火を司る巨神
アキラを先頭に、俺も暗闇の中へと静かに入って行く。
何処かに灯りがあるのか、薄暗く感じるそこは、全体的に広く、そして戦闘に適した場所だった。
(あの頃と一緒だな……)
後ろの両扉がゆっくりと閉まっていく音と共に、段々部屋が明るくなっていく。
俺は部屋全体を見渡していると、突然アキラが何かに気付き、叫んだ。
「下がるです!!」
「え?」
呆気にとられた俺は、アキラを見ると、目の前には、溶岩で作られた巨大な拳が、こちらに向かって来ているのが分かる。
ほんの一瞬。俺は反応に遅れ、防御、回避、共に不可と表示された。
アキラがそれに気付き、透かさずマジックシールドを前方に展開し、その攻撃を防ぐ。
だが、次の瞬間。
向こうの威力が強過ぎたのか、俺は身動きが取れないまま、後ろに吹き飛ばされた。
何処かの壁にぶつかり、かすり傷を負ったが、その場から自力で起き上がり、俺は鞘から太刀を抜いた。
すると目の前には、何とも特徴的な巨神が姿を現していた。
「何だよ。あいつは……」
無骨な機械の鎧を身に纏い、ゴツゴツとした溶岩で作られた巨大な両腕。
下半身は透明な球体で出来ており、球体の中では、力強い炎が燃え上がり、気球のように少し浮遊していた。
その巨神は俺達を上から見下ろし、当然のように吠えた。
『オオオォォォォォォ』
規格外の声に、思わず俺は耳を塞ぐ。
やがて巨神は、その場にいる俺達を認識すると、長いHPバー3本と名称が同時に表示された。
火を司る巨神 プロメテウス
「アレが火の神殿のボスです。私が足止めするので、ホムラさんは逃げるですよ」
「逃げるって……。あの巨神の攻撃からか。おいっ」
俺にそれだけを伝えて、アキラは高く跳躍し、プロメテウスの背後へと周り込むように姿を消した。
すると突然。
ズウンッと重い音が聞こえたので、音の聞こえた方へ俺は振り向くと、プロメテウスの上空から黒く歪んだ空間が現れているのが見えた。
(重力魔法か)
その重力がプロメテウスに触れると、まるで罠にかかったように、プロメテウスは大地に手を付き、跪くように倒れ込む。
その時。重力魔法の威力が強力過ぎたのか、激しい衝撃波が生まれ、それが原因で大地震が発生する。
徐々に地割れも発生し、以前の地形からかけ離れる程、変化し始めているのが分かる。
「おいおい。逃げてる場合じゃないだろ。〝魔王宝具 雷虎流星〟」
雷虎流星とは、主に足に使用し、素早さと回避性能を底上げする能力。
壁を跳躍して移動したり、足場を無視して無理矢理駆け抜けたり、忍者に似た移動手段として、出来る範囲、多種多様に使える技。
地形変化で出来た崖のような道を跳躍し、 天井とは程遠いが、俺は頂上と呼べるべき場所まで辿り着いた。
下を覗けば、プロメテウスは重力魔法の影響で、今もその場から動けず、跪いていた。
(今迂闊に攻撃しても、あの鎧で防がれるだろうし、重力魔法が解ける可能性もあるからな。どうしたら…………)
俺はプロメテウスの攻略法が分からず、ただただ模索していた。
(確かfreeでのプロメテウスは、胸の中央にある水色に光る宝石を壊せば、弱体化し、止めを指すといったシンプルな倒し方だったような……)
このプロメテウスもfreeと同じような宝石が胸に存在したが、姿まで酷似している訳ではない。
だが、もしfreeのような弱体化ではなく、鎧を外せるといった方法だとしたら、戦況は大きく変わるだろう。
(まぁ、 試す価値はあるな……)
周りにある小石を拾い、俺はプロメテウスの背中から胸にあった宝石の位置を予想する。
魔王宝具、桜花一閃には貫通能力を付加させる効果がある。
小石を太刀に例え、貫通能力を付加させてみる。
「〝魔王宝具 桜花一閃〟」
成功。小石はダーツような形状に変化した。
俺は狙いを定め、ダーツを放つ。
数秒後。プロメテウスの背中の予想していた場所にパスッとダーツが刺さる。
すると、ダーツは溶けるようにプロメテウスの体内に侵入したが、微妙にHPが削れただけで特に何も起こらなかった。
「失敗か……。気を取り直して、次だな」
また小石を拾って、2本目のダーツを作り始める。
物体があるから想像し易いのか、2本目の付与も簡単に成功した。
次こそは外さないように、狙いを定めようとした、その時。
パリンッ。
微かだが、遠くからはっきりと宝石が砕け散る音が聞こえた。
すると、プロメテウスが身に着けていた無骨な鎧が全て外れ、ポリゴン粒子となり、消滅した。
さっきの攻撃では、微動だにしなかったプロメテウスのHPバーが、今の攻撃で、丸々1本分消し飛ぶ。
上からプロメテウスの周囲を見ていると、今まで姿を見せなかったアキラが、プロメテウスより少し離れた場所で、何かを伝えようと口を動かしている。
だが、あまりにも距離が遠過ぎて、俺には全く聞こえない。
もし、アキラがまた逃げろと伝えようとしても、俺からして見れば、信憑性が見当たらない。
それは、今、俺がいるこの場所は、プロメテウスよりもかなり距離が離れているし、まず狙われる心配はないに等しい。
それに、どんな攻撃をされたとしても回避は出来るし、対策もある。
プロメテウスは、下半身の球体から巨大な眼がギロリと開く。
するとその眼は、俺の方向を睨みつけると、何の動作も見せずに、容赦なく放った。
『〝白キ閃光〟』
まず俺は、対策として防御力を上げる焔神楽を使う。
「〝魔王宝具 焔〟」
ズキンッ。
頭に電流が走り、俺は倒れるように地面に手が付く。
(MP切れ……?)
魔王剣技と魔王宝具には、回数制限はあるが、MP消費など根本的に存在しない筈だ。
(なのに、何で?? どういう事だ)
「〝魔王宝具 焔〟」
そう発した瞬間。突然、俺はダメージを受ける。
これは、制限によるダメージ。
だとしても、焔神楽が使えない理由は、どこにも見当たらなかった。
「まさか、あの白キ閃光。相手の魔法を封じる力でもあるんじゃ……」
(だから、逃げろ、か……)
白キ閃光が近付くにつれて、俺は何も出来ない自分に対して、段々諦めかけた。
これは、ゲームだ。
デスゲームじゃないんだから、もう一度どこかで復活すれば良い。
アキラには悪いけど……。
それもゲームの醍醐味だろう。
俺は、目を閉じた。