一話「見知らぬ場所に寝てました」
近くで波立つ音。上から聞こえる鳥の鳴き声。私はその音を聞きながら柔らかい何かに寝そべっていた。
「おい、いい加減に目覚めろ!!」
私のおでこに何か強い衝撃が走る。後頭部に柔らかい何かが強く触れて痛い。目を開けると、そこには一人の男がわざわざ靴を脱いで私のおでこに頭を付けている。
「あのぅ、どちら様ですか?」
私はそう聞いた。そもそも私自身何者かも分からないのに相手の名を聞いて意味があるのだろうか。近くに女の人がいるようだ。いや、二人いるようだが、片方は人間ではない。ピンクの羽根が生えている。
「おい、アルファという名に聞き覚えはないか?」
アルファ……。
その名は聞き覚えがない。しかしもしかしたら前世の人間……いや、まだ生物が生まれてなかった星だった頃に私と彼は知り合いだったのだろうか。ただし私は確信がないので首を傾けた。
「そうか。ならお前の名前は覚えてるか?」
私は力強く首を横に振る。
「記憶喪失って言う奴か。お前の名は神聖なる生ゴミだ。いいか、もう忘れるなよ?」
あぁ、思い出した。私は神聖なる生ゴミという名前だった。
「何教えてんのよ!!」
メイドの格好をした女性が彼を前から蹴っ飛ばす。私が触れてた柔らかい何かの正体である砂浜に頭から突っ込む。
「あなたはね、ある島を救ったバーティーの一人。今は活動停止中のそのパーティーの名は『ダークホース』というの。私たちと良きライバルであり、私たちが唯一尊敬するパーティーだった。そしてそのパーティーはとある騎士団長や女王の国、いろんな町を共に戦っていた。”チートゴースト”という異名を持つ花咲さん、灰色から七変化以上をもたらした翼を持つ有川さん、私の妹であるとある宿にいたメイド姿のユキ、そしてとある騎士団長だったのを隠しながらあなたについて行ったテンマさん、王都の女王の地位が危うくなっているアポロニアさん。彼女たち五人を集めて共に魔王たちを打ち倒したリーダーこそ目の前にいるあなたよ、吉田健三さん」
ダークホース……。
花咲さん……。
有川さん……。
ユキさん……。
テンマ……。
アポロニア……。
私はそれらの名前を聞く度に思い出した。今までのことを。そしてここで何があったのかを。私は砂を強く両手で叩き上げた。
「どうした?神聖なる生ゴミ?」
「アルファ……」
「ん?アルファさんだろ?」
「俺は神聖なる生ゴミではない……ダークホースのリーダーを背負った吉田健三だ!!」
目の前にいた男はそれを聞くなり、にこやかに微笑む。そして私に右手を差し出してこう言う。
「あぁ、そうだ。待ってたぞ。おかえりだ、永遠のライバルよ」
私はその手を左手で握リ返した。こうして吉田健三である私は復活したのである。そしてこの世界で起きようとしていることに挑むのであった。
お立ち寄りありがとうございます。本日より、更新開始です。