八話「飛べない理由は赤く染まる」
私たちはこの里に来る前の森をできるだけ早足かつ罠などに気を付けながら用心深い足取りで戻っていた。
「確かあの岸のところの洞窟の奥らしいですね。でも本当にこの資料正しいのかしら?」と桃姫さん。
「どうしてそう思う?」
「吉田さんはお分かりにならないのでしょうか?彼女がくのいちならこれも何か手をするということを」
「なるほど。自分はそうは思いませんね」
「残念ながら、今回は彼に賛同するよ。彼女を疑うなんていうなら、俺たちのためにこんなことをした彼女に申し訳ないからねぇ。そういうことだろ、吉田?」
「あぁ、アルファの言う通りだ」
「なるほど、分かりました……これだから男は甘いのよ」
最後の言葉は小声で言ったつもりだったようだが、少なくとも私には聞こえてしまった。だが、彼女の言うことも一理ある。
「そうだ。桃姫さん、自分とアルファを空から飛んで目的地に運べないかなぁ?有川さんなら出来たけど」
「ちょっ、お前……」
アルファが言いかけた言葉は何かと思いながら、彼女の顔を見ると歩みを止めて赤面して頭と羽から煙が出ていた。そして「そんなに触られると……だめぇ」とか言っている。彼女に向けて手を振ってみたが、反応はなかった。
「やっちまった。言うのが遅い俺に責任があるがな」
「アルファ、どういうことだ?これは?」
「桃姫は人を運んだことはないんだよ。運ぶとなんか恥ずかしくなるんだと。それに人がいるところで飛ぶなんてことは稀にしかしないんだよ。だから昔は催眠をかけて気を楽にしたんだが、不可抗力過ぎたようだ」
「なるほど。んで、彼女は元に戻るのか?」
「あぁ、しばらくすれば戻るが。背中押して歩かせてやってくれ。かなりビクビクとする振動と熱さでお前自身がびっくりするだろうが、声を出さずにそのまま押してやれ。あっ、会話とかは別だがな」
彼に言われた通りに背中を押してあげる。確かに手が熱く、背中がビクビクという振動が来る。ピンク色の生えた羽の背中を見ていると、あの島で守られていた有川さんの背中と重なってしまう。ユキさんにあんな形で会えたということは彼女もまたどこかで会うことが出来るのだろう。いや、彼女だけではない。花咲さんにもだ。それにいずれかは会うであろう仮面をかぶったあの神にもだ。
「あのぅ!!」
その声に我に戻った。桜姫さんは私を振り返って照れながら言った。どうやら、元に戻ってたようだ。
「ごめんなさい」
「いえいえ、私こそ押してもらってたのにごめんなさい。その……お礼です」
私の頬に柔らかいひんやりとしたモノが触れる。彼女の唇だった。
「キスなら平気なんだな、桃姫」
「だひひょうひゅでひゅう」
やっぱり恥ずかしかったんだ。無理しなくてもよかったのに。そう思いながら森を抜けて岸を出て黒く先が見えぬ洞窟が私たちの前に立ち向かう。この洞窟の先にあの薬草があるのだ。