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遅れた‥
◇受付嬢
話を聞き終わり、帰ろうとするカルネさんに向かって声をかける。
「そういえば、いつ出発する予定なの?」
「え?明日の朝の鐘が鳴る頃ぐらいに出発予定ですが…」
「なら…明日の朝の鐘が鳴る頃に、東門集合でどうかしら?」
「特に目的もないのでいいいんですけど、どうして東門なんですか?」
たしかに…当然の疑問だと思った。
予定もなく歩き回ってそうに見えたから…って言うのは失礼だよね。
「ここから東に行ったところあたりにいい依頼が多いB級ダンジョンがあるのよ」
「なるほど…わかりました」
「それじゃあまた明日会いましょう」
私は笑顔で手を振って見送り、溜息を吐く。
「はぁ~監視って言われても…どうすればいいのぉ?」
むちゃぶり、ではないですか?
本部の皆さん…上司の方々…
◇カルネ
翌朝、東門にて
東門につくと、彼女はもうすでにいた。
いつもの硬い生地の受付嬢の制服ではなく、冒険者らしい動きやすい軽めの服装…ところどころ、金属が使われているのは彼女の戦闘スタイルが影響しているんだろう。
広場のベンチに腰掛ける彼女は、控えめに言っても…とても綺麗だ、と思った。
…そして、なんとなく…受付嬢の格好よりも、冒険者の姿の方がずっと彼女に似合っている気がした。
「…自己紹介からでどうかしら?」
声をかけると、彼女は唐突に言い放つ…
「はい?」
「えっと、私の名前はセレナ、25歳、女、エルフ、独身よ」
独身か、彼女の年齢だと周りに急かされそうだけど…
恋人とか、居るのかな…機会があったら聞いてみようかな?
「へ?ああ、僕の名前はカルネ、24歳、男、人族、独身ですが‥独身って情報、要ります?」
「間違えただけよ、朝食は食べたかしら?」
間違い?良く分からない、彼女は何を目的にしているのか…
というか、なんだか目が座っているような気がする。
…なんか無理してる?
「朝食はまだですが?」
「そ?それじゃあ、食べながら話しましょう」
なるほど…それなら行こうかな。
別に断る理由もないし、朝ご飯を食べてないのも事実だからね。
◇セリナ
移動中にて
「それ、やめましょ?」
店に向かっている途中で私はカルネさんに声を掛けた。
「それって何ですか?」
「敬語の事よ、これからは二人で旅をしていくわ
だから仲良くなるために素の口調で話しましょ?」
「それなら、セレナさんも、素の口調で話してください」
「ふへ?ば、ばれてたのっ?」
優しげに目を細めると、彼は、彼は…
「ふっ…だって、初めて会った時に素が出てましたし…」
私にとっての爆弾を落としました。
「…う、うそぉ…なら私があんな口調でいた意味は!?」
「…あんまり無いですね?というか、バレてないと思ってたんですか?」
彼はクスクスと笑いながら、可愛らしくお腹を抱えた。
…カルネさんも、普通に笑うんだ…
「が、がっかりしなかった?」
「えーと…何がですか?」
「私って…く、クールな見た目らしくて、
なんか思ってたのと違うって言われたことがあって…
あの、カルネさんはがっかりした?」
「何がです?」
「あ…」
がっかりなんてしてないのか、嬉しい。
見た目から何かを決めつけることをしてない…ってことなのかもしれない。
きっと、カルネさんも見た目で苦労したんだよね。
あ、ついなみだが…どうしよう、カルネさんに迷惑かけちゃう。
「っ!?」
カルネさん、気づいちゃった。
どうしよう、どうしよう…とにかく謝らなくちゃ…
「ごめ、なさっ…」
少し困ったような顔をしながら、そっとハンカチを差出してくる。
ハンカチ持ってるの?何気に準備いいなぁ…すごい。
「…まあ、僕も少し気持ちはわかります
僕はこの見た目なので、女の子と勘違いされたり、子どもだと思われたりして…」
その言葉で私は初めて会った時間違えたことを思い出す。
謝るの忘れてた!
「初めて会った時、間違えてごめんね…」
「ああ、まぁ今はそんなに気にしてないのでいいですよ」
気にしてないと言われて、ふと涙が止まる。
優しぃ…
「ありがとう…あ、そこは右よ」
「わかりました」
結局、カルネさんの口調治らなかったな…
「ここが朝食専門店の、【あさ・ごはん】よ」
「そんな店…あるんですね」
カルネさんは少し不思議そうな顔をしながら【あさ・ごはん】の看板を見ていた。
そんなに変な名前だったかな?
たしかに…珍しい名前ではあるよね。
「そうよ、さ、入りましょう?」
「はい」
◇カルネ
【あさ・ごはん】にて
それにしても、こんな店あったんだ…
朝食専門店ってなかなか無いよね。
…素の口調か…そう簡単に出せるならもう出してるし、セレナさんも元の口調に戻ってるし…
あ、これおいしそうかも、これにしようかな…
「頼むものは決まったかしら?」
「はい、これを…」
「わかったわ」
「どうやって頼むんですか?」
「…少し待ってくれるかしら?」
「え?はい」
「あのー少しいいですかー?」
「ハイハイって、セリナちゃん!ご注文は?」
セリナさんと知り合いみたいだけど、誰だろ?
見た目的には、20歳前後かな。
ポニーテールに明るい笑顔…モテそう。
「ホットサンドとコーヒーのセット一つと、
ホットサンドとソフトドリンクのセットお願いしまーす!」
「かしこまりましたっ!飲み物はいつものでいいよね?」
いつものって、そんなに来てるんだ…
だから、店員さんと知り合いなのか。
「はい、いつもので!」
「かしこまりましたー!ところで、その子は?」
その子って、僕の事?
「今、一緒にパーティーを組んでるの、多分私よりも強いよ」
「え?セリナちゃんより強いって…すっごいね!」
そういえば、セリナさん…元Aランクって言ってた気がする。
…どのぐらい強いんだろう。
「うん、それで、私旅に出ることになったんだよ…」
「あ、そっか…じゃあもう…」
なるほど、ここに来たのは別れの挨拶も含んでるのか…
「おい!注文取ったなら早く戻って来い!」
「おっと、もう行かなきゃ!じゃ、またいつか!」
明るく別れて、行く彼女のさっぱりした様子は…また来たくなるような雰囲気がある。
…店員さんもいなくなったし、セリナさんと話そうかな?
「嵐みたいでしたね」
「ああうん、確かにそうかも」
セリナさんの口調、そのままだ。
僕も、もう少し頑張ってみようかな?
「口調…もう少し頑張ってみま…みるよ」
「うん、ありがとう!」
あ、笑った。
そういやセリナさんって美人だよな。
まてよ、これからセリナさんと二人旅なのか?
こんな美人さんと二人きりで旅って…
いや、レーもいるし…でもレー、ほぼ寝てるけど。
そんなことを考えているうちに食事が届き、僕たちは食べ始めた。
さて、少しずつ物語は進んでいきます。