五話「胸に温めた言葉、ホットワード」
私たちが洞窟を出ても崩れることはなかった。そして私たちは里の方へ戻ろうとした。
「皆様、先程までの御無礼、どうぞお許しください。そして我、カナヅチが勝手ながらお頼みしたいことがあります」
私たちが後ろを振り向くと、先程の黒い布を巻いた人たちは正座して体を倒してまで私たちにそう言い放つ。そしてその集団の前にいる一人がそう申しているのだろう。
「言ってみろ?考えてやる」
アルファは仁王立ちでドヤ顔で威張っている。自分は吹き飛ばされて真っ先にやられてたくせに、ということは彼を見ながら内心で思ってしまった。
「赤い奴らを倒して下さい」
アルファは回れ右をするなり、森の方へ足を歩ませて言う。
「そんな義理はねぇ。行くぞ、お前ら」
「おい、アルファ!!てめー、何言ってんだよ!!」
彼は言った私の顔を見て鋭い目付きでこっちを見る。まるで文句をいうなと言わんばかりに。彼の持っている薬草のせいか?私と桃姫さんは彼の後ろを歩く。しかし彼はそのまま先を見るなり、動かない。
「……聞こえなかったのか?行くぞ?助けたいんだろ?里も他の連中も。俺らが協力すれば何とかなるだろうよ。だから弱気になるな、共に戦え」
彼の当てた眼差しは私ではなかった。その先にあるカナヅチさんたちだった。彼は共に戦うなら協力すると言いたかったのだろう。その言葉に押されてカナヅチさんたちの足もまた立ち上がる。そして森を見ている。
「もちろんだ。ありが……」
カナヅチさんに向けて桃姫さんは口に人差し指を立てる。
「その言葉はこの件が無事終了してからよ。それまで胸の中に温めて置きなさい」
桃姫さんの言葉を聞いたカナヅチさんらは一斉にお辞儀した。
「さぁ、行くか。里……いや、仲間の元に」
アルファの言葉と共に森の中に入っていくのだった。