある者は筆を握って見たものを残そうとした。
瞬間。全ての建物の壁が脈打った。それは、静まり返った池に小石を投げるように何度も何度も波紋を生んだ後、ボッと燃え広がって物凄い轟音を轟かせて町のありとあらゆる物を吹き飛ばした。
中心部の温度は摂氏数千度。その温度は鉄も溶かす。異形の炎によるものだった。
立っていた人間は最も悲惨で、あるものは壁に叩きつけられ、家だった物の破片を全身に浴びた。又あるものは自らの長い髪の毛が顔や首にひっかかり、めり込んで止まった。さながらそれはボンレスハムを包む紐のようであったが、髪の毛の食い込んだ断面から伝う汁が残酷なまでの現実を突きつける。
800を超す家屋が一瞬のうちに灰になり、数千を越す生き物が悶えて地面に転がった。
鞭打たれるのを恐れ、酒場の影に身を埋めていた奴隷はその光景を地獄と称した。
自分の主人が鞭を振り上げたまま動かないでいるので、「もし、もし」と肩を揺するとそのままのしかかってきて、死んでいる。見れば背中は墨のように黒くなっていてボロボロと音を立てて崩れた。
やがて道には助けを求める人々で溢れかえった。服は焼けただれた皮膚とひとつになり、溶けた唇はだらりと顎まで垂れていた。
そんななかで、悪魔達は海の方に向かって土下座をしているのである。
彼らはどうやらこれがなにか知っているらしい。奴隷にはこれがなんなのかという素朴な疑問があった。12歳のほんの少女である。何人死んだだとか、これからどうなるかということは、全く考える余裕がなかった。
「あれはなんですか?」
「そのような言葉を使うでない。あの方は今、その力をお見せくださったのだ。我々にできるのは頭を下げることだけなのだ。子供よ。ゆめゆめ軽々しいことをいってあの方を怒らせてくれるなよ。ただ、頭を下げよ」
空から灰が降っていた。
なにもわからない奴隷はその灰の中で両手を広げてくるくると回っていた。
それが焼けて灰になった人間だと知ればそんなことはできなかっただろうが、彼女は知らなかった。爆心地には僅かな溶けた鉄部品以外に何も残っていないのだ。みんな燃えてしまった。
悪魔の黒い外套がすっかり灰色になる頃、小さな靴が灰の上に降り立った。
悪魔達はその小さな足にすがるように頭を下げた。
「ああ愛しい死よ。我が主。どうか冷たいその懐に彼らをお招きください」
「何人生き残った?」
「完璧なもの、20人ばかり。瀕死の者は数百です。いかがいたしましょう」