特別な子供
一ヶ月ほどたち、俺は6才の誕生日を迎えることとなった。
「かささやかながら、我々から贈り物をしたいのですが、ご要望はありますでしょうか?」
という嬉しいオーロラからの申し出に、俺は『感情を教えてほしい』とお願いした。
それは前世では願ってもついに得ることができなかったものであり、俺が人間関係構築に多大なる苦労を必要とした理由でもあった。
僕はオーロラに、他人の気持ち、特に愛と心の痛みといった感情に疎いことを説明した。これは生まれついての物だったことも。
「つまり、呪われずに生まれてきたのですね?」
「呪い?」
彼女は姿勢をただしてゆっくりとこの世界の成り立ちを説明してくれた。それは、遠く昔の話であった。
ただの生き物だったものたちが神々となってこの世界を作り、そして呪われることで世界は壊れ始めたこと。
そして、その呪いこそが、愛であると。
この世界は愛によって壊れ始めていると言うのだ。
なんともロマンチックな話だなぁと思ったが、神様が人間の乙女に恋をした結果、子供を作れないことを嘆き、自分のからだの一部を女に埋めることで子供を作ったと。しかし腹を破って出てきたのは漆黒で、世界に死と闇が生まれたそうな。
それ以来、神々は呪いを解く方法を探して人々を殺して回っているとのこと。なぜなら、その愛は人によってかけられた呪いだから。とのこと。
解釈ですよね。死への解釈。人はまだ、永遠に生きているわけではなく、必ず墓場へと向かうのだ。それはどんな英雄も貧乏人も、お金持ちだって関係なく、そのゴールに行き着くのだ。それこそが、神々の傲慢で、無慈悲な罪滅ぼし。
「その神様は、きっと本当にその女性が好きなのでしょうね」
「?」
「だって、その人を探すために人を殺しているのですから」
何て素敵なラブストーリーだろうか。神様は、結局一人の女しか愛することができなかったのだ。殺したということは、殺せる距離にまで近づいてきたに違いない。きっとその人間の顔も見たはずだ。死にたくない、まだ生きたいと顔を歪めてすがる人間の顔に、かつての恋人を探す。何て美しいのだろうか。
もしかして、その呪いを消したいのもこの世界を元に戻して、自分の愛した女性が幸せに暮らせるようにするつもりかもしれない。と、自分の考えを話したところで、短い沈黙は続いた。
「もしかして、神様に会ったことがあったりします?」
「いや、まだ6年しか生きていませんから、僕は会ったことがありません。感情を教えてもらえますか?」
オーロラは静かに息をして「だめです」と答えた。
噂が広がるのは早かった。俺が神の求めた子供に違いないと皆噂した。なぜかというと、神様が求めたのは人との子供で、しかもそれは感情を持たずに生まれてくるはずという点に、俺は合致してしまったのだ。ちなみに俺みたいな人は二%いる。それはつまり、五十人に一人は俺とおなじ状態を意味し、本人や周りが気がついていないだけで、結構身近にいるというだけのことだ。ま、周りの皆はそれを信じなかったのだが。