チュートリアルは飛ばしていいよな?
「ファイヤボール」「フレイムアロー」
「フレイム」「ファイヤウォール」「メラレイン」「ファイヤボム」「ファイヤー
肌を 焼くような暑さと甲高い声に目を覚ますとアスファルトだったはずの地べたはいつのまにか芝生に早変わりしていて視線を上げると先程までオークに襲われていた少女が 詠唱?らしきものを唱え、炎を手の先あたりから次々と射出している。
目を見開く光景である。しかし、龍坂は頭部に激痛を覚え顔をしかめた。
手を当てると少し血が出ている。
「(やっぱりあのオークの投げた棍棒あったのか?ならこの程度で済むはずはないんだか、それにしてもー」
「あれは火属性魔法か?数は多いが 威力はそれほどまで高くないな…ということは初級クラスか中級クラスの魔法であろうか…分からんというかここはどこだ。日本、少なくとも東京ではないだろう このような草原は今まで見たことがないしな…」異世界なのか?
まだ起きてから半ボケ状態だからなのか目の前の状況を龍坂は冷静に判断することができた
だがそれを冷静な考えだと認める人間はいない。もし龍坂の友人である石幢がここにいれば「ハイハイ、馬鹿発言出ました〜」と小馬鹿にするだろう。
…
………
ツッコミも冷やかしもいないこの状況で龍坂のイマジネーションはどんどん膨らんでいく。
頭の痛みも次第に気にならなくなっていた。
「異世界か、確か黒歴史ノートに
『異世界転移はチュートリアルを進めることから全てが始まる』
と書いてあったはずだが、この場合チュートリアルとはあの少女を…どうするんだ?」助ける必要はないとして話かければいいのか?戦闘はなるべく避けることに越したことはないから別にいいのだが
「女の子に話かけるだと、一体どうしたらいいのだ?」
この男、厨二病は孤高の存在であるという黒歴史ノートの謎設定に影響を受け、人との交友関係が極めて薄い。
だからこういった時なにを話せば良いのかよく分からないのだ。彼が気軽に話しかけることができる相手は一部の親族と石幢だけでありそれ以外の人とは上手く話せない。
予期せぬ壁にぶち当たり頭を抱える龍坂。悩む所が違うがそれ以外の選択がこの状況最善であると言うのだからタチが悪い。
「…話かけなければチュートリアルが進まない、うーむ、どうすれば良いのだ?」いきなりの難題に思わず呻き声を上げる。
現代日本でぬくぬくと育ってきた龍坂には異世界冒険のお約束であるフレンドリーな心が理解できない。彼にとって異世界とは所詮、黒歴史ノートに書かれていた叔父の自分に都合のいい展開しか起こらない舐めた世界なのだ。
そんな彼だから思いついてしまったのかもしれない。変則的な手段を…。
まてよ…
俺は黒歴史ノートに加え異世界転移系の小説や漫画、数多(漫画や小説は言うほど読んでない)の異世界冒険の知識を有している。別にチュートリアルなんてもの飛ばしても構わないのではないか?
小岩を隠れるように背にして視線の先の少女を改めて見る。
そもそもあんなに魔法を連射している奴がまともとも思えない。というか、さっきから火属性の魔法から出る火の粉が飛んできて地味に熱い。俺がたまたま防火性のマントを羽織っていたからいいものの、通常の状態では軽く火傷するぞ。
…恐らく魔法の的になっているのはオークなんだろうが、流石にあれだけ魔法を撃てばくたばっているはずだ。くたばっているはずなのだが魔法の乱撃が止む様子はない。
俺の結論から言うと、あの女は狂人であり話しかけるのは危険すぎる。場合によっては戦闘になるかもしれないし、魔法というアドバンテージがあるあちらが圧倒的に有利であるこの状況では勝率は極めて低い。
「そうと決まれば暗くならない内に町や村を探すとするか!」
俺は情報の少ない今、彼女にコンタクトを取るのは愚策と判断しチュートリアルを飛ばすことにしたーー
「ファイヤーボール」
なんの前触れも無く先程から魔法を連射していた少女がこちらに向け火の玉を飛ばしてきた。
「なっ#&_?!」突然のことにパニックになりかけたがとっさに腰を捻ることで回避に成功した。
数秒遅れて火の玉が地面に直撃する。
ズッドーン
耳を塞ぎたくなるような爆発音。
着弾地近くにあった小岩は飴細工のように砕け散り人がすっぽり埋まる深さの大きなクレーターが出来ていた。
「(やばい気づかれたか‼︎)」思わず少女の方を見るとジーットこちらに視線を向けていた。