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プロローグ

初投稿します。楽しく読める小説を目指しますので、よろしくお願いします。

 貧乏。それが嫌だった。

 

 弱者。それが嫌だった。


 誰かに使われて、誰かに毟り取られて。それでも笑顔を絶やさず、私を愛してくれる両親が、たまらなく好きだった。


 だから、私が成り上がろうと思った。


 知恵を蓄えた、体を鍛えた、苦労もあったが、優秀な子供として、両親の期待にどんどんと応えていった。


 まず、最初の壁が訪れた。


 才能。それは、私には備えられていない物だった。


 だが幸いにして、その壁は努力で乗り越えられる物だと知った。天才よりも劣る私は、努力を以て秀才と化した。


 次の壁は、時間だった。経験と言っても良い。


 私と同じ程度の能力を持つ、私以上に経験を積んだ者は、やはり私より優れていた。

 私は虎視眈々と機会を待った。下から上を見上げる者は、上から見下ろす者よりも、『そういう目』は優れているのだろう。


 私は僅かな機会をモノにして、頭上に立つものと肩を並べた。


 しかし、限界が訪れる。


 最後の壁は、『生まれ』だったのだ。


 同じ能力、同じ経験ならば、家の規模やコネクション、評価によって上下が決まるのだ。

 悔しさに、泣いた。


 丁度その頃に、両親が他界した。私を私たらしめた紐が、プッツリと切れたしまった感覚。

 両親は、幸せになれていただろうか? そんなことばかり頭に浮かぶ。こればかりは、そうであれ、と願うしかない。


 私は結局、登り詰める事のないまま、職を辞した。


 両親に預けていた金は、半分以上が遺されていた。自分自身の蓄えも、これから生活していく上では十分過ぎるほどだった。


 いっそのこと、鍛え続けた身体で、何かしらのプロにでもなってみようかと思ったが、始める年齢が遅過ぎると、各所で断られた。


 そんな私を、必要としてくれた者たちがいた。


 折れてしまった者、落ちてしまった者、必要とされなかった者、表に居られなくなった者。

 私はそういう者たちを受け入れた。彼、彼女らを教え、導き、鍛え、支援する。


 皆は決して落伍者では無かった。至らない自分に、思い悩む者たちだった。

 既にその道を通った私だ、必要とする力を皆に与えていった。


 そうして、押しも押されぬ一大勢力となっていった頃には、すり寄ってくる者も多く現れ始めた。


 かつて彼らを裏切った者、押し潰した者、騙した者、切り捨てた者。

 私は先頭に立ってあらゆるモノと戦った。皆は既に、お前達が触れて良いモノではないと。


 そうして、力尽きたのだろう。


 多くの瞳が私を見つめる、十分に育った彼らは、どこに出しても恥ずかしくない英傑揃いだ。


 ああ、今になって両親の事に答えが出た。


 きっと、二人は幸せだったのだ。だって、私は今、こんなにも満たされている。


 視界がぼやける、どうだ? 私は笑っているか?


 沢山の者に『父』と呼ばれた男はこうしてこの世を去り――






   『その才覚、消え去るには惜しいの』







 ――際に、黒い手に掴まれた。







▷▷▷▷▷






 明るい夜空の様な空間に、美しい女が浮かんでいた。肌は透けるように白く、しかし、両手両足は末端にいくほど、漆黒と言えるような黒に染まる銀髪の女性だ。


『見惚れるのも良いが、妾の話を聞いてみんかの?』


 声を掛けられてハッとする。抗い難い魅力と、犯すべきではない神聖が、同居するような美しい声。

 これは確かに私が見ている光景で、私が聞いている声だ。だが、


「何故…?私は死んだ筈では…?」


『間違っておらぬ、其方は多くの者に見送られ、幸福と安らぎの中で逝った。』


 女性はそれを肯定する。不思議となんの違和感もなく、私もそれが真実だとかんじられる。


「つまるところ、ここは」


『左様、死後の世界というやつじゃ。久々に良い魂を見つけたものでな、他の何某に取られる前に、妾が拾ったのじゃ。』


 存在すら確認されていない魂を拾い上げる、そして、この超次元的な場所、更には、目を奪い続ける美貌と存在感。


「あなた様は、神、いえ、女神様であらせられますか…?」


『ふふ、察しの良い者は好ましい。だがまあ、そう畏れるな、妾は其方をスカウトに来たのじゃからな。』


「スカウト、ですか?」


 女神から発せられる、スカウトというやや俗的な響きに、少しばかり唖然としながら続きを待つ。

 そんな私の様子がおかしかったのか、女神はクスリと笑った。


『其方も随分と気に入っていたではないか、ほれ、若者達に書物を大量に買い与えていたであろう?』


 そう言われて思い当たるのはライトノベルの数々。特に、成り上がりものを好んでいた。かつての私の願望でもあったし、彼らも己の境遇と重ねたのか、我先にと読み漁っていた。


 非現実が現実となる。まさか、そんな事が起こり得るのか? 頭の中はこんがらがっていたが、一言だけスッと言葉が出た。


「異世界、転生…?」


『然り、其方は神に選ばれし者! あらゆる英雄の尽くが望む座に到達せし者! あらゆる英知を求めるが良い! あらゆる力を振るうが良い! 妾がその全てを許そう! 望むままに振る舞え! 心の向くままに生きよ!』


 その言葉に心が震える、それこそ、魂を鷲掴みにされたような。大袈裟な手振りでそう言った女神はしかし、肩をガックリと落とした。


『とまあ、大言壮語を吐いてはみたが、妾はこちらの世界の神としては最も下級に位置する者、其方が得られなかった、生まれ、程度しか与えてやることはできぬのじゃ。すまぬ。』


「な、何を仰いますか、生まれこそ私たち唯人にはどうしようもありません! それを与えて頂けるなら感謝こそすれ、御身が謝られることなど、決して!」


 慰めのように思わず口をついて出た言葉だが、本心だ。生まれの重要さを私は嫌という程によく知っていた。

 女神は眩い物を見るように目を細め、口には笑みが浮かぶ。


『そうかそうか、では、妾達の世界がどのようなものか聞かせよう。それを聞いた上で、己の出生を考えるとよい。』


 気を持ち直した女神によって、私が生まれる世界の話が始まる。


 聞けば聞くほどに、まるでファンタジー小説のような世界だ。

 その中でも特に心に残ったのが、すべての生きる者は生物として同列、それは人間(ちなみに人間ではなく普人種という)と魔物種(普人種とは全く違う生態系を持つ所謂モンスターの様な種族)でも同じ事。

 

 そもそもが私のいた世界とは異なり、文字通りの千差万別、生き物としての平均など存在しない。むしろ、元の世界の生き物は同一規格の量産品である、とまで言われてしまった。


 そして全ての話を聞き終わり、私はある決意を胸に抱いた。


『ふむ、取り敢えずこの程度の知識が有れば問題あるまい。長々と話してしまったが、己の行く道は決まったかの?』 


 その質問を受けて、意を決して答える。


「女神様、無理な願いだとは重々承知で希います。」


 これから言う事は本心だ。けれど、完全に心からの願いでは無い。


「もし可能なら、魔物種に生まれさせては頂けないでしょうか?」


 本当は、生前に果たせなかった事を成したい。優れた生まれで、優れた能力を得て、大凡個人の限界まで、上を目指してみたい。

 だがしかし、私はきっと同じ生き方を選んでしまうだろう。私はあの幸福を知ってしまった。

 野望や向上心に、何処かで()()を付けてしまうだろう。

 

 我が事ながら度し難い。せっかくの機会を不意にする様な願い。女神も呆れてしまうだろう。


『…本当に、魔物で構わぬのか?』


 だが、私の予想とは違い、女神は少しばかり嬉しそうに問う。


『其方の才覚ならば、何処までも高みを目指せよう。辿り着けなかった場所に立つ事ができよう。多くの者が羨み、慕い、後に続こうとするだろう。』


 言葉とは裏腹に、止めようとする意思は感じられない。それどころか顔を綻ばせて、再び手振りすら付けて話す。


『その様な未来を捨ててまで、魔物になる覚悟はあるか? その生を、生き抜く程の価値はあるか?』


「あります。たとえどの様な場所でも、境遇でも、私は幸福を見出しましょう。己の生に尽力しましょう。私は」


 そこで言葉を切る。この先は、生前に一度も口にはしなかったが、私の人生の柱たるものだから。

 可笑しそうに微笑む女神の目をしっかりと見詰める。


「私は、後悔だけはしないと、決めている。」


 少しの沈黙、そして、溢れる様な笑い声。


 女神は両手を大きく広げ、高らかに笑う。


『よかろう! 其方の願い、確かに聞き入れた! 其方が何処に居ようと、何をしようと、妾が許そう、妾が祝福しよう!』


 私と女神から、光が放たれる。それは緩やかに交差し、再び二人の体に戻る。

 そして私は、急激な眠気に襲われる。


『少しの間、眠っておれ。次に目覚めた時、其方の新たな生が始まる。女神イルルシャートが、其方の行先に幸多からん事を願っておる。』


 柔らかく笑う女神の手で瞳を閉じられ、私の意識は闇へと落ちていった。






▷▷▷▷▷







 夜空の神域で、女神イルルシャートは頭を悩ませていた。


『ううむ、決まらんのう。』


 悩みの対象は、眠りについている1つの魂だった。


『あやつの魂の位じゃと、どうしても高位の魔物になるが、せめて人型の方が良かろうしのう。』


 人の間で言われる、所謂『徳』が高ければ、魂もそれだけ強くなる。

 言うまでもなくあの魂は善なる物で、多くに慕われ、また慕っていた者たちまでが高い徳を得ている。

 故に、更なる徳があの魂に集まり、こちらの世界準拠で言えば、英雄や聖人となる程の位を得ている。

 それを魔物に適応すると、高位の魔物、つまり、大型で特殊な力をいくつも持つ者になり、それだけ姿形が人とはかけ離れてしまう。


『人で有れば勇者にすらなったであろうに、馬鹿な男じゃのう。』


 辛辣な言葉を吐きながら、その音は優しく表情は穏やかだ。


 女神イルルシャートは、死を司る女神だ。同時に魔物達の神でもある。

 当然、信徒は少なく、命を神聖視する者達からは忌み嫌われている。


 そんな中で、自分が気に入った魂が、自らの意志で魔物になりたいと言った。


 イルルシャートとしては、彼が唯一得られなかった物を与えるだけのつもりだった。そしていつか自分の事を忘れてしまったとしても、彼が幸せならそれで良いとさえ思っていた。


『ふふ、本当に、愚かな男じゃ。』


 だからこそ愛おしい。だからこそ、彼の本当の願いに近づけてやりたくなる。


『ん、待てよ? そういえば設定だけして、存在しておらぬ魔物がおったな。む、むむう。いやしかし、流石にのう。』


 その魔物の詳細を見て、少しの間うなる。


『…まあ、あやつなら決して悪用はせぬだろう。本人は否定するじゃろうが、恐ろしくお人好しじゃからのう。』


 





 







――こうして第三の『災厄』は、世に放たれたのだ。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 導入部分の畳み掛けが良かったです [一言] 続き楽しみです
2020/03/10 00:35 退会済み
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