ヘラド・セラフの受難
勇者パーティー修行編?終了。
次回から魔武闘大会編
ヘラド・セラフは焦った。必ず、かの暴虐の化身であるディアルにボコられると、例えそれを巧く躱したとしても“食事抜き”というある意味、死よりも恐ろしい苦行を味わう羽目になると。
だが、焦ってはみるものの事は既に手遅れ。時間が経つほど精神補正の魔王体ではまかないきれないほどの恐怖(食事抜き)が己を襲い、ズウーンと枕に体を沈めていた。
「マジかー」
ふっかふっかの巨大枕の上、死んだ魚のような目をしたヘラドは力なくコントローラを握りしめ、呟く。
今のヘラドがいる部屋は以前と変わらずモリギー研究所。多少改造はしたが地面が石製から木製に変わったこと以外は手をつけていない、強いて言えばモリギーにこの『人をダメにし過ぎた災厄ノ枕』を持って来させたぐらいだろうか?
「どうしてこうなった⁉︎」
毎回ここを訪れる誰もが口にするのだがヘラドには何のことだがさっぱり、それよりホムクル1号、勇者パーティー乗っ取り作戦を成功させることの方が何倍も重要だった。
ヘラドは寝る間も惜しんでログインし続け、勇者パーティーその1(仮)と交流を深め数々の冒険を共にこなし間違えなくディアルの言っていたことを成し遂げるため奮闘したのだが…
「おっリュウザカじゃないか!どうだ今からオーク狩りに行くんだが一緒に来ないか?」
「ちょっ何言ってんのよ!今日は魔武闘大会“当日”でしょ!そんな暇ないわよ!」
「そうですよノーラン。今日という日は私達の特訓の成果を皆んなに見せつける絶好の機会なのです。また無駄に怪我をして回復魔法を使わせる気ですか?」
ホムクル一号の視界を遮るように現れた3人。
早々に怪我をして戦線離脱する人 聖騎士ノーラン
女剣士の癖に武道の心得もある 剣士ナツキ
実質ヒロイン的ポジション 聖女ヒーナ
ヘラド・セラフ全力の援助もあって彼、彼女らは初めて会った時とは比べものにならないほどパワーアップしている。仲もだいぶ深まり親友と言ってもいいんじゃないんだろうか?
ディアルから課せられた試練は達成できた!そう胸を張って俺は、昨日気晴らしに街の外を出た。
「〈約○された○利の剣〉」
世界を染め上げるがごとく巨大な閃光、蛍光に似た何かが少年の周りを…これ以上はいけない。
「おぉう…どうやら来る世界を間違えたようだ。」
ヘラドは踵を返した。
「ハァ…ハァ…お姉様ァァ…」
「肉ゥゥ…」
「ガルルルル…」
荒い息づかいの、ぼろぼろの肌の露出が激しい黒布を纏ったいい年の女性…二十代前半。
それと瞳を黄色く光らせる猛獣が2匹。
「歓楽街、にでも迷いこんだか…」
ヘラドは踵を返しーー
「刺し穿つ〈ゲイ・ボ「教えたのはお前かぁぁ!!!」
反射的に彼女の持っていた赤い槍を魔剣で両断した。
「なっ⁉︎何をするセキッ…リュウザカ!」
「何をするじゃないわッなんつぅモン習得したんだよお前ら!」
「暇だったんだ!そしてソロモン弄ってたら何か新しくコイツが追加されたのだ!」
「追加されても試そうとするんじゃねえよ!幾ら今の見た目がかなりモノホンに近いからってやっていいことと悪いことぐらいわかるだろ!!!(それに潰す相手強化してどうする!鬱憤晴らしたら返すんだろ元の世界に!)※小声」
「………分かった。」
不服そうにディアルことリューラは聖剣と赤い槍をしまう。
「あぁっ師匠!」
少年ー勇者は何か言いたそうにこちらを見たが思いっきり睨みつけると黙った。
ブクブクブク……
ちょっと魔力?とかいうあやふやなもんが漏れたせいで下が大変なことになってるが、まぁいいだろう。
「〈ステータス〉」
全くディアルお前って奴は…非リアの俺が必死こいて信頼を得ている時にこんなお遊びを…
何やかんや言う前に一応勇者のステータスを確認、これだけふざけちゃあ大して上がっていないだろうと思ってーー
勇者 羽成 修斗レベル700←+100
「⁉︎馬鹿ッな…」
驚愕に顔が強張る。
何か一週間足らずで百レベ上がってた。
「あぁそう言えばリュウザカ、お前のとこはどのくらい成長させたんだ?」
聖女ヒーナ レベル67←+1
女剣士サツキ レベル70←+2
重装聖騎士 レベル72←+2
「馬鹿ッな…」
俺だってサボってたわけじゃないぞ
……コイツ何したんだ…
………こっちはドラゴンとか狩ったのに………
…………まさかディアルの『信頼を深めよ』に、せめて百レベぐらい上げろ、とかないよな?
……………飯抜きとか、嫌だなぁ…ハァ………
◆◆◆◆
気づいたら快楽街ーの住人に見えた戦乙女が前に立っていた。
「あっヘラッリュウザカさんどうなさいましたか?」
ショックのあまりコントローラ押しっぱにうなだれていた為、気づかなかったようだ。
「あぁ戦乙女か…どうした。お前もディアルの課題、上手くいってないのか?」
「ゴミ虫の課題?何のことかは分かりませんが、みてください!いい具合に元勇者パーティーが僕として育ちました!」
「………は?」
魔女ナーヤ レベル98+29
暗殺者ミラ レベル99+40
暗殺者ミロ レベル99+40
「+40って、は?何それチート?」
「私が召喚出来うる最高レベルの魔物とぶつけただけなのですが…⁉︎はっ申し訳ございませんヘラド様のお力からすれば私程度の猛特訓など角砂糖のように甘い。そうおっしゃりたいのですね!」
「いやっ別にそう言うわけじゃあ………」
勢いよく頭を下げられ、どう弁解したもんかと画面の前で考えようとすると
「あっそういえばゴミ虫が『勇者』なる者のブツを破壊した日には祝いにフルコースを振る舞うと言っていましたが…フルコースって何のことなのでしょうか?」
「えっ?」
フルコース→未達成→機嫌悪い→お、あ、ず、け
「…さてと、」
袖を捲り目をまとまらぬ速さで駆け出したヘラド。この後画面外でも色々やったが、どうにもこうにも半日じゃどうにもならなかったのは言うまでもない。
ディアルが一方的に勇者をいたぶらないのは〈神の涙〉は相手の同意が必要だから。嫌われ過ぎると弾かれる。