厨二病初心者の僕は今現代にいます。0
心理的欲求という言葉を知っているだろうか?
心理的欲求には人に愛されたい、愛したいなどの欲求があり、心の発達が著しい青年期にはこんな歪んだ欲求が生まれることもある。
「はぁはぁ嫌こないで‼︎」ボロ切れのような服を着た少女が泣きながら走っている。
「デュフフフッねえねえなぁーんで逃げるの?」
ひどく野太い声で肥満体型の男がそれを追いかける。
月曜日の昼過ぎ、人通りの少ない路地裏で行われているこの光景は第三者視点から見れば、間違えなく肥満男が少女を襲っているようにしか見えないだろう。
ここに警察がいたなら飛んで然るべき場面だ。
――が。
「ハハ、馬鹿じゃねえの」
偶然居合わせそれを眺めていた、目の死んだ少年は一言、呟く。
真昼間から少女を襲う暴漢に、母親も連れずにこんな人通りの少ない路地にいる少女も馬鹿だ馬鹿。久しぶりに外に出て来たのに…なんだこのくだらない茶番劇は。
まるでこの後ヒーローでも現れるのか、それとも俺がヒーローになるみたいなシチュエーションではないか。
助けても面倒なことにしかなりそうにないし警察でも呼ぶとするか…。
少年は携帯の電源を入れ警察に連絡入れようとするが画面上の時刻を見て指が止まる。
「あっもうこんな時間かよ。メンテもう終わってんじゃんか‼︎まじかよ〜城今頃ぜって〜攻められるよ、は〜課金してまた修復しないか…!というか一刻も早く戻らないと‼︎仲間がログインしてたら守ってくれているはずだし。
……ここら辺の住所分かんねえ、面倒せいし帰るか」
路地裏に運悪く立ち寄ってしまった少年はゲームのため全て見なかったことにして帰ろうとした。
「助けないのか?」
「うわっ!てっお前かよ」
唐突に後ろから声がかかり思わず振り向くと見知った相手がいた。
季節外れというか時代錯誤というか分厚いマントを纏うその男――龍坂裕翔。
中学の頃からの付き合いで、高校で別れた後も家が近いからけっこう顔を合わせて話したりする。
「なんでいるんだよ?うちの学校は創立記念日で休みだけどお前の学校は違うだろ」
そう今日は、バリバリの月曜日である。
思わず、ズル休みをした可能性の高い"旧友"にツッコミを入れた。
彼は普段、学校に通っていない引きこもりなので人に言えたものではないが、相手はそんなこと気にするタイプではない。
「そんな事など今はどうでもいい‼︎」突然現れた彼はそう片目をパーの手で隠しながら言う。
いや気にするどころか…どうでもよくはないだろう
「貴様がいかなるなら我が行こう、この呪われし漆黒の書に選ばし俺がな。貴様は我が勇姿、伝説全てを見届けているがいい。石幢」
「とぉ‼︎」
「バカやめろって、」
いきなり現れたと思ったら突撃しようとするアイツを止めようと声をかける。
まあいっても止まらないだろう、なんたって奴ら小学生時代、叔父からパクった黒歴史ノートを何を思ったか学校で音読し、厨二病とかよく分からんものの意味を説いてまわっていた頭のおかしい奴
『龍坂裕翔』なのだから
↑こっちが主人公
俺はつい最近、「この世界は失敗作だ‼︎」と眼帯をつけて杖らしきものを公園で振り回している奴を見かけた。ひどく荒れているようでこのままでは人を襲ってしまうのではないか?そんな雰囲気を放っていた。
その時は僕が警察に連絡して事なきを得たが…薄情だって?イヤだって仕方ないだろうあんな危ない奴、普通の人ならまず近づかない知人(絶対に友達などではない!)をやっているだけで褒めてほしいくらいだ。それに誰から見ても
" 奴は厨二病だ"
かつてこの病が将来の社会生活にどれだけ悪影響を与えるか一番理解していた奴がこうなるとはまぁ皮肉なものであるが、幸いにも奴はまだ厨二病にかかりきっていない
まぁなんでかって言うと世間一般的に理解されている厨二病とは見ていてちょっと違うのである。
例えば、奴の持っている黒歴史ノートは今はブックカバーが付いている。元々は血のような赤黒い何かがべっとりとついたノートなのだが、さすがに人前でそんなのを読むのは恥ずかしかったようで黒色の少し上品な感じのカバーをつけている。
あと学校以外では基本つけているらしい眼帯も人前になると外すし何より奴は厨二病が絶対持たない恥じらいを持っている。だからこんな日曜の朝からやっているヒーロー番組みたいな事はするはずがないのだが…
まさかついに恥じを捨て去ったのか?