秘密の箱
俺の家には、決して開けてはいけないという秘密の箱がある。
曾祖父さんの曾祖父さんが作ったと言われているが、実際のところ、いつぐらい前に遡ることができるのか、皆目分からないほどの古いものだ。
言いつけを守って、その箱は、今の今まで誰も開けたことがないという。
「んで、俺にどうしろと」
そんな不思議な箱の話をした上で、父親はその箱を俺の前に置いた。
「開けてみたいか」
「やだ、だって面倒になりそうだもの。俺は今勉強に忙しいっての」
大学在学中で、そんな面倒ごとはごめんだ。
悪ければ何かに憑かれて、退学っていうこともある。
「まあ、だろうな。実は、父さんも昔同じことを言われたんだ。開けてみたいかってな」
「どうしたのさ、その時は」
「開けてみようとしたさ。あの手この手でな。でも、傷こそつくが、開いてはくれなかった。どうもな、試されていたんじゃないかって思うんだ」
「試すって、何を」
「この箱を継ぐことができるかどうかさ。中身が何か伝わってないが、それほど大切な何かが、この中には入っている。思い出とか、空気、その時の想いだな」
「どうせロクでもないものだって」
「決めつけは良くない。ま、お前がどうするかを決めるんだな」
父さんは、それきり、箱の話はしなかった。
それから何十年。
子供も孫もいるおれは、息子が里帰りするのに合わせて聞いてみようと思う。
「開けてみたいか」
と。
それをするのが、一番自然な気がするからだ。