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NIGHT NEON(ナイトネオン)  作者: THE黒
2/15

EPISODE:1[英雄よ、×××××]

二十年前、とある国の東部に位置するごく一般的な都市「アストロンベイ」。

突如として自らを「悪の組織」と称する集団・「ゴックアーク団」が突如として現れアストロンベイ全域に強襲をかけようとした。だがそれと同時に現れたのは、黒い鎧を身に纏い隙間から揺らめく炎を噴き出している「黒い鎧武者」であった。「黒い鎧武者」は「ゴックアーク団」を一蹴し、見事彼らのリーダー・「グレートゴックアーク」を打倒した。これによって「黒い鎧武者」は当時からテレビ番組で特集されるほどに有名となり、常闇より出でる正体不明の黒の英雄・「エヴァーダーク」としてアストロンベイだけではなく全国でも注目された。「ゴックアーク団」の後にも更なる「悪の組織」がアストロンベイを襲うも、最初のゴックアーク団と同じくエヴァーダークの圧倒的な勝利に終わりアストロンベイの治安も良好な状態となっていった。今現在、歴代にアストロンベイに出現した百を超える「悪の組織」の残党たちによって結成された最大級の悪の組織・「暗黒連合」がつくられ、爆発的な人口増加によって急激な都市開発を行われて「アストロンベイ」は国内でも一、二を争う程の巨大都市に成長を遂げていた。だが時が経てども未だかつて正義のヒーロー「エヴァーダーク」の勝利は揺るぎないものとなっていた。

そんな巨大都市にある廃地下街に棲みつく幽霊少年・クオンにはある秘密を知っていた…


―――この物語は優しくも雄々しい英雄の物語、ある一つの伝説の終結から始まる。―――

「ナイトネオン」Episode:1[英雄よ、×××××]


雨が降り始めたその夜の僕は只々地べたに座り込んでいた。

その時、僕の前にいたのは雨に濡れた黒色の鎧を着たヒーロー「エヴァ―ダーク」がいた。


「おいっ起きろネオン…!」


その一言でソファに座りながら物思いに更けていた僕は気を戻した。周りを見渡すと、そこは廃アパートの最上階で、窓からは廃地下街・ヨモツマチが良く見えていた。眼の前には自分が座っていたものと同じタイプのソファと、その間には膝に当たるほどの高さのテーブル、そしてその上には先程からやや大きめの音量で音楽を流している携帯テレビが置いてあった。すると、向かい側のソファに座っていた一人の青年と目が会った。


「お前またテレビ点けっぱなしで考え込んでたな…」


「ご、ごめん…久々に「獄拳衆」四天皇との戦い見ていたら…つい。」


「「獄拳衆」って…どんな奴らだっけ?」


「なんで戦った本人が忘れてんの?…ほら、6年前に現れた裏の中国四千年に伝わる暗殺拳法を使ってたあの…」


「う~ん、よく覚えとらんなぁ…。」


と記憶にないことを微塵も気にしていない様子の青年の名前はクオン。僕にとっては兄のような存在であり、地上で僕を救ってくれた命の恩人であり…


この20年間巨大都市「アストロンベイ」を現在進行形で守り続けている黒の英雄(ヒーロー)・「エヴァ―ダーク」本人なのである。


過去の話を少しするのであれば、僕は17年前アストロンベイで一人彷徨っていた。住んでいた家も、名前も、自分がどういう人生を送っていたかを全く覚えていなかった、つまり全くの記憶喪失の状態だったのだ。何故自分が地上で彷徨っていたかは知らないけど、その時の僕の前に現れたのは「悪の組織」の怪人と戦っているエヴァ―ダーク…もといクオンだった。クオン本人は怪人を倒すことに集中していて分からなかったらしいけど、エヴァ―ダークの雄姿を間近で見た僕にとってヒーローとして活躍するクオンは言葉が見つからない程にカッコよかった…!!


無事に怪人を倒した後にエヴァ―ダークが直ぐにアストロンベイの東側にあるゴミ収集所へと走り去る所を見て、僕はすぐさま追いかけた。恐らくエヴァ―ダークの素顔を見れたことは今でも思い出深いし、今でも唯一自慢できる出来事だった。流石に互いに動揺はしていたけど、これが両者互い認識できた「初めての出会い」となり、それから17年間「自分がヒーローである」ことを周りにバラさないことを条件に「助手」として一緒に行動することとなった。ちなみにその時にネオンという名前を付けられた。


「っしかしよく飽きないよな、ホント。 何十回も見た光景なのに…」


「ヒーローの戦いはいつ見ても輝いてるし、飽きないものだよ。 」


「そんなもんか? っつっても正直全く実感がねぇからな俺自身。」


だが当のクオンは自分がどれだけ称賛されている存在であるかを実感している素振りもなくソファに寝そべり、そのまま流れる歌に合わせて体を揺らしていた。普通ならばもっと喜ぶべきことであるのに。


「ねぇ、クオン一つ聞いて良い?」


「何だ?」


「20年前のあの日から、何でクオンはアストロンベイを守ってるの?」


この質問を投げかけた時、リズムに乗っていたクオンの動きがピクリと止まり、クオンはゆっくりと体を持ち上げて再びソファに座り込む姿勢となり、携帯テレビの電源を切った。


「ネオンついさっきお前が口にした「ヒーロー」ってのは人々を悪から守る為に自分の正義感を信じて行動して、平和と秩序を守る正義の味方…ていうニュアンスだったよな?」


「そりゃあ…勿論そうだけど」


クオンの表情は変わらず飄々としていたが、その口調は真剣なものであった。


「だけど残念ながら俺が戦ってるのは正義感とかじゃない、俺しか「戦える」奴がいなかったからだ。 20年前のあの日、アストロンベイで「悪の組織」と戦える奴は俺の他にはいなかった…だから「戦った」、それだけだ」

そう言ったクオンは平然としてたが、なんとなく哀愁を感じる瞳をしていた。


「でっ、でもそれって人を守らなきゃっていう気持ちがあったからこそでしょ?」


その質問を投げかけた時、辺りは一瞬シンと無音になったが、彼の雰囲気はいつもような明るさに戻っていた。


「…さあってどうだろうな? だけど一つ確かなことはお前が憧れている「ヒーロー」になる為には悪いが俺は参考にならないってことだけどな…」


と言うとクオンは腕を後ろに組んでそのまま天井を見上げた。


「っ…そんなことっ」


とクオンの言った事を否定しようとしたその時、ソファのすぐ後ろに誰かが居るのを感じた。僕は直ぐに後ろを振り向いたが、そこには牛のキャラクターが記されている缶バッジが付いた赤いキャップを被ったニヤニヤ顔の男が立っていた。


「やぁクオン、ご無沙汰だねぇ…ネオン君も」


「ご、ゴズさん…」


天井を見上げていたクオンであったが、気配を感じていた為か全く反応せずに再び前を向いた。


「で、今回はどの用でツラ見せに来たんだ、ゴズ?」


「まぁまぁそんな顔しねぇでくれよ…少しお前と話つけたくてね、ちょっと良いか?」


~~~~~~~


僕の座っていた場所には今ゴズが座っており、相変わらずクオンはソファでポケットに手を突っ込みながら前を向いて座っていた。ちなみに僕はクオンのソファの後ろで立っている。

ゴズと呼ばれているこの男は、クオンがエヴァ―ダークとして地上で活躍する前からの知り合いで僕が出会う前から知り合いらしいけど、ネオンだけでなくクオン本人あまりよく思っていない様子であった。


「クオン、この話は結構前から何百回もしてるから聞きたくないことは重々承知してるつもりだ…だけどこんなことを繰り返し言いたくはないってのは俺も同意見だし、それでも俺はお前に来てほしいと思ってる。どうだ、考えを改める気はないか?」


「ゴズ…悪いけど、もう昔みたいに俺達が暴れても結果は同じだ。 どんなにチンピラみてぇな事してようと地上の人間(やつら)は一瞬気味悪がるだけだしな…」


(…クオン兄さん)


僕はゴズと兄さんの二人の会話を聞いてはいたが、何も言わずクオンの座っているソファで突っ立っているだけだった。


「だからじゃねーか…そうすることによって奴らは俺らに恐れ慄く…その時の奴らの顔を見ただろ? 視える奴らも俺らが幾ら暴れてもどうしようねぇ…なんたって俺達は



幽霊なんだからよ…」



ゴズがどういう気持ちで吐き捨てるようにその言葉を言ったかは分からないけど、その言葉は僕の胸に突き刺さった。


薄々感じていることかもしれないけど…僕らは普通の存在じゃない。

僕らは肉体を持っていない、俗に「幽霊」と呼ばれている地上の人間にとって異質な存在だ。


生きた肉体から抜け出た精神体である僕らは、生前の記憶が曖昧で殆どの幽霊たちは自分がどう死んだかも分かっていない。中には思い出そうとすると幽霊が感じないはずの痛みを伴ってしまう場合もあるらしいけど、僕みたいに記憶が全くないケースも極少数いるみたいだ。


「視えていようがいまいが、地上(うえ)で暴れたら益々このヨモツマチに居づらくなっちまう。以前から「黄泉街(ヨモツマチ)」なんて呼ばれるほどに巷で評判悪いんだから、今以上に暴れたらあっちも黙ってはいないだろ」


僕らが棲みつくアストロンベイの廃地下街、通称「ヨモツマチ」は都市開発が進む以前に「ファーニーズアンダーシティ」という人気ある地下街で、住民から人気があったらしい。しかし当時の不景気が原因で運営していた企業は破産し、止む無く立て壊しの工事を行おうとしたらしいが、その時に棲みついていた幽霊たちが工事を妨害して気味悪がり取り壊し工事もストップ、今現在に至るまで人間たちはこの街を放置している。その幽霊騒ぎが原因でこの地下街は幽霊が棲みつく「黄泉」のようだと噂され、人々は「ヨモツマチ」と呼び恐れていた。ただ一部の幽霊マニアを除いてだけど…


今地上(うえ)じゃあお馴染みの「黒の英雄」様が暴れてんじゃねーか。俺らがそこら辺の人間に少しチョッカイだそうが、人間の方は「暗黒連合」の仕業に違いねぇと思うだろうぜ…それに」


とゴズが喋っていた時にクオンは大きなため息を一つついた。そして脚を前にあるソファ

にかけた。


「お前らが俺に対してどういう評価しててどういった考えでよりを戻そうとしてるか分らんが、俺の答えは昔も、今も、そしてこれからも「戻らない」の一択のみだ。」


そのクオンの答えに対してゴズは眉を寄せて少し困ったと言わんばかりの表情をしていたが、暫く考える素振りをした後に元の表情に戻った。


「…そうか、クオン。お前はどうやらホントに「昔」に戻りたくはないみたいだな…」


「ああ。すまないが、これで話は終わりだ」


といって立ち上がろうとしたクオンだったけど、ゴズは何故か人差し指を立てた。


「終わり次いでに、一つ良い事教えてやる。」


そしてその指で来いというサインをクオンに向けて行った。どうやらあまり大きな声を出せることではないらしく、クオンはゴズに近づき耳打ちで何かを話した。その話の重要性がどれぐらいかは分からなかったが…


「…」


その時のクオンは一変して真面目な眼をしていたような気がしたが、ゴズが話し終わるとようやく彼はソファから立ち上がった。


「悪いけど、何の事だか俺にはさっぱりの話題だな…」


首を傾けて理解していない様子を見せ、クオンは僕を連れてその場から去ろうとした。


「まっ、そうだよな…今のお前ならばそういうと思ってた。」


「来いネオン、外に出るぞ。」


そう言ってクオンは階段の方へ向かい、そのままアパートを後にした。僕も、その後を追おうとしたがゴズが声をかけてきた。


「ネオン君…君は長い間クオン一緒にいたから、彼の事は何でも知ってる。そう思ってないか? だが彼との間に何があったかは知らないけど、あまり深く関わるべきではじゃない。」


「たっ確かに僕はクオンの事を全てを知ってるわけじゃないし、正直何を考えているか分からない時が多々あるけども、僕がクオンから…兄さんから離れる理由にはならない!!」


弱い声ではあったが、そう反論した僕はネオンの後に続いてその場から逃げるかのように走り去った。


~~~~~


「ふぅそりゃ駄目だったか、まあいいや。とりあえず取引は失敗したが餌は蒔いておいたんだ…後は「どう()()か」だな。」


二人が去った後のアパートの一室で、そう呟いたゴズの笑顔はクオンたちの前で見せたモノとは異なり、歪なほどに不気味なものであった。


~~~~~~


時刻は深夜11時半頃、アストロンベイ・「トレックスストリート」裏通り――――

幽霊たちは日光に当たってしまうと動きが鈍くなってしまう為、日光の当たらない室内か夜の時間帯の屋外で行動していることが多い。ヨモツマチに幽霊たちが集まるのも、日光の当たらない環境があってこそだ。僕とクオンは、比較的人通りが少なく、灯りの少ない裏通りで散歩していた。人工物である蛍光灯等では特に僕らには有害なものではないが、街の中には幽霊が「視えてしまう」人もいるため、パニック対策でそういった灯りのない夜道を歩いているという訳である。だけどその散歩している中、僕の頭の中でさっきのゴズの言葉が異様に響いていた。


―彼の事は何でも知ってる。そう思ってないか?―


(そう…なのかな?十七年間一緒に暮らしていたし、ついさっきだけど本人から戦う理由も訊いた。でも、本当にそれで本人を理解しているってことになるのかな?ひょっとしたら何か隠している可能性だって…)


「お前、さっきゴズに何か言われたのか?」


「えっ、そっそそんなこと…」


いきなりのそんな質問に僕は戸惑いと焦りを隠しきれていなかったらしく、クオンが追及さえそうになった時、僕の足元に捨てられていた雑誌を踏んだ。クオンの視線は僕からその雑誌へと移動して、その雑誌を拾った。どうやら週刊誌のようであったが表紙を見て僕は激しく嫌悪感を感じた。


『ヒーロー・「エヴァ―ダーク」!!完璧な20年間の茶番劇』

『「エヴァ―ダーク」街おこしの為に今日も稼ぐ!』

『「エヴァ―ダーク」の素顔を知る男性Aに直撃!その生活の裏側も「真っ黒」だった!!』


「…いいか、ネオン。これが人間の「(サガ)」であり、お前が憧れている「ヒーロー」が背負うものの一つだ。」


だがそんな表紙の内容を見たクオンはケラケラ笑いながら、呑気にページをパラパラと眺めていた。


「でもっ、こんなのって…」


今までアストロンベイの市民を幾多の危機から救ったのは、間違いなく目の前にいるクオンだ。多少の建設物に対しての被害や悪の組織に刺激されて犯罪を侵す者もいるが、目の前の雑誌に書かれていた内容はあまりにも理不尽すぎるほどに酷かった。そんな内容を気軽に見ていた当の本人がこんなに面白がることに不思議に思いながらも、悔しい感情が大きかった。


「こんなのって…あんまりだよ、クオン。」


「「あんまりだ」だらけだよ、ヒーローってのは…」


クオンは読み終わったその雑誌を近くにあるゴミ箱に投げ捨て、そのまま歩き始めようとした時だった。夜空に巨大な円状の影が現れていた。眼の前にある電気屋さんで設置されていた大型テレビには夜のアストロンベイがヘリから中継されているが、画面には巨大都市上空に都市一つが丸々収まるほどの影を作っていた巨大な「球体」が浮いている異常なものが映っていた。その番組では、先程から同じ内容のニュースが繰り返し流れている。


『えー繰り返しお伝えします! たった今、アストロンベイ600m上空にて巨大な球体が出現しましたッッ!! 更に以前よりこの都市に襲撃を図っていた「暗黒連合」から我々にメッセージ映像が送られてきましたっ、その映像がこちらです!!』


スタジオのカメラから一転、映し出されていたのは壁に掛けられていた「暗黒連合」のマークが刻まれた旗と「暗黒連合」総長で一番最初にアストロンベイに現れた悪の組織「ゴックアーク団」の元最高幹部・カオスジェネラル〈G〉であった。


『この放送を見ているアストロンベイ市民ならびに付近の住民諸君、残念ながらこの映像は君たちに対してのものではなく、長年我等に敗北を味わわせた張本人、ヒーロー・エヴァ―ダークに対しての「最後の戦い」の開始宣告である!』


(暗黒連合からの宣戦布告…それに最後のってことは…)


「暗黒連合」はこの20年間でクオンと戦って負けた百を超える「悪の組織」の残党によって構成された今現在最も活発に動いている大型の「悪の組織」で、今現在「暗黒連合」以外の悪の組織は確認されておらず、おそらく最後の「悪の組織」であるとされている。つまり、これが本当にエヴァ―ダーク最後の戦いとなりこの戦いに勝利すればアストロンベイは真の平和を取り戻すことできるのだ。


「はぁああ…やっとか。」


とクオン深くため息をしながらやれやれと言わんばかりの表情をしていたが、その映像の内容はまだ終えていなかった。


『エヴァ―ダークよ。手に余って仕方ない勝利を手にしてお前がアホ面さげてこの映像を見ている姿をこの目で見てみたいが、生憎私は今現在「最終兵器」のコックピットの中でな…分かるか?つまり私は何処にも逃げも隠れもしないということだ…私たち「暗黒連合」の幹部たちを乗せたこの最終兵器・「パーフェクト・ゴックアーク」はこれまでの怪人・兵器とは比べ物にならない程の攻撃力、守備力を兼ね備えた最高傑作だ。…又、この兵器にはちょっと仕掛けが施した…これを見ろ。』


再び映像を切り替えられたが、それはアストロンベイ上空にある球体の構造図であった。


『アストロンベイの上空で浮遊している巨大球体の内部には世界で最重量級の約10tの化学爆弾を設置した。無論、このまま待っていても起動はしない…ただし「パーフェクト・ゴックアーク」の中枢には化学爆弾の「起爆装置」プログラムが組み込まれている。一度起動すれば、一定時間経過した後に「巨大な球体爆弾」にプログラムが送信され、アストロンベイとその周辺の街や村に一瞬にして「火の惨状」を作り上げる。そしてこのプログラムが送信されるまでの間に「球体」に何者が近づこうすれば「パーフェクト・ゴックアーク」が迎撃するように設定されてある。』


「それって、「起爆装置」の兵器を壊さないと、爆弾が起動してしまうってこと?」


「…」


『放送局にはこの映像を本日の23時半に放送しろと伝えたが、本当に23時半に報道されているのであれば丁度、今しがた球体爆弾の方の電源がつく筈だな…。』


カオスジェネラル〈G〉が映像でそう口にした時、空中にある「球体爆弾」から奇妙な幾何学模様が浮かび始めた。


『…これで信じてもらえたかな? エヴァ―ダーク、お前にまだ正義を実行できる体力があるのであればアストロンベイ中心部にある「アストリック教会」に来い。プログラム起動時刻は深夜0時、そして起爆装置プログラム送信完了までの制限時間は6時間…明朝6時丁度に起爆する。それまでに決着をつけよう…真のヒーローならばそれなりの行動を示せ。』


映像がここで終了し、元の放送スタジオに画面が戻る。


『…ええ以上が「暗黒連合」からのメッセージでした。政府では今回の件について…』


メッセージ映像が終えてスタジオにいるキャスターはできるだけ平常心で原稿を読もうとしていたが、裏通りを通っていた若干名はこのニュースを見てどよめいていた。今までとは比べものにならない程のスケールであると僕を含めた誰もが思ったからである。上空にある「球体爆弾」の大きさが「暗黒連合」がどれだけ力を入れているかを察することができた。あと半日で都市一つが崩壊するかもしれないこの状況の中でただ一人、クオンだけは全く動じずにテレビを見ていた。


「……んじゃ、行ってくる。」


口を開いたかと思えば、クオンはそう言い残してその場から去ろうとした。


「えっ、それだけ? なんかこう…少し軽すぎない?」


「別に俺にとっては変わらない、相手が居て俺がそいつら全員綺麗に倒して守るべき場所を守る。…今までと全く変わらないことだろ?」


その一言が慢心によるものであるか、それとも勝算があっての余裕なのかは表情からでは分からなかったが、いつも通り微笑しているクオンであった。


「クオンは何でそんなに動じないのっ? いつも表情を変えずに..」


「ポーカーフェイスっつうんだよ、こういうのは。生きていく上で重要なことだ…おっと今は死んでたかハハハ…」


とあまり面白くない冗談交じりで笑ってはいたが、目があまり笑っていなかった。


「あれ? あんまウケなかったか…。」


心配しているこっちがあほらしく感じてしまう程に気の抜けたような感じの本人を見て、僕はため息をついた。


「そんな余裕、今の僕にはないよ…」


「要は「いつも通り」勝ってくればいいだけの話だろ? 落ち合う場所はごみ処理場側の入口な…よろしく!!」


今度こそ教会の方へ向かおうとする。だけど…正直どう表現したらいいか分からないけど、なんだかクオンの背中を見てただならない不安が僕の心中にはあった。でも今の僕じゃ見届けることしかできない。…だったら。


「兄さん、「いつも通り」勝ってきて!! …あっ。」


「…ありがとよネオン。だが毎回いうが兄さん呼びはやめとけ。 お前が本当に俺を超えるヒーローを目指したいんだったら…「弟」じゃ駄目だ。


「兄を超える弟」なんて存在しねえからな――――」


クオンはジャケットの内ポケットからエヴァ―ダークへと変身するUSBメモリに似たアイテム、「憑依装弾(ヨロイボム)」を手にした。


~~~~~~


―――深夜0時間近。アストロンベイ中心部に位置する観光名所の一つ、「アストリック教会」。ここは毎夜0時丁度に教会の鐘が3回鳴り、その3回の鐘の音がそれぞれ異なる音色を出されることで有名とされている。本来はその鐘の音を聞くために周りで居住している市民から異国から訪れた観光客まで、実に賑やかであるが…その日「アストリック教会」周辺は一片の音響もなく静まり返っていた。その静けさの中、蠢く鋼の巨大な大蜘蛛型兵器「パーフェクト・ゴックアーク」は教会の前の広場に居座っていた。当然、上空には変わらず「巨大球体爆弾」、そしてそれによって発生した大きな影はアストロンベイを包んでいた。


アストロンベイ市民の中には被害が来ないように避難する者も居たが、大半が「エヴァ―ダークが勝つ」方にベッドしたため、戦いの場である「アストリック教会」周辺を除く他の地域では遠くながらも応援するために見守る人々の姿があった。またテレビ局も上空「アストリック教会」現場上空で生中継されていた。そしてそのテレビ局のヘリに乗っていた「アストラch.(チャンネル)」レポーターのイナバこと稲羽摩子(イナバネマコ)が実況していた。


『さぁこちらは「アストラch」!! 今回実況レポーターである私、イナバがいるこちらの「アストリック教会広場」にて悪と正義の最後の戦いが繰り広げられます!! 突如として都市「アストロンベイ」に現れた「悪の組織」、正義のヒーロー「エヴァ―ダーク」との過激(一方的)な戦いはおよそ20年に続いておりますが、今宵をもってアストロンベイ最後の「悪の組織」として知られる「暗黒連合」はエヴァ―ダークに犯行声明を送り付けてきました…』


少々興奮気味の彼女は余りにも力が入りすぎて、持っていた原稿がグシャっと潰れてしまっている。

それほどまでにこの戦いは注目度の尋常のなさが見て伺えた、全視聴者たちも同じような気持なのだろう。


『というわけで…今回のエヴァ―ダーク戦は超永久保存版の最終回、「最終決戦!悪と正義、終わりの激戦!」をお送りしたいと思いまぁす!さぁ今現在、時刻は23時58分20秒を切りました!あと、1分と数十秒経過すれば「パーフェクト・ゴックアーク」のプログラムが本格的に起動します…なのに、エヴァ―ダークの姿が見当たりません!これはどういうことでしょうか?!』


確かにその場で動きを確認できたのは、「パーフェクト・ゴックアーク」とテレビ局ヘリのみでそれ以外に動いているものは確認できなかった。レポーターもこの状況おもってを見てマズいのではという口にしていたが、時間は刻一刻と経過し遂に残り三十秒となった。


「あわわわ…あと三十秒だというのに、未だに「エヴァ―ダーク」は現れませんっ!

 あまりの敵の巨大さに「エヴァ―ダーク」逃亡したか? まもなく起動まで二十秒切ります。」


―あと十九秒、十八、十七、十六、十五…


着実に秒数が刻まれている中、アストロンベイ市民は微かに思ってしまう…。


もしかして本気で逃げたのか…? 今まで20年間我々の街を救ってくれた「エヴァ―ダーク」は巨大兵器に恐れ逃げたのか…そう反射的に思ってしまう人もいたが、人々は信じていた。


あと九秒。


どんな敵であろうと―――。


あと七秒。


どんな脅威であろうと―――。


―五秒。


僕らから守ってくれた真のヒーローは―――。


あと四秒。


「エヴァ―ダーク」は―――。


あと三秒。


いや…「クオン」兄ちゃんは―――。


あと一秒。


絶対に見捨てない―――。




零秒.




人々はその音が何かは分からなかった…あるいは、その音を聞くより早く自らの脳裏にその光景が刻まれただろう。ヨモツマチからいつも通り携帯テレビで見ていた僕は最初に巨大な鋼の蜘蛛の直下より現れたその「黒い影」は地上の蜘蛛に風穴を開け、天高く空へと舞った。その影の手には巨大な装置らしき物体がもぎ取られていた。そう…この「黒い影」こそ僕らのヒーロー、僕らの救世主、常闇から出でし英雄、彼の名は…



「「『エヴァーダークだぁあああああああ!!!!!!』」」



エヴァ―ダークは空中を一回転して、「アストリック教会」の鐘がある頂上部分に降り立った。…それと同時に、エヴァ―ダークに対する歓声は圧倒的なボリュームでアストロンベイ中に広がった。


だが中枢部分をもぎ取ったにも関わらず、「パーフェクト・ゴックアーク」は動きだした。

するとのコックピットらしき頭部から現れたのは、宣戦布告した張本人カオスジェネラル〈G〉とその他の「悪の組織」の元幹部たちだった。


「ようやく来たな我等が宿敵、エヴァーダークよ…だがここで貴様を殺せば、我らの野望は大いなる一歩を歩むのだ!」


「これで最後だなって思うと意外と寂しいモンだが、そろそろ休暇が欲しいからちょっくら倒されな…えっと、カオスミネラル〈B〉!!」


「ジェ・ネ・ラ・ル・〈G〉だっ!! 最終対決なのになぜ長年戦った相手の名を忘れてる?!」


クオン、最後まで相手の名前覚えられなかったのか。二十年前から因縁ある敵の幹部なのに…とテレビの前で改めて呆れていた時、蜘蛛型のパーフェクト・ゴックアークは動きだし、俊敏な動きで教会の方へ突進していった。その動きをエヴァーダークは察知したのか、クオンは再び宙を旋回しながら回避する。


「おっと、やっぱり心臓部を壊しても動く感じ? 随分気合入ってるなぁ!!」


「はっ! 貴様が今まで二十年続いた争いをどう思ってきたかは知らんが、今日は暗黒連合にとって快挙となる「最後の戦い」であり、貴様の「最期」でもあるからなぁ!」


「…ふぅん、あっそ。」


ド派手な戦いを繰り広げている最中であり、ましてやこれが最後かもしれないという状況の中エヴァーダークの興味無さそうなその反応に流石にコックピット内にいる幹部たちもブチぎれたのか、スピーカーから罵詈雑言も混ざったクレームが豪雨のように飛んだ。


「お前なんだその態度はっ!!」

「こちとら努力の積み重ねで悪の組織作ったんだぞ!!」

「私だって決死の覚悟で両手を改造したのに、三秒で倒されるとかっっっ!?」

「俺なんか名乗る前にぶっ飛ばされてニュースにすらならなかったっ!!」


と、まるで政見放送にいる意地悪な政治家のように絶え間なくヤジを飛ばすが、マイクが拾うボリュームを超えたのか、キィーンというマイク独特の音が発された。その音を聞こえないように耳(らしき部分)に指をあてながら避け続け、一軒家のトンネルに降り立つ。


「あぁ何だようるせぇな…大体、お前らが弱過ぎるクセに諦めが悪すぎるからこうして二十年も続いてんじゃねーか。 俺のせいにしてんじゃねー。」


「「「「「 何をっっっっっ!? 」」」」」


「俺の言ってることが間違ってるっていうなら…まず俺にワンパン喰らわせてからガヤッてろよ。」


そういう挑発の仕方はヒーローにあんまし相応しくないって思うんだけど。…って言っても正直クオンが言ってる内容に関して否定できないのが、クオンの嫌なところなんだよね。この言動にコックピットにいた「暗黒連合」の幹部たちはというと…


「よっしゃあ良いだろう!! お前へのリベンジ、このヘルザース様が行かせて頂く!!」

「お前への雪辱の恨みはこのウルフ・ジ・エンドの死乃爪(デスクロー)で…」

「いやこの儂が」

「いえいえこの拙者が」

「あいやいやいや美しき余こそが」


「おいっ貴様ら、何勝手なことをっ!!」


制止しようとした操縦席にいるカオスジェネラル〈G〉を除く「暗黒連合」の幹部たち全員はそのままコックピットから外に現れ、波のようにエヴァーダークを襲おうとした。しかし忘れてはならない…彼らは過去に何度も大敗している。そんな彼らは「怒りのパワー」に目覚めたというわけでなく「隠された変身形態」もあるわけではない。要するに…


「「「「「うがぁああああああああああっっっっっ!!!」」」」」


全員エヴァーダークに勝てる要素が一つもなく、襲われそうになったエヴァーダークは羽虫を叩くかのように襲ってきた敵を打ちのめした。辺り一面にある壁に全員仲良くめり込んでいった。


「おっおのれ…エヴァーダークめええええええええええええ」


コックピットで操縦していたカオスジェネラル〈G〉の怒号が響き渡り、パーフェクト・ゴックアークの形状もさらに禍禍しいデザインへと変貌した。


「おっようやく、本気だすか…いいねぇ、最終回には持って来いのクライマックスだ!」

~~~~~~~~~


深夜3時50分、当然中枢コンピューターを壊したため爆弾は解除されたようなものではあるが、深夜の戦いにアストロンベイ市民たちの視線が釘付けであった。誰もが唾を飲み、眼を凝らし、ただ純粋に勝利を願っていた。いつものように「勝利」で終わることを――。

エヴァーダークと「暗黒連合(今やジェネラル〈G〉以外いないけど…)」の戦いはそれ程までに盛り上がっていた。あらゆる方法で倒そうとする「パーフェクト・ゴックアーク」にエヴァーダークであるクオンもある程度疲れているらしく、肩で息をしているよう所が見えた。


「さてっ、そっちの「蜘蛛さん」は一体いつになったら充電切れるかなぁなんて…」


「だからぁパーフェクト・ゴックアークだと言っているだろうが、いい加減覚えろっ!」


とはいえ、エヴァーダークのパンチやキックをまともに何発も受けてしまったおかげで、「暗黒連合」の最終兵器といえど原型を留めておらず、明らかに至る所がボコボコの状態となっていた。それはコックピットにいたジェネラル〈G〉も多大なダメージを受けていた。


「エヴァーダーク、お前は強い。」


「…どうしたよ急に、気持ちワリィな」


「だがごほっごほ、それでも…我々は抗った…貴様の全てをいや少なくとも弱みをこの手で掴むまで…そしてようやく手に入ったのだよ、貴様の弱点をつく「兵器」が!!」


そうジェネラル〈G〉がダメージにより比較的弱くなった声で言うと、パーフェクト・ゴックアークの後ろの部分、蜘蛛で言う腹部から幾つもの穴が現れた。


「パーフェクト・ゴックアーク最後の武器にしてお前を倒す手段…100万発装填式パトリオットミサイルだぁ!! 怒涛の速さで己に向かってゆく「鉄の流星群」に耐えて見せてみろ、「黒の英雄」!」


ズドドドドドドっ!!!


上空へと放たれたミサイルの群れがアストロンベイ全域で見えるほどに高く登りあげ、その方向がエヴァーダークへと変わっていった。


「おいおいっ、後半戦でこれ来ちゃうのかよ!」


エヴァーダーク…は追尾されていることに気づくと、瞬時に空へ向かって飛びミサイルを一つずつ次々と破壊していく。たとえミサイルであろうとやはり20年間怪人たちと戦ったヒーローには効かないだろう…、だれもがそう思った次の瞬間、複数のミサイルの中に紛れ込まれていた一部が破裂し、エヴァーダークとほぼゼロ距離で小型の鉄の矢が爆散した。


「どうだぁあああああ!!!? だから言っただろぉ? 我等暗黒連合特製の「鉄の流星群(フレシェット)」を受けてみろと。」


撒き散らした鉄の矢は広場全体に満遍なく突き刺さっており、エヴァーダークの体にもその矢が突き刺さっていた。だがエヴァーダーク本人のクオンは霊体であるため本人にダメージが届かないはずであるが、その時のエヴァーダークの動きは鈍くなっており、その動きは海月や蜂の毒にあたってしまったかのようにフラフラしていた。


(これは…まさか…)


左肩に刺さっていた鉄の矢を抜いてその矢を見ていると、エヴァーダークは非情にもパーフェクト・ゴックアークの振り払いをまともに受けてしまい、付近の住宅地へと吹っ飛んでいった。


その後パーフェクト・ゴックアークの猛攻撃に防ぐばかりとなっているエヴァ―ダークにテレビ番組で見ていたアストロンベイ市民の不安が仰がれる。


「なぁ、エヴァーダーク…防戦一方って感じじゃね?」


「いや、そんなわけねえだろ。いつもみたいに避けてるだけだ。さっきの振り払いだってきっと…」


「そっそりゃそうか、ははは…」


と話している彼らであったが、彼らだけではなくそのレストランにいる全員…いやアストロンベイ市民は今度こそ「黒の英雄」の敗北をこの眼でしまうのだろうかと…この絶望的な結末が頭によぎってしまう空気が帯びていた中、一人だけ希望を抱く視聴者がいた。その者はかつてよりエヴァーダークと共に過ごし、共に分かち合い、共に暮らしていた者…そう



「負けるなっっっ!!! エヴァーダークっっっっっ!!!」


黒の英雄「エヴァーダーク」いやクオンの弟分、ネオンだった。携帯テレビの前でソファから立ち上がって「負けるな、頑張れ」とエールを送っていた。


(クオンだったら絶対勝ってくれる!! いつも通り勝ってきて、へらへら笑いながら帰ってくる! たとえ敵の兵器でどれだけボロボロでも、どれだけヘトヘトだろうと…兄さんだったらなんとかしてくれる…!!)


テレビ越しの「黒の英雄」、彼の姿は数本の矢によって力が弱まっているのが分かるほどにボロボロであり、黒い鎧から放たれている炎の勢いもなくなっていた。どこからどうみてもいつも通りのエヴァーダークではないかもしれない。実際見守ってる自分達さえも身震いしてしまう程にヒーローが負けてしまうことに恐怖していた。だが、20年間あらゆる悪からこの都市を守ってくれた真のヒーローはどの歴戦の時よりも雄々しく、そして何よりもネオンの眼には輝いて見えた。そう、あの初めての出会いとなった夜と同じか、あるいはそれ以上の輝きが見えた。


時刻はそのまま経過して4時23分…朝日も見えぬ「夜明け直前」のアストロンベイの激闘はそれでも絶え間なく続いていた。30分過ぎた今になってもパーフェクト・ゴックアークの優勢に変わりなかった。その時、30分前とは違うことがアストロンベイで起きていた。静まり返っていた市民たちは全員声を挙げながら応援していた。


「行けぇ、エヴァーダークっ!! 負けるなっっ!」

「いつもみたいに勝ってくれーっ!!」

「アストロンベイはアンタが居てこそなんだ、そんな奴ぶっ倒せっ!!」


その声はアストロンベイ市民だけでなく、周りの街や村に住む近接地域にいた人々も声を含まれており、まるでその熱気は生物のように(うね)っていた。


「…やっぱり、なんだかんだ言ってこっちの方が滾るな…ははっ。」


エヴァーダークはそう呟いて、早速力を入れ始めたのかパーフェクト・ゴックアークの攻撃をしなやかに避けてパンチを一発食らわせ、地面に叩き込んだ。


「ぐはっ…なんだとっ!!」


「悪いな、ジェネラル〈G〉。 俺もかなりバテてきたからさぁ…これで終いといこうぜ。」


「ふっ、いいだろう…丁度貴様を次の一発で終わらせる()()予定だった。」


交渉を終えると、両者は動きを止め最後の一撃の為の一瞬を狙い定めた。

エヴァーダークは右の拳と両足に力を入れているのが、纏っている炎の勢いから感じた。

対してパーフェクト・ゴックアークの方はというと8本の巨大な脚がそれぞれついている地面にヒビが入る程に全重量で支え、空中に高く飛ぶ姿勢となっていた。


「いくぞっエヴァーダーク。これが真に最後の一撃となるっ!!! 行くぞぉオオオ!!」


ジェネラル〈G〉の叫びがアストリックに轟き、ついにパーフェクト・ゴックアークは天高くアストロンベイ上空を例の「球体爆弾」ギリギリのラインまで飛び跳ねて落下。するとその直後、アストリックに向かって落下するその巨体は8つの巨大な脚を互いに螺旋状に交わり巨大ドリルへと変貌して回転しながら直下した。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっ!!!!!!!!!」


と同時にエヴァーダークもそれに応えるかのように唸りながら右手と両脚から出ていた炎が盛大に噴き出しはじめ、全身がその炎によって包まれていた。その状態でエヴァーダークはドリル型となった蜘蛛型巨大兵器に向かって肉眼で見えなくなる程に高速移動で跳び、アストリック広場の煉瓦の地面が完全に崩壊した。


全身に炎を纏ってエヴァーダークの拳、巨大なドリルへと姿を変え、破壊しようとするパーフェクト・ゴックアーク…二つの影が一つとなり、やがてその影から生まれた衝撃は巨大な球状にアストロンベイに拡がった。


「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっ!!!!!!!!!」」


両者の全身全霊で打ち込んだ攻撃は空間を歪ませているのかと思えるほどに強く、互いに相手に負けじと攻撃を打ち込む。


「ジェネラル〈G〉確かに今の俺ぁ、ついさっきの俺と比べて格段に弱いだろうよ…だけどそれでも屈しないのは…支えがあるからだ。自分だけの力じゃねぇんだよ。だからこそ俺はその「支え」てくれる奴らの為に――――



絶対にっっ勝つんだよおおおおおおおおおっっっ!!!!!!」



エヴァーダークを纏っていた炎はみるみる大きさも勢いも格段にパワーアップし、瞬時に対するパーフェクト・ゴックアークのドリルは破壊され、収納されていた頭と胴体の部分が露見した。するとエヴァーダークは勢いを止めずに頭部にあるコックピット内のカオスジェネラル〈G〉に目掛けて繰り出され、パーフェクト・ゴックアークはエヴァーダークの拳の衝撃によって飛び跳ねた時よりも瞬時に「球体爆弾」のある上空に飛んでいき、とうとう球体爆弾諸共吹っ飛んでいった…すると球体爆弾と蜘蛛型の巨大兵器の影から光が漏れ出し、数秒の静けさの後に日の上がっていない筈の夜空に「太陽」が現れていた。それを背景に一つの影があった。その姿は驚くほどに勇ましい仁王立ちであった。



『…………はっ!!!!!! カメラ回ってましたか???』


あまりの衝撃的な光景に口があんぐりとしてしまっていたイナバであったが、生中継であることに気づき気を取り直して実況を続けた。しかしその目には感動からの涙で溢れていた。


『視聴者の皆様、ならびにアストロンベイ全市民の皆さん……この結末は誰もが予想した事ではないのでしょうか? 約4時間半にも渡ったド派手な戦いの最中、今この瞬間をもって正義と悪の戦いが幕を閉じました。その「最後の戦い」に勝利したのは…我らがヒーロー、二十年前より姿を現した謎の救世主…その名は――――




 エヴァアアアアアアアアっっダアアアアアアアアアアクウウウウウッッッ!!!』




―その時、テレビ中継で見ていたネオンは感動と喜びが溢れ返り、その場でヘコッと座ってしまった。だがその時テレビの音声が壊れてしまいそうなほどに鳴り止まない歓声が聞こえており、直接に地上(うえ)からの地響きも尋常じゃないほどに聞こえていた。


だがその声を、その映像を見たネオンの表情は笑った状態だった。すると、ネオンは携帯テレビの電源を切らずに、そのままビルから地下街へでて出入り口へと向かった。それは意志して行動したのではなく、反射的なものであったためその俊敏さは瞬く間であった。その向かった出入り口とはクオンが対決前に約束した「ごみ収集所」へと通ずるトンネルであった。そのトンネルをひたすら駆け巡っているネオンの頭にはエヴァーダークのこれまでの戦いとクオンとの思い出が走馬灯のように再生されていた。




(やっと、遂に成し遂げたんだよ。兄さん!! 兄さんはアストロンベイを守り切ったんだっ!!)




今まで戦い続けてきた「兄」が全ての役目を終えて自分の所へと帰っていく姿とこれからクオン本人に聞く質問をありったけ考えていた…。





~~~~~~~

時刻は5時18分。

やがて前方からごみ処理場のライトによる光が見えるようになり、ようやくかと言わんばかりにネオンは出入口に向かって駆けていくと、出入口前にあった二つのゴミの山によって形成された影から脚を引きずりながらもゴミの山に手をついて、体を支えながらこちらへ歩み寄っているクオンの姿があった。

ケガをしている兄が心配だという気持ちと兄に対する強い誇りが混じりながら複雑な心情のネオンであったが、まず始めに大きな声で兄の名前を叫んだ。


「兄さんっっっ!!!」


地下街にも届く大きな声はコンクリートの壁によって反響し、その声は当然クオンの方にも聞こえており、クオンは大きく右手を挙げてVサインを作った。




ズガッッッ!!!




「……へ?」

そう口にしたのはネオンであった。その音が聞こえた頃、つい先ほど戦って疲労したクオンのVサインを作った右腕が地面に落ちていくのを刹那に感じた。


そのVサインは自然に落ちたのではなく、かといってクオンが倒れたわけでもない…。

切断されたのだ、その証拠に先程の音を発したとされるエヴァーダークの炎と同じように白く発光する炎のナイフがゴミ山に突き刺さっていた。


その無くなった右腕を見たクオンは疲れ切った表情を変えずにジッと見つめていると…



クオンの懐に何か重い物がぶつかるような音が聞こえ、クオンはゴミ山の方に体を引っ張られていった。その懐にいたのはエヴァーダークと同じような格好をした鎧武者の姿と、


アストロンベイを救ったヒーローの胸に突き刺さった白く発光する剣の刃が煌いていた。


その時白い鎧武者はクオンの胸に剣を突き刺したままこう言った。


「こちら「ソルジャー01(ゼロワン)」、対象を発見―――――――――――

 ―――――――――状況、開始。」





その場面で、間近にいたネオンの表情は未だにこの瞬間を理解せずに純粋な喜びから生まれる笑顔であった。


―これはある英雄伝説の終結、ただ一人の英雄の「死」より始まる次なる英雄の物語。―



Episode:1[英雄よ、永遠に眠れ。]END

次回、Episode2[白の××]に続く。


[用語解説]

霊体

俗に幽霊と呼ばれる存在、肉体を持たない精神体の総称。「亡霊」の殆どが生きた人間だった者であり、寿命以外の理由で死亡した者のみしか存在しない。但し「亡霊」は生きていた時の過去をおぼろげにしか記憶していない。短時間ではあるが生きた人間に憑依することもできる。前述の通り、亡霊たちは生前の記憶を殆ど無くしているが、自分の名前を断片的に覚えている場合もある。逆に全くもって生前の記憶を喪失しているケースも稀ではあるが存在する。日光を浴びてしまうと、霊体の持つ霊力が暫くの間に不安定になってしまい行動不能となってしまう。そのため日光の当たらない環境を好んで棲みつく。


霊媒骨格

霊体でのみ操作できる外骨格の名称。「フレーム」、「疑似肉体」とも呼ばれている。この骨格に憑依することによって、憑依した霊体が物体に接触する事も、生きた人間に認識されることも可能となり、人間を遥かに超えるパワーを得られる。霊媒骨格は通常小型化される。この形態を「憑依装弾(ヨロイボム)」と呼び、この状態での霊媒骨格の装備もできる。


超巨大都市「アストロンベイ」

本作の部隊となる総面積3500平方キロメートルのマンモス級都市。当初は只々面積が広いだけで、現在とは違って都市開発も進んでおらず、ごく普通の都市であった。しかし二十年前からの「悪の組織とヒーローの戦い」が始まったことがキッカケでテレビで取り上げられること目的に会社を建てる企業や治安の良さに眼を着けて移住する者の増加によって都市開発が急激に展開され、今現在のような活気溢れる巨大都市へと成長した。海にも面しており漁業も盛んである。


ヨモツマチ

アストロンベイの地下にある廃れた地下街。

かつてアストロンベイの地下に建設された巨大地下街「ファーニィーズアンダーシティ」 として活気ある街であったが、建設した直後に大不況の影響によって3年で閉鎖。直ちに撤去工事に取り掛かろうとするも、その環境を好む幽霊たちの妨害によって工事を行うこともできずに現在まで放置。いつの間にか幽霊たちが棲みつく「黄泉」のような街という意味を込めて「ヨモツマチ」と呼ばれるようになった。この地下街への入口はアストロンベイに数十箇所存在しするが、今現在は侵入禁止区域とされている。しかし実状は只々テープが張られているだけである。一部の熱狂的な心霊マニアを除いては好んで入って来る人間はいない。


悪の組織

20年前に突如現れたアストロンベイを狙う集団の総称。名前の通りヒーロー番組に出てくる悪役に似た姿や武器を持つ。当然戦闘能力は一般人よりも上ではあるが、エヴァ―ダークとの差は歴然である。


―――――

[今回のピックアップヒーロー図鑑]

【No.1】「黒の英雄」エヴァーダーク

[身長]:183cm [体重]:105kg パンチ力(並びにキック力):測定不能

「アストロンベイ」に現れた我らがヒーロー。黒いパワードスーツが特徴だ!!

その身体能力に勝る者が果たしてこの世に存在するのか?!必殺技は百裂パンチだ!

強いぞ、すごいぞ、エヴァーダーク!!


――――

[作者にて]

どうもご無沙汰しております。作者のTHE黒です。…いやぁ初回に関しては結構力を入れていたので長々しくなってしまいましたね。ですがこの第1話は当然ながら今後のストーリーにも関係していくのでどうか温度を感じさせるよう眼で見守ってもらいたいと心底思っていますのでよろしくお願いします。あ、それと上記ような用語解説と登場してきた人物のピックアップもこれから行いたいと思っていますのでそちらもよろしくお願いします。では感想やコメントがあれば是非とも下さいませ、それでは…

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