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二度目の人生はロリ女神とともに  作者: 楽観的な落花生
第4章 ゼロ距離少女ははなせない
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第38話 『ラブコメの予感』


 ——その後、駆けつけてくれた真綾まあやとハナに手伝ってもらい、どうにかこうにか脱出に成功して。


 場所を廊下から移し、真綾の私室にて。


 とりあえず事態が落ち着いたところで、智悠ちひろの「話をするぞ拒否権はないわかったかゴラ」との提案が受諾され、話し合いの席が設けられた。


 参加者は智悠、真綾、そして件の体当たりおっぱい少女の三人。


 真綾と彼女の女子組が並んで座り、ローテーブルを挟んだ反対側に智悠が座った形である。


 助けてもらった身で申し訳ないけれど、ハナがいると何だかややこしいことになりそうな予感がしたので、彼女には先にお風呂に入ってもらっている。


 この短時間で、危機管理能力が格段に上昇した智悠だった。


「——で、真綾ちゃんよ。この子は一体何なんだ?」


 テーブルに両肘を立てて手を組んだポーズで、少女を視界に映しながら重々しく尋ねる。


 真綾は隣を指し示して、


「この子は私の友達のひわ……」


「ちょい待ち、まーやちゃん。大丈夫だよ——自分で、言えるから」


 おそらく名前を口にしようとしたであろう真綾を遮り、少女は一世一代の告白をするかのようなテンションで、言った。


「はじめましてお久しぶりですいつもお世話になってます! わたしの名前は樋渡ひわたしかえで。智悠先輩の智悠先輩による智悠先輩のための後輩でっす!」


 果たして、体当たりおっぱい少女——もとい樋渡楓は、そんな風に名乗りを上げた。


 あざとさ全振りの横ピースとウィンクのおまけ付きで。


「——で。真綾、これは一体全体どういう状況だ?」


「ガン無視ですかっ!?」


 信じられないものを見る目を向けられた。


 むしろこちらが問いたい。


 どういう思考回路をしていれば、こんな自己紹介に反応してもらえると思えるのだろうか。


「ちょっとちょっと! 可愛い後輩の渾身の自己紹介をスルーだなんて、先輩ってばどんな教育受けてきたんですか?」


「変人の自己紹介はスルーするようにって教育を受けてきたんだよ。水卜みうらといいお前といい、何で僕の周りの人間は奇抜に自己を紹介したがるんだ。で、真綾、こいつは何なの?」


「こいつ呼ばわり……! でもでも、他でもない先輩に呼ばれるならそれも本望! あっ、やば、興奮してきた……」


「マジでお前何なんだよ。恐いよ、ただただ恐い……」


 こんなにハイテンションなのに恐怖を抱かせるキャラクターは初めてだ。


 頬を染めながらブルブル身を悶えさせる楓に引いていると、隣の真綾が口を開いた。


「楓は友達だよ。同じクラスで、最近仲良くなったの」


「トモダチ……」


「うんそう、友達。知ってる? 仲が良い人同士って意味なんだけど」


「『友達』の意味がわからなかったわけじゃねえよ。おいやめろ、今お前がボケに回ったら収拾がつかなくなる」


 ただでさえ楓でお腹いっぱいなのだ。


 これ以上面倒くさい奴が増えたら流石に手に負えない。


「……つーことは、アレか。お前は、普通に家に友達呼んで遊んでたってだけか」


「そうそう。ファクトリーファクトリー」


「工場?」


 おそらく『イグザクトリー』と言いたかったのだろう。


 これが今時の高校一年生の英語力である。


「適当にガールズトークしてたら、玄関から音がしたからさ。んで、『お兄ちゃん帰ってきたみたい』って言ったら、楓が急にスタンバイし出して……」


「レディゴーした、と……なるほど、そういうことか」


 真綾の大雑把な説明で大体の状況は把握できた。


 頷いて、楓の方を見る。


 黙って兄妹のやり取りを眺めていた楓は、智悠の視線に気づき、にこぱーっと笑んだ。


「えっへへー。智悠先輩が帰ってきたってわかったら、いてもたってもいられなくなっちゃって。気がついたらバイブしてました」


「人ん家で何してんだ、お前は」


「間違えました。ダイブしてました」


「どっちにしろ同じツッコミだよ。まったく、お前は僕を何だと思ってるんだ」


「もち、憧れの先輩ですっ!」


 赤茶色のサイドテールを揺らし、清々しいくらいに断言する楓。


 アコガレノセンパイ。


 まったくもって身に覚えのない後輩の言葉に眉を顰めた智悠だったが——彼は見逃さなかった。


 智悠を褒め称える楓を横目にして、隣で真綾がニヤニヤと嫌な笑みを浮かべていたのを。


 その既視感のある妹の笑顔を見て、兄は悟る——これは、真綾お得意の悪ふざけだ。


 ハナが家に初めてやって来た時もそうだったが、真綾は事あるごとに悪知恵を働かせて兄をからかってくる。


 これまでは直接的な手を使っていたのに、まさかここにきて関係ない友達を絡めてこようとは。


 おそらくこの樋渡楓という少女は、真綾にあることないこと吹き込まれたのだろう。


 智悠を『憧れの先輩』と宣っているところを見るに、おそらく小日向智悠がいかに素晴らしい人間か、とか、そんなところ。


 そして、後輩女子に持ち上げられてドギマギしている兄を見て愉しむ——まったく、何が面白いのかさっぱりわからない。


「……まあ、それだけであんな行動に出るこの子もどうかと思うけどな……」


 身体中を揉みくちゃにされた記憶を思い起こしながら、その犯人にジト目を向ける。


「何ですか先輩、そんなにわたしをじっと見て。……あっ、もしかして視姦ってやつですか? 楓ちゃんの柔らか〜いボディを思い出してくれてるんですかぁ?」


 恥じらいもせずにそう言って、楓は自身の豊満な胸をギュッと寄せる。


 ボタンが上から三つほど外されたブラウスの膨らみが、綺麗な谷間を形成した。


「全然違うから、早くそのメロンを仕舞え。ったく……、真綾、別にお前の交友関係に口出すつもりはないけれど、もう少し友達は選んだ方がいいとお兄ちゃんは思うぞ」


「それを本人の前で言っちゃうのは流石にどうかと妹は思うよ、お兄ちゃん」


「先輩ひどっ! わたしが何をしたって言うんですか。何も変なことなんかしてないじゃないですかっ!」


「少なくとも、僕は現時点で君の変なところしか見てないよ」


 言動は言わずもがな、この樋渡楓、見てくれもなかなかに凄まじい。


 赤茶色の髪、リボンがゆるゆる、胸元もゆるゆるのブラウス、もう少しでパンツが見えそうなほど短いミニスカート。


 外見だけを見れば完全なる不良少女だ。


「このままだとうちの妹に悪い影響が出かねん」


「まったまたぁ。そんなに心配しなくてもダイジョーブですって。まーやちゃん良い子だし」


「そんなことはこの僕が一番よくわかってる」


「お兄ちゃん……!」


 妹が感激の眼差しを向けてきた。


「僕が言ってるのはそんなことじゃあない。もし真綾がお前との胸囲格差で塞ぎ込んだりでもしたらどうする! お前は責任を取れるのか!」


「お兄ちゃん……?」


 妹が侮蔑の眼差しを向けてきた。


 どうやら何かを間違えたらしい。


「とにかく、もう八時も過ぎてるし、そろそろ帰りなさい。門限とかあるだろ?」


「ウチでは相手方が『もう帰ってくれ……』って泣くまでが門限って教えられてます」


「どんな家庭だ。図々しいにもほどがあるだろ」


「それがわたしの取り柄なので!」


「捨てちまえ、そんな取り柄。いいから帰れ、でないとこっちから閉め出すぞ」


「やーい、先輩のいけずー」


「悪い、僕としたことが台詞を噛んじまった。絞め殺すぞ」


「ガチの目だっ!?」


 流石に命は惜しかったようで、「仕方ないかぁ」なんてぼやきながらも、楓はお暇する準備をし始めた。


 三人揃って玄関まで行くと、彼女はくるりと振り返り、


「ではでは、今日はこれにて失礼します。まーやちゃん、まったね〜」


 ひらひらと手を振る彼女を見て、これでようやく解放されると智悠が安堵の息を吐いた——その時だった。


 唐突に、楓は、智悠の耳元に唇を寄せると。


「——これからもよろしくお願いしますね。せんぱいっ♡」


 二人にしか聞こえない、脳を内側から甘く蕩かす蠱惑的な声音で、ぽしょりと呟いた。


「——」


 驚きと戸惑いで声を失う智悠。


 そんな彼からゆっくりと身を離し、少女は。


「ではでは、さよなら〜」


 そう言って、今度こそ、小日向こひなた家を去って行った。


 そして後に残されたのは、呆然と立ち尽くす兄と、そんな彼を見てニヤニヤと笑う妹の二人。


「……何でお前は笑ってるんだよ」


「別にー。ただ、お兄ちゃんも隅に置けないなって思ってさー」


「どういう意味だ?」


「とぼけちゃって。楓と知り合いだったなら言ってくれればよかったのに、水臭いんだから」


「……ん?」


「いやー、お兄ちゃんが全然知らないみたいな空気出すから、私は笑い堪えるのに必死だったよ。それでもちゃんと乗っかってあげたんだから、感謝してよね」


「……は?」


「まあ、後輩の女の子と仲良しだってバレたくないのはわかるけどさ。でも、何も妹にまで隠すことはないんじゃないかなー」


「ちょ、ちょっと待て」


 何やら勝手に話が進んでいるが、内容の意味がわからない。


 彼女は何を言っているのだろうか。


「隠すも何も、あいつと僕は今日が初対面だぞ。『知らん痴女』って言っただろうが」


「……え?」


 今度は真綾が目を丸くする番だった。


「ていうかお前の方こそ、あいつに僕のことを変に吹き込んだんじゃないのか?」


 そう思ったからこそ、あの一連の奇行にも何とか整合性をつけられたのだ。


 だというのに、当の真綾はふるふると首を振るではないか。


「私がそんな面倒なことするわけないじゃん。確かにお兄ちゃんがいるって話はしたけど、あと私が言ったのは名前くらいで……」


 その顔は本当に不思議そうで、嘘をついているようにも、はぐらかしているようにも見えない。


 おそらく真綾の言は本当だろう。

 この妹はそんなわかりにくい性格をしていない。


「と、いうことは……えっと、つまり……どういうことだ?」


「……さあ?」


 兄妹揃って、仲良く首を捻る。


 樋渡楓。

 真綾の同級生にして、智悠の後輩。


 突如襲来した美少女は、嵐のような強烈さとともに、不可解な謎を残していった。

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