上級魔法
もたもたしていたら気づかれてしまった。
「あらあら貴方も転移してきたのね♡」
オークに襲われていた頃の気弱さが嘘のように彼女は嗤いながら話しかけてきた。
「あぁどうやらそのようだ。お嬢さん」
「お嬢さん?さっきまでオーク呼ばりしていたのにどういう風の吹きまわしかしらデュフフフ」
「レディーに対してそんなこと言った覚えはないのだが」
「レディー?デュフさっきまでオークだったのにふふっデュフフフフ♡」
あぁ…………。
どうやら目の前の少女は度重なる非日常の連続で、心を病んでしまったらしい。
まぁ無理もないだろう。オークに襲われ異世界転移なんかして年端のいかない子供が平気でいられるはずがない。しかし自らをオークと偽るとは相当やばい状態ではないだろうか。速やかに信頼出来る精神病院を紹介するべきかもしれない。
「貴方あ〜たのそのつれない態度とか結構私の好みよ♡でももうちょっと色黒の方がなんというか〜ワイルドよ♡」
「ロリ属性に興味はないんだ10年後に出直してくれ。」
「《ファイヤボール》♡」
彼女は俺に向けて無造作に魔法を放ってきた。
うわっ とっさだったが紙一重で躱す。
ハハッこんな時でも格好良く避けてしまうのは、才能ーー
「《フレイム・ジャベリン》」唐突な槍の雨である。
おわっ!?
大袈裟に尻餅をつく形で後ろに大きく跳ぶ。
ちょっと掠った。
「フレイムー
「辞めんか‼︎いきなりなんだこのバカっ!」
思わず素でキレてしまった。だが仕方ないだろう次、魔法を打たれてたら避けられなかったのだ。
格好がつかない?知るか!最近のヒーロー物だって無敵時間は長続きしないんだぞ。新鮮さが命なのだ。
…断じて息が上がったとかではない。
「あら〜さっきからなんで避けるのかしら、ステータスを見た感じ火属性魔法の耐性は高いから初級魔法ぐらいなら火傷ぐらいで済みそうだけど…」
「ステータス?」そういえば黒歴史ノートにそのような魔法があると書かれていた気がする。はてどのような魔法であったか?まぁ黒歴史ノートを確認すればよいか幸いリュックの中に入れてきたしな……そう思った瞬間頭の中に図が浮かび上がった。
ステータス
龍坂裕翔 Level 1
HP 496/500 SP 50/50
NP 99999/99999 SD 99999999999999999999×999
技能
火属性耐性(小) 雷耐性(小) 魅了耐性(神)
全属性適正( 隠蔽 [中] ) 毒耐性 自動回復
称号
「**の後継者」( 隠蔽 [超] ) 「童帝の信徒」
装備
防火性のマント 安物の眼帯 サニクリの服 黒歴史ノート バック
「これがステータス、魔法か。(マジやばくね)」
SDが妙に高いな、なんの数値かは全くわらかんが。あとで黒歴史ノートをチェックだな。似たようなものがいくつかあった筈だ。
小話休憩
「あら貴方、魔法適正がないのにステータスが見れるの?もしかして加護持ち〜♡。」
「うん?加護というのは貴様には見えないのか?」
「見えないわよ〜♡ちなみに隠蔽っていうレアスキルを持ってると〜加護以外のステータスの一部を隠すことができるのよ。きゃ♡わたしってやさし〜。」じわじわと距離を詰めながら少女は嗤い悠長に話かけている。……キモい。
と言うか、敵に重要な情報をベラベラとやはり子供だなオークというのはやはり嘘か、
※龍坂は少しの間により落ち着きを取り戻していた。
まぁどうやら(隠蔽)と書かれているものは奴には見えないらしいし、「ク、ク、クっ試してみるか」
※と言ったのは嘘だ。
「ステータス」彼女に向けてそう唱える俺いやっ我の読みではステータスという魔法は他者に対しても使えるはずだ‼︎ というか使えなかったら死ぬ!
※すぐ死ぬとぬかすのは若者の特権なので文句は受け付けないぞ。
すると頭の中に…
ステータス
「オークもどき」名前はまだ無い Level 60
HP 6500/6500 SP 30/50
NP 500/3000
技能
火属性耐性(中) 火属性適正 無属性適正
称号
なし
装備
薄皮の服 水龍王の瞳
ふぅ、やはりな、ステータスの魔法は他者に向けて発動できる。しかし彼女なかなかのステータスである。HPに限っては天と地ほどの差があるぞ。
雑に例えると竜魔王とヒノキの棒勇者ぐらいの差か?
だが、我には全属性適正というおそらく全ての魔法が使えるという意味が込めたチート能力がある。これを上手く使いこなせれば勝算は充分あるだろう。
「(まぁものは試しだ。先程彼女が使っていた魔法が使えるかどうか試してみるとしよう。)」
龍坂は身なりを整え、キッと何かよく分からないものを睨むようでただ眉を寄せているように見える格好良い(自称)ポーズを取ると、すうっと深く吸い一気に腹から声を出した。
「《ファイヤ》《ブォッール》‼︎」
………ふぉわん
目の前に5メートルは越えよう巨大な魔法陣が出現し爆発した。
目を瞑りたくなるような爆風の余波に巻き込まれるがその方がカッコイイと思ったのかあえて無視して仁王立ちで結果を見守る。
「ゴホゴホ、貴方火属性の適正がないのにどうやってその魔法を…」
砂煙が両者を襲う。
ーー少女は目と喉を痛めた
ーー龍坂は気合で誤魔化した。
「ふんっ貴様には理解できまい。まぁ噛んだときは失敗したかと思ったが取り敢えず成功でいいだろう。…(しかしこの魔法、お前が使ったものとは仕様がだいぶ違っていたな)まぁ良い!あと五、六発撃てば我の勝利だ。」
完全勝利を予感した龍坂は思わず高笑いをあげた。
その時、爆風の中から何かが飛び出してきた。
「我が名は黒闇の神柱が一つ※※である。召喚主よ何ゆえ我を召喚した、」
赤い縁取りの白金の鎧を身に纏った目麗しい女性が腕を組んでこちらを睨みつけ、質問してきた。
はっ召喚?
「やっぱり‼︎デェッデェンッセツの超高位召喚魔法‼︎なんで魔法適正のないないアンタが!」
伝説?
「何か言わぬか‼︎」
※※魔法?俺が使ったのは…火の玉を飛ばす初級魔法だぞ?どう、やったら…召喚魔法になるんだよ、全くどういうことだ?俺には一般的な魔法は使えないのか?
くそっ訳がわからない
だが、ミスったそれだけはなんとなく理解した。
「まさかただの器探しで超高位召喚魔法の使い手に会うなんてね、ペットとして飽きるまで飼ってあげるつもりだったけど、魔族のために消えてもらうわ‼︎」
少女は何故か先ほどとは打って変わって余裕の笑みを消し目を見開いて激情していた。
「上級魔法死の贈呈品」
黒い靄が広がる。見るからにヤバそうな魔法しかも空耳でなければ“上級”と奴は言った筈だ。
まともに食らえば死ぬ。そんな直感がした。
「チッ撃ってきたか、おいお前召喚主である俺を守れ‼︎」
「断る」
「…積んだ」
積んだかもしれない。