EPISODE:7「希望の断片」
―――19時20分、アストロンベイ工業地区「Y」某所。
辺りは暗くなり、「Y」は所々灯りが数か所の街灯によって仄かに明るい。
夜ノ村与月ら事務所の二人はヨモツマチの危機に耐えられずに走り去ってしまったネオンの霊力を追って、臨港倉庫付近で走っていた。
「ネオンの霊力は辿れているか?」
「ええ、間違いありません。しかし、他の霊体も感知していますね…」
マドカの装着している霊体が可視化できるスコープ、通称「霊視鏡」は周辺の霊体の帯びる霊力を感知する機能だけでなく一度記録した霊力を持つ霊体を追跡することもできる。
この機能を使ってネオンの霊力を追跡していたのだが、装着者であるマドカのその一言に反応して、先頭を走るヨヅクの脚が止まる。
「その霊力の方向は?」
「ネオン君と同方向です…!!」
(マズいな、一応試験版は持たせたが…陰陽庁と交戦するにしても勝てる算段があるわけじゃねぇ。 応援を呼ぶしか方法は…ん?)
とヨヅクがコート内側のポケットから携帯を取り出そうとした瞬間ポケットの中に違和感を感じる。携帯があるのは確認できるのだがそれ以外の何かがある…そう思いマドカに何も言わずに少し歩む速度をおとしてその何かを探り手に取る。
「…ゼぇゼぇッあのっ、どうかし…ましたか?」
「マドカ…もう少し急ぐぞ!」
ヨモツは息を切らしているマドカを気にする素振りもなく両足で先程以上のスピードで駆けていく。
「えっあのヨ…モヅクさん、一体何を」
「いや大したことじゃない…ただ、アイツが持つべき自衛手段が今俺の手元にあるってだけだ」
そう苦笑しつつもヨヅクがポケットの中から取り出したのは、黒い憑依装弾であった。
憑依装弾には白の蛍光ペンで「|proto(試験版)」と書き記している。
「…あの、モヅクさん? これって…」
「何もいうな、例え最重要人物が殺されているかもしれない状況であっても俺は一切責任をとらない。」
「え~…あっ、じゃあさっきネオン君に渡したのは一体」
「恐らくだが今現在進行形で開発中の「七番目」の奴だ…」
その一言でマドカは完全に口をあんぐり開けて固まってしまう。
「あの、あれはまだ調整どころかパーツが欠損していたんじゃなかったでしたっけ…?」
「…」
「ええ~…だいたい身の回りを整理しろってあれほど」
マドカがボソッと口にすると、二人は面と向かいつつ頷き合い、再び走ろうと脚をあげようとした時だった―――向かおうとしていた先にある倉庫らしき建物の屋根から一筋の太い光の柱が穿ち、薄く緑色をしたそれは夜空へと続いている。
「どうやら、あっちみたいだな…」
~~~~
それから時が少し遡り
19時17分、「Y」・某廃倉庫内―――。
鉄錆に塗れ、活気が微塵も存在しない倉庫の扉の奥で、今まさに英雄に憧れる幽霊少年ネオンの持つ魂の灯火がゴズ…いや、猛牛戦士ジャスティブルの手によって屠り消されようとしていた。
「ぐッ……ゲホッゲホ…」
結界に強く叩きつけられたネオンは咳き込み、壁に寄りかかりながらも立ち上がろうとしている。そんな苦しい表情をしているネオンとは反対に腹を抱えて笑うのを堪えようとしているジャスティブル。
「クククク…もっと悲鳴を聞かせてくれよ、ネオン。 俺のリクエストに応えてくれねえと兄貴んとこには逝かせねぇからな!!」
しかしネオンの懐の中にあったのはジャスティブルに対しての怒りや恐怖ではなく…
(なぜ…霊である僕の体に触れられるんだ?)
前にも説明したようにネオンたちのような霊体は基本的にこの世に存在するものに触れることはできない。それはこの世側からの接触もまた然りである。だがネオンが感じたのは紛れもなく触れて感じる「痛み」という感覚であった。
「ははは…しっかしこうして骨格を使っていると、つくづくお前の兄貴がどんだけアホだったかを理解できるぜ。 こんな力を手に入れながら脆くて醜い人間の為に使うとはホント正気じゃないっていえるよなあ…」
兄の事を再び侮辱し始めるゴズに静かに怒りの表情を見せるネオンに近づくゴズ。
「霊媒骨格は正しく肉体という「限度ある器」を持たない霊体だからこそ発揮されるモンだ。しかもこうして霊体実体関係なく接触することができる…。」
叩きつけられた壁には先程の衝撃によって生じた窪みがあり、ゴズは四つん這いになっているネオンの首を持って宙に掲げる。
「本来こんな感じでクオンをいたぶって殺すのが俺の任務の筈だったんだ、なのに…横取りされちまってよお…何のために俺はクソ長い間監視役やってきたってんだよ。」
「監視…役…?」
「当然裏切り者の監視に決まってるだろ? アイツは最強の黒の「シックスシリーズ」の所持者だったんだ…変な動きでもしたら止めることができない…そこで隊の中でも一番親しかったとされる俺が監視役を任されていた訳だ…おかげでこの手でぶちのめす事が難しくなったと一瞬感じたが、それと同時にチャンスではないかと思った。」
「クオンを…正当な理由で殺せる…っていう事?」
「ああ、まぁそういう事だ。 だから苦労したよ、危うく殺しちまいそうな時もあったさ。だがそれでもおれは我慢した…我慢して、我慢して、耐えて耐えて耐えてようやく実験計画もクライマックスを迎え、やっと用済みとなったアイツを俺がァ!!」
怒りを露わにしながらもゴズが今までについて語っていた時にネオンは地面に目線を向けた時にふと何かに気づく。サラサラとした砂の下から破れたサンドバッグの残骸が埋もれていた。しかし…
「ふっ…フフッ」
ネオンはそんなピンチの時に何故か耐えられずにクスリと笑ってしまった。
「何笑ってんだよ…」
「ねぇ今どういう気持ち…?」
「アァ?」
「確かに僕は兄さんとゴズさんの間に何かあったかなんて詳しくは知らないよ…だけど今貴方が喋ったことが事実なら…あんたはテレビに映っていた通りの「小物」だった事は十分に理解できたよ…。」
「んだとッッ!!!」
ネオンの挑発的な台詞に反応しているのかジャスティブルの体を纏っている炎は勢いが増しているように見える。
「力を手に入れたにも関わらず、兄さんの強さにビビッて手を出せずに挙句の果てに他の人に倒されて、腹いせにこうやって自分よりも弱そうな者をいたぶっている…そんな人がヒーローを倒すなんて…アンタみたいな図体デカいだけのヒーロー擬きの小物にできるはずない!!」
頸をつかまれて宙ぶらりんな状態であったネオンだったが、怖気る事なく睨み付けて言い放った。しかしその態度にゴズは更なる苛立ちを覚え結界の壁に思いっきり投げ飛ばす。
「ッッ!! ああそうかヨ、そうかヨ…そこまで兄貴ん所逝きテェなら最初っから言えってんだヨ!!!」
「…」
「処罰も、ルールも、俺にはもう関係ねぇ!! 光栄に思えよネオン、ヒーローの必殺技なんて本来怪人しか味わうこと無いんだからナ!!」
「必殺…技…??」
「この霊媒骨格には一撃必殺の武器が備わってんだよ! もちろんお前のようなちゃっちい霊体も消失してしまう程に強力な奴だ!」
牛の角の部分と言える部分が輝きだしたかと思えば、その角は先程の丸みを帯びた角とは異なり、より大きくより鋭い形へと変化を遂げた。
「奔霊發器、展開…突貫巨角…ッッ!!」
「…」
「ちっ…何だヨ、せっかくヒーローの必殺技を喰らえるってのによ!!ファンには溜まんないだろうがよ!!」
ジャスティブルの鈍く輝く巨大な角を向けられたネオンだが、その右手をズボンのポケットに咄嗟に入れる。
「んじゃ最期に…クオンにはこう伝えておけ、「後は俺達がやるから勝手に休んでろ」ってな。」
吐き捨てるかのような台詞の直後、ジャスティブルの二本の角が回転を始める。回転はやがて加速を増し、空気と触れる轟音が響く。
「くたばれ、ネオン…「|双角牛進(ダブル・ドリ``ブル``)」!!」
突進を止めないジャスティブルの角によって抉られた地面によって2本線が描かれ始め、その延長線上には少年幽霊が倒れていた…誰が見ても結末は分かり切れる状況だった…。
しかし…
(イチかバチかの賭けだけど、僕にはもうこの一手しか残されていない!)
それは先程ヨヅクに渡されたままになっていた護身用の骨格を内臓した憑依装弾であった。これがどれくらいの攻撃力を持つかはわからない…そもそも自分が使いこなせるという保証もどこにもなかったが
―――そんな微塵の可能性しかない「希望の断片」をネオンは信じていた。
(チャンスは一度…いや例え好機だろうが危機だろうが…信じろ、貫き通せ…自分の魂を、灯を、拳に込めて!!!)
相手の一撃が当たる直前に極限まで握りしめた右手をポケットから出し、そのままジャスティブルの角に殴りつけた。地面を抉るほどに強烈な威力を持つジャスティブルの攻撃にネオンの拳は耐えられることもなく散り紙のように散っていった。
「ははっ! 何だ、最終対決を再現したいのか?! 無駄無駄無駄だぁ!! テメェも兄貴同様ヒーローになんてなれねぇのさぁああ!!!!」
高らかに笑い狂ったジャスティブルの声と角の回転音、そこから聞こえる音は弱くもか細いものであったが、その音は小さく。
パキッッッ
それは、伝説へと続く「霊媒骨格」が生まれる音と、眩い薄緑色の光の柱であった。
[作者にて]
どうも作者のTHE黒です、第七話を読んでいただきありがとうございます。いやぁ今回も延期してしまって大変申し訳ございませんでした(泣)スマホとかでつぶやいてはいたのですが、パソコンに向き合える余裕がなくて…今後はこんな事が起らないようにしたいと思います、できる限り…(笑)
さて本作についての話題に変わります…そもそもなぜ「ヒーロー」をテーマにしたかというとまぁ昔からスーパー○隊や仮○ライダーとかが好きだったというのもありましたが、以前どういう作品をつくろうかと悩んでいた時にとある漫画作品を参考にくじ引き形式でランダムにお題を決めていた時にこの「ヒーロー×幽霊×地下街」という案ができたのがきっかけでした!ナイトネオンのテーマは「弱虫幽霊がヒーローになれるのか?」もテーマの一つなのでそこら辺も見てくれると作品をより楽しくできると思います。今回の第7話がかなり遅めでしたが、第8話は今月中に投稿したいと思っていますのでよろしくお願いします。前回同様ヒーロー系・メカ系のイラストに自信のある方、よろしければpixivでもTwitterでもご連絡をお待ちしております!それではまた近いうちに…