目の前にはボットン……
食事中の方。
すいません。
ちょっと理解しがたい状況が目の前で起こっている。
俺の名前は、日向奏多。
水道設備関係の仕事をしている、この業界五年目の自称「期待のホープ」だ。
俺はある物件のトイレの改修を頼まれたので、朝一番に現場入りしたんだが……
ちょっと、おかしいことになっていた。
目の前には座って用を足すタイプの便器がある。
まぁ、トイレの改修だからな。
現場がトイレなのは間違いない。
そして、俺の手には日本が生み出した文明の極みとも言えるもの。
日本人がその技術の粋を集めて開発されたスーパーテクノロジー。
おしりに温かく、人に優しい、人類の文明の極みとも言える一品。
ウォシュレットがある。
と、こ、ろ、が、だ。
これはどうしたことか。
目の前の便器は前述した通り、座って用を足すタイプだ。
いわゆる、洋式ってやつだな。
便座もきちんとある。
だが、それに繋がる水道パイプが見当たらない。
フラッシュバルブもないし、水を貯めるためのタンクもない。
中を覗き込めば真っ暗闇がポッカリと口を開けているではないか。
そこで俺は気が付いた。
これはあれだよ諸君。
古来から日本の家屋にはなくてはならないもので、穴を掘って屋根と壁を付ければ完成という、単純かつ機能的。。
今では見るのも珍しくなってしまった、ボットン便所というやつだ。
絶滅危惧種に相当する貴重なものなのだが、それが何故か俺の目の前にドン! と鎮座している。
そして、俺の手には、本来付けるべき便座にあてがうはずのウォシュレットが握られている。
これのどこが理解しがたい状況かって?
そりゃ、あれだよ諸君。
取り囲まれているのさ。
鎧や甲冑に身を包んでいて、槍や剣を俺に向けてくるコスプレ集団に。
それも、何故か血まなこになって俺を睨み付けてくる……
な?
理解しがたいだろ?
「す、すいません。そんなに見られてたらやり辛いんですけど」
俺が気まずそうにそう伝えると……
ガチャリと槍が距離を詰めてくる。
俺は冷や汗をかきつつも、近くにあった道具箱からパイレン(パイプレンチ)を取り出し、握った。
瞬間!
ガチャリと物々しい音がトイレの中に響く!
あぁ、俺はこれから一体どうなるというんだよ……