レストラン
最悪な事態はレストランに入った時に起きた。
レストランと言っても日本のそれとは比べ物にならない劣悪な物で、飯を食べ酒を飲むところなのに下水道の匂いが充満しているような所だった。
「おい、奴隷が人間の席に座るんじゃない」
耳を疑った。ここの若い店員は、平気でそんな暴言をうちの可愛子に吐き捨て、使ったばかりの雑巾を投げてよこした。顔にぐしゃりと命中する。しかも彼女はそれが当たり前という顔をして、床に座ったのだった。
「店員!!お前ちょっと来い!!」
「はい!お決まりですか?」
「お決まりだと!? 今帰ることが決まったとこだ!ボスを呼んで来いボスを!!」
「はぁ……何か気に障ることを致しましたか?」
「うちの奴隷になんてこと言いやがったこのボケが!!!」
俺は怒りに任せてその男の首を掴んだ。一瞬で跳ねあがる心拍数。この俺を誰か知らないのだろう。ただの金持ちのガキだと思ったらしかった。
「きちんと仕事をできないならこの仕事を辞めろ!」
「で、できますよ」
「お前今やったことを分かっているのか!?自分がそうされたらどう思うか考えたこと無いのか!?」
「私は糞奴隷ではありません」
「ああ、もう。そうはならないことを願っているんだな」
店主が出て来て目を丸くした。店主は奴隷商のトップが今だれか分かっていたようだった。
急いで店の奥から金の入っているらしい布袋を持って来て頭を下げた。
「こ、こいつは新米で、何も分かっていなかったんです」
「しばらく店がもつといいな。うちの社員は誰ももう二度とこの店を使わないだろう」
「お、おまちください」
もう話は終わった。床に座っている奴隷の手をとり優しく立たせる。
「ごめんね。嫌な気持ちにさせちゃったね」
「う、うう」
涙がつたう。悲しい。ごめん。すぐ出よう。
出口に向かうとウエイターが何も考えずに声を荒げた。
「オメエなんなんだよ!? 何様だよ!!」
馬鹿が。この街がなぜできたのか少し考えればわかるだろうに。奴隷を高く買う業者があったからこの街は栄えたのだ。つまりは俺の会社がこの町、ひいては国の経済そのものである。
「ご主人様。あの者はどの階級の奴隷に落としましょう」
「一番下、いや、金持ちのドラッグ中毒に売りつけろ。値段は任せる」
「はい、喜んで」
はー胸糞悪い。あんな奴は飼い主の糞を食わされて一生添い遂げればいいんだ。
事態を知った店員の悲鳴が森に木霊した。
もう遅いが。