厨二病全開
俺の名前は日向奏多。
俺は今日。
古い洋館のトイレが古くなっているからと修理を依頼されたのでやってきた。
何のことはない。
ありきたりな古い型の洋式トイレの便座を交換するという、非常に簡単な仕事だ。
洋館は売りに出されていて、リフォームされる前の状態だった。
もう何年も「売家」の看板が下がっており、庭の植栽は伸び放題。
恐らく、ある程度改修してから再度値段を付け直すつもりなんだろう。
俺は、不動産屋の担当から書いた通り、水道メーターから鍵を取り出すと、玄関を開けた。
そして、前もって見せられた間取りの通り、二階に上がる階段横にあるドアを開け、中に……
入ろうとしたら地震が起こったんだ!
ミシミシと揺れる建物!
俺は思わず道具を離して床の上に縮こまってかがんだ。
あいにく、廊下のど真ん中だから隠れられる場所とかなかったんだ。
天井が崩れて来たらガチでアウトなんだが、その心配はよそに、じき揺れは収まった。
で、顔を上げたら目の前に例のトイレがあった。
「ん?」
俺は手元を確認すると、ウォシュレット便座と愛用の道具箱。
そして……
「お前……、誰だ!?」
なぜか怪しさプンプンの鎧や甲冑のコスプレ軍団と出くわしたってわけ。
「いや、誰だって言われても……水道屋ですけど?」
「水……、何?」
誰だと聞かれたからそう答えたんだが。
一番先頭の鎧の男は、
「貴様! 水魔術で我らを葬るために現われたのか!?」
は?
厨二病なのか、こいつは?
なんだよ、水魔術ってさ?
はっはーん、さては中世ヨーロッパを舞台にしたファンタジーのコスプレだな?
何だよ、あの不動産屋。
変にごますりながら仕事のこと話すから勘ぐったけど。
実はこんなイベントやってんのかよ。
だから言ってやったよ。
俺は忙しいんだからな。
「あのさ、あんたらは遊びかもしれないが俺は仕事なんだ。あんたらの楽しみを邪魔するつもりはないからあっち行っててくれ」
「あ、遊びで我らの邪魔をしに来たのかぁぁぁぁ!!」
は?
いやいや、何言ってんだよ!
俺は仕事だっつてんだろ!
「いや、だから。俺はここのトイレの便座を交換しに来たの! 仕事なんだよ、し、ご、と!」
「こ、この館の主人、ティーレ様を殺しに来ただと! 貴様! やはり『ラの国』の者かぁぁぁぁ!」
いや、知らない!
誰! そのティーレ様って!
聞きようによってはトイレだけど!
交換がイコール殺すって、どんな耳してんだよ!
「貴様、生きてこの館を出られると思うな!」
そうして、連中は構えた訳だよ。
ははは、全く。
厨二病も、ここまで来ると笑いが出ちまうぜ。
「っるせぇんだよ。いいから遊びはあっちでやってくれ。俺は仕事だ」
ともう一度トイレに振り返ったところで周りを囲まれたって訳。
で、パイレン手にしたら、何だかこいつらの殺気っていうの?
急に雰囲気が重苦しくなったんだよね。
芝居染みてるようで、割とガチな感じは何でかな?
んー?
こりゃ、請求書割増だな。