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NIGHT NEON(ナイトネオン)  作者: THE黒
15/15

EPISODE:14[怪盗団ヤミネズミ]

喫茶「C‘rows」

総合評価[3.6/5]

こちらのお店はヒーローの本拠地とされる今人気急上昇中の街・アストロンベイにて隠れた名店として知られる純喫茶となっております。内装はアンティーク調ながらも店内の雰囲気は明るく、豊富なメニューなどで幅広い客層を得ているようです。このお店を20年以上前から経営している店長(マスター)のエビヌマさん(年齢不詳)は、アストロンベイの歴史を感じながらもゆったりと寛げる空間を提供したいと思い最初のヒーロー・エヴァーダークが活動をはじめた当時からお店をオープンしたと仰っていました。噂では一部のお客にはこの店で悩みの種が解決したという声もあるのだとか…?


~「月刊『STEPY(ステッピィ)』3月号・話題の街の隠れた名店特集!」より~

眩い朝日が窓際に差し込む朝八時頃…モズク探偵事務所の下階にあたる純喫茶店「C‘rows」は人気が少なく周囲がシャッター通りと化している中、営業前の準備に入っていた。店内では、BGMとしてレコーダーにセットされたレコードから流れるクラシック音楽が空間に漂う優雅さをより深くさせていた。客のいないハズのカウンター席には、探偵事務所所長・八百村百尽(ヤオムラ・モズク)…もとい夜乃村与月(ヤノムラ・ヨヅク)がファイルを眺めていた。


「ブラックのおかわりは如何かな、ヨヅクさん?」

「マスター…頼みます」


好々爺の印象を持つ喫茶店のマスターが、テーブルの上の空のカップにコーヒーを注ぐ。

ヨヅクはファイルに小さな紙を栞代わりにして閉じておき注がれたコーヒーを味わう。テーブルに置かれたファイルの背には「霊媒骨格開発記録」と記されている。


「ヒーローシティとなっても、この優雅な朝日は変わりません」

「んな悠長なことは言ってられん…俺らがくつろげる時間は減る一方だ」


カップの中にあるコーヒーを揺らしながら混ぜるヨヅクは、店のテレビに目を向ける。「C`rows」ではレトロな店内の景観を損なわないように普段テレビは調理場の棚に収納されているが、今は閉店中のため棚が開けられており朝のニュース番組が流れていた。番組ではヒーロー軍隊である英勇都衛軍の創設者にして霊体研究機関・陰陽庁の大臣がインタビューに参加した映像が流れている。


『…こうして我が軍が態勢を整えている間にも一刻の油断もできない状況であることは変わりありませんッ! その為、第一支分局が設立される地区(エリア)[C]を中心とした都市全域の警備を目的とするパトロールチームを、近日行われるスタンドアップセレモニー中にお披露目することが決定いたしました!!』


都衛軍が表舞台に出てから一月経った現在でも、絶対的な治安維持が約束されているアストロンベイでは大規模な都市再開発計画が進行している。ヒーロー隊員たちの全面協力によって驚異的なスピードで完成された彼らの拠点となる超高層タワー・「X(エクス)ポートタワー」…都市のシンボルとなりつつあるこの巨塔が建設されて以来、アストロンベイは建設資材の輸送トラックや重機の出入りが増えているのだ。


「最近は地区(エリア)[C]の方に行きました?」

「散歩程度ではありますがね…とはいえ地区内は工事中のフェンスだらけで、定期的に白いヒーロー隊員もよく見かけると近くに他のお客さんから聴きました」

「奴らの動きが分かれば、こっちも計画が立てられるんだがな…」


そう言ってモーニングコーヒーを一口飲むヨヅク。


「例の新入りの子はどうですか…?」


唐突の質問であったが、ヨヅクは持っていたカップを元の場所に置いた。店長が口にした新入りというのは、最近探偵事務所に来た幽霊少年のネオンのことだろう。


「…ようやく自分の武器を見つけたところです、あとは本人次第ってところスかね」

「兄と同じヒーローの道を征くとは…確りと意志を受け継いでいるではありませんか…」

「だがそれだけじゃ行く末は兄の二の舞だ、敵が守りを固めている今、力を伸ばすしかない」


先輩幽霊のベンケイとの数日にわたる試練に無事合格したネオン。それから数日が経った今、彼は自分の持つ力をより深く理解するためにベンケイとの特訓に励んでいた。


「…今後の成長が楽しみというワケですね」


マスターが窓から差す日の光に目を向けていると、従業員用の裏口から探偵事務所の助手を務める女子大学生・日和円香(マドカ)が入店してきた。喫茶店のバックヤードには探偵事務所の裏口に入るための階段があり、外からは見られずに行き来できるような構造となっている。


「ヨヅクさん、ここに居たんですか」

「よう、朝飯済ますからちょっと上で待ってろ」

「…事務所のこと言ってるんですよね?」

「それ以外にあるのか?」

「なら毎度ながら言いますけど……座るどころか足を踏み入れる場所すらないんですが⁉」


マドカがサンドイッチを頬張るヨヅクに自分のスマートフォンの画面を見せつける。

探偵事務所内の様子を撮影したときの写真のようだが、そこには未婚の3~40代の男性の荒んだ生活の痕跡が見て伺える。部屋干しで使ったであろう掛けっ放しのハンガー、床には資料らしき無数の書類とあふれ出んとするゴミ箱、そしていつ食べ終えたのかわからない無数のカップラーメン容器…事務所の様子は明らかに商売できるような状況ではなかった。


「…朝の事務所の掃除もお前の業務の一環だろ」

「勘弁してくださいよ…泥棒に入られたと思って肝冷やしたんですからぁ!!」

「おはようございます、マドカさん…相変わらず献身的でございますね」


2人の騒々しいやり取りを、店長はカウンターの向こうで優雅にコーヒーを淹れながら優しく見守っている。


「あッ、おはようございますマスター…まだ開店時間じゃないのにすみません」

「こうして私たちが平穏に過ごせるのは、何よりヨヅク・・・さんたちのお陰なので…」

「マスターさん…」


ホッと安堵のため息をするマドカ、するとマスターは棚の引き出しの一つから何かを取り出す。


「ああ、でも領収証は残しておりますので…そちらはお願いしますね」

「…………りょうしゅうしょう?」

「…」


マスターが持っていたモノは伝票やメモなどをさし留める道具である状差しだった。状差しには無数の領収証が幾枚も重ねて刺さとめられいた。呆気を取られた表情のマドカに、ヨヅクはゆっくりと顔を外に向けて再びカップに口をつける。


「ええ、随分溜まってるんですよ…未払いのものが」

「ヨヅクさん、それは今週何杯目のコーヒーですか~?」

「…」


飲み終えて空となったカップをテーブルに置き、受け皿と共に隅に移動させる…「おかわりだ」と言わんばかりに。


「そっとおかわりを要求しないでください!!」


マドカは移動させたカップをヨヅク側に押し戻す。変わらずマスターは、その様子を温かい目で見守りながら皿を拭いていた。


「もう…あと少しで外出るんですから、それまでに準備してくださいよ~」

「連絡が来たか、時間は?」

「…1時間ほどしたら到着するそうです」

「わかった、ネオンにもそう伝えておいてくれ…それならマスター―――」

「人数分のコーヒーとサンドイッチは、ちょうど用意しているところです…シロップとコーヒーフレッシュも同梱する形でよろしいでしょうか?」


丁寧に拭かれた後のカウンターの上には、持ち帰り用の紙袋セットが置かれている。


「…準備の良さは相変わらずだな」

「対応力で勝負する仕事ですので…」


「さて、俺はもう少し寛いでから―――ん?」


ヨヅクはスマートフォンを取ろうとズボンのポケットに手をかけた時、自分の座っていた席のテーブルにパサッと『家庭用ごみ袋(45L) お徳用』が置かれる。


「あと20分くらいでゴミ収集来るんで…やるべきこと頼みますね」


その時のマドカの声色は穏やかに聞こえたが、その目は先ほど味わっていたコーヒーのように苦く…そして冷酷なほどに甘さを感じさせない色を纏っていた。


~~~


ヒーロー軍隊・「英勇都衛軍」の出現によって、今世界で最も注目されている都市「アストロンベイ」は計13の地区(エリア)で構成されている。海に面した一部を除いたほぼ全ての地区(エリア)は数十年前とは比べるまでもなく発展しており、都市のちょうど中央に位置する地区(エリア)[D]とその周辺は、都衛軍関連の施設建設を含めた「大型都市再開発」によって新たな姿になろうとしていた。そんな変化する街のなか、大通りで進行している一台のタクシーを、霊体であるネオンとベンケイは影から追跡していた。


「街の情報屋…ですか?」

「奴らとは20年以上前からの古い仲でなァ…陰陽庁から抜け出すのにも力を貸してくれたんだ」


20年前…夜乃村(ヤノムラ)与月(ヨヅク)は、霊体研究を目的とした研究機関・『陰陽庁』の一員として働いていた。しかし謎の『黒い霊力』の出現で研究方針に翳りが見えるようになってから、ベンケイたち一部の幽霊隊員と共に抜け出した。…と大まかな内容は聞いていたネオンであったが、協力者のことについては初耳であった。


「ってことは、ヨヅクさんたちと同じく組織の関係者?」

「いやそうじゃない…複雑ではあるが経緯は成り行きなトコがあってなァ、それがなけりゃ今こうして関わることもできなかったろうよォ」

「部外者ってことですか…でも、普通の人がヒーロー組織から逃げきるなんて―――」


話を聞いていたネオンは、半信半疑の様子だった…「霊媒骨格」を身に着けたヒーロー隊員たちは超人的なパワーを得ており、当然生身の人間相手が敵うハズがない。


「そりゃ伊達じゃねえことだよ…「天下の大怪盗」の名はよォ」






「…………………………へ?」

「説明は後だァ…目的地にもうすぐ着くぞォ」


協力者の身分に唖然とするネオンに、ベンケイは前方に指さした。裏通りを出た向こう側にあったのは、広めの駐車場付きの年季のはいったビルだった。ヨヅクたちの乗っているタクシーは建物の出入口前で止まり、車両のドアが自動で開かれてヨヅクとマドカは降ろされる。


「着きましたぜ…お二方」


ヨヅクたちをここまで送ってくれたタクシードライバーは、恰幅の良い黒人男性のボビー・バックベアだった。身長は170cm後半で、今にも引き裂けそうなYシャツから可愛いテディベア型のピンによってネクタイが留められているのが見える。


「ありがとうございますボビーさん」

「感謝の言葉は要らねぇですよ、本社に帰ってきただけだからな」


ビルの玄関前には歴史を感じさせる木製看板が置かれていて、「NEZ(ネズ)タクシー(株)」の文字が筆書きされている。飾られていた痕跡も近くの壁に残っており、日照りによってその部分だけ色あせている。


「ほれ、いつもの運賃だ」

「……どもっす」


仕事へ戻ろうと運転席に戻るボビーにヨヅクは「喫茶C`rows」の紙袋の荷物を渡す。中にはコーヒーとサンドイッチのセットが入れられており、ボビーは満更でもない様子で車を再び動かした。


~~~


「探偵の八百村だ、社長は居るか?」

「少々お待ちください…」


ビルの中に入り、早速受付係の男性に声をかけるヨヅクたち。傍らにいたマドカは、出入りのために後ろを通ろうする会社員らに「あっすみません…」と軽く謝りながら通れるよう姿勢を傾けている。表の様子を見れば古いビルであるのは確かであるが、面積はそれなりに広くエントランスもそれに比例していると思われた…しかし、そこら中の床に置かれている段ボールの荷物によって動ける範囲が制限されており、それはその場所にかぎるものではなかったらしい。ビルに入って数分の間、先程から社員たちの何人かは台車などを利用して荷物を運ぶ場面をよく見かけた。


「段ボールの山ですね」

「どうみてもこりゃあ―――」

「お待たせしました…只今自室でお待ちしているので、ご案内します」


そう言われたヨヅクたちは、受付の男性からゲスト用のネームプレートを渡され廊下の奥の方へ向かった。


「おぅ、久しぶりだね…ヨッちゃん♪」

「…………ッッッ苦!!」


苦虫どころか自分の顎を砕きそうなほど苦悶の表情を浮かばせているヨヅク。この表情は事務所でもそうそう見ないストレス耐久顔と感じたマドカと幽霊のふたりは、怒りに巻き込まれないように半歩ヨヅクから遠のく。そんな3人の様子を知ってか知らずか…ヨヅクに愛称で呼んだスーツ姿の女性はケタケタとからかう様に笑っていた。


「えっとぉ…お久しぶりです、レミさん」

「マドカちゃん、元気にしてたァ?」


マドカからレミと呼ばれた女性は、格好から見ても辣腕を発揮していそうなキャリアウーマンの印象を持つ人物だった。グレーのレディースジャケットに黒のスラックスを履いており、細見体型でありながら足の長さも目立っていた。雑誌のモデルにも思われそうなほどに容姿ではあったが、砕けた笑顔で「そんな

こわい顔しないでよ~」と言いながら軽く謝っていた。


(ヨッちゃん…)

「呼ぶことはねぇと思うが気をつけろ…サッカー場でのパンチは覚えてるだろォ?」


ベンケイの耳打ちによって、ネオンは一週間前のキックエース戦でヨヅクから食らった鉄拳制裁の痛みが脳裏でフラッシュバックし―――


(流石に…アレの二発目はちょっと―――)


あのような痛みは二度と味わいたいたくないと心に誓うと、改めてネオンはレミに目を向けてじっと様子をうかがっていた。


「でも…………この人がその、元怪盗……なんですか?」


「意外かな、期待の新人(ルーキー)くん?」

「――――エッ⁉」


ふとした疑問をベンケイに投げかけたつもりだったのだが、それに反応したのは…霊体(じぶん)たちに気付いていないと思っていた人間のレミだった。


「え…………ひょっとして…見え、てます?」

「ついでに聞こえてる…レミリア・ウィンドリーだ、私たちのかつてのオフィスにようこそ…」


レミはネオンに対して軽くお辞儀を行うと、部屋に置かれたデスクに腰掛ける。


「…かつての?」

「まぁこの状態は、誰がどう見ても『引っ越しの際中』だよなァ…」

「招くタイミングが悪くてすまない…あっ二人とも、そこの段ボールはイス代わりしてくれて構わないよ」

「えっああ…じゃあ失礼します」


ネオンたちのいる社長室は段ボールだらけで所々がらんとしており、唯一ある荷物はレミのものと思われるデスクのみの状態だった。イスさえも片づけられている中で、代わりとなる頑丈そうな段ボールの上に座るヨヅクとマドカ。


「こんな状態だと茶菓子も出せないんだ、ホント申し訳ないんだけど」

「いたずらメールじゃなかったようだな」

「急に引っ越しなんて、何で……」

「心配せずとも、手を引くってワケじゃないよ…本部(ウチ)を別んトコに移すだけさ」


窓際に取り付けられたブラインドを上げると、アストロンベイ中央部にあるXポートタワーが見えた。レミは佇む巨塔を憂鬱そうな目で眺めていた。


「例のセレモニーか…」

「基地設立はともかく、パトロールチーム結成はあちこち動くこっちとしても致命的でね…おまけに今は再開発計画の影響で業者が出入りしてる…極力目立たずに行動するには今しかない」


そんな会話をしていると社長室のドアがノックされ、「失礼します」と声が聞こえると坊主刈りと顎の傷が特徴的な男性が入室してきた。


「ジャンか…引っ越しの状況はどう?」

「パソコンや重要資料の保管・移送はほぼ完了、各ドライバーたちにも今後のスケジュールについてメールで伝えておきました」

「おう、ありがとね~」

「…相変わらずのゾンビ顔だな、ヨヅク」

「うるせぇな元ボンボン」

「お、お久しぶりですジャンさん」


ジャンと呼ばれた男はヨヅクたちに挨拶をすると脇にあったモノを手に取って、レミの方へ歩み寄る。


「ああ、あと……送り届けた金融系、化学系、凶器系、政治系諸々の重要品はリストにしてますのでチェックの方を」

「了解、今のうちに確認しておくよ」


ジャンは書類が挟まれたクリップボードをレミに手渡すと、その内容をポケットに入れていたペンを使ってチェックマークをつけた。


((今一瞬……物騒なカテゴリーが聞こえた気が……?))


ネオンやマドカは二人の会話に違和感を感じつつも、レミが今チェックしている内容についてはあまり聞かないようにしようと感じたのであった。


「そういえば、爆弾系の荷物はどこに置きました?」

「…今、彼女がイス代わりにしてるソレ」


咄嗟の危機的状況に動こうとする幽霊たち、無関心に窓の景色を眺める無精ひげの探偵、あまりの衝撃で天井を突き抜けそうなほど高く跳んでそのまま他の荷物のある方へダイブする女子大学生…緊張感を持つべき空気だった。…のだが、最初の爆弾発言を口にしたはずのレミが何故か笑い堪えていた。


「…冗談だよ、さっきクマに「穴倉」へ送るように言っといた…ククッ」


「ウォイッ、ふざけるとしても限度あんだろうがよォッ⁉」


激怒しているベンケイの右手には、変身アイテムである「憑依装弾(ヨロイボム)」が握られている。ネオンの方はマドカのほうへ駆け寄ろうとしていたが、冗談と聞いて姿勢を崩し床に突っ伏す状態となっていた。


「いや~最近ウチもハードな展開が多くて、社員たちはめっきり反応してくれないしさ…」

「とはいえジョークはもっとソフトなヤツを頼んますよ…レミリア団長」

「………団長?」


さきほどまで固まっていた空気の中、ヤレヤレといわんばかりの表情のジャンと変わらず飄々としているレミの会話に疑問を持つも、一連の騒ぎにまったくの無反応を見せたヨヅクは立ちあ上がる。


「…そろそろ情報共有したいんだが」

「ああそうだね…駐車場に向かおう、ここでは言えそうにないこともあるし…そっちは同僚に会わせたいだろうしね」


ちなみにこのあと、段ボール製シェルターの中に退避したまま気絶していたマドカを起こすのに十数分かかったのだった…。

~~~


その後、業者用エレベーター内でヨヅクたちとレミは下階へと向かっていく…先頭にいたレミの手元には、玄関前でボビーに渡したものと同じサンドイッチの入った紙袋があった。


「…CLOW`sも繁盛しているようだね?」

「マスターも忙しそうだが、元気にはしてるぞ」

「それは何よりだ…よろしく伝えておいてくれ」


エレベーター内は業務用のためか広い造りで、社員であるジャンもヨヅクたちに同行していた。会話する二人の後方で、マドカは先程の頭からのダイブで痛めた首と背骨の間辺りを(さす)っていた。当然その場にはネオンとベンケイの姿もあった。


「さっきレミリアさんが言ってた同僚って…?」

「前に話したろ、軍から抜けた幽霊隊員の一人だ…俺と同じようになァ」

(ってことは…ベンケイさんと同じ、骨格(スーツ)所有者!)


ヨヅクたちと関わってから丁度3ヶ月ほど経っているが、今の所ベンケイしか会っておらず…残りの二人がどういった人物で何処にいるのかさえも知らなかった。


「ヒューマの方はどうなの…?」

「知らん、最低限の報告しか()()さねえんだよアイツ」

『――地下フロア・三階です♪』


そうこうしている内に、エレベーターは最下階に到着しドアが開いた。しかし開いた先は暗闇に包まれており、エレベーターの光によって照らされている地面を除いてその場所の様子が全く把握できる状況ではなかった。


「ここが…………駐車場?」

「何も見えねェ……」


ドアの真ん前にいたネオンとベンケイが先に降り、周囲を見渡すも奥行きさえも判断できないほどに暗い中…しかし直後、二人は何かを感じる。


((―――――殺気ッ!!))


エレベーター出て左側の闇から、何かがこちらへ向かって飛び出しネオンへ向かう。


「鉄拳壱号ッ!!」


瞬時に霊媒骨格を腕のみに纏わせたネオンは、自分の霊力を拳に纏わせて撃つ現時点での唯一の技となる『鉄拳壱号』を繰り出す。襲ってきた物体が上に弾かれた瞬間、ネオンは自分を襲ったモノの正体を目にした。


「水…の触手ッ⁉」


ネオンの攻撃によって弾かれた「ソレ」…鞭のように形成された水の触手が暗闇の中へ戻ると、戻った場所で怪しげな青白い光が灯る。その光がエヴァーダークや他のヒーローたちの目と同じものだと感じたネオンは、改めて戦闘態勢に入る。


「成程、戦闘スタイルの方は確立しているようだな」


闇の中にいる何者かがそういうと構えを改め、それに反応したネオンは次の手のためにも相手の動きを観察していた。


「次の攻撃をもう一度――――」


この時直観的なものではあるが相手の構えを見ていたネオンは、目で見て動くのは不可能だと察した。


(いやッ、『これ』は防ぐしかない―――ッッ!!)


「――――『滴華楔(クーネオ・ディ・ゴッチャ)』」


一瞬の間に、ネオンに再び水の攻撃が襲い掛かる。しかも水の鞭は1回目と比べ更に鋭く速かったが、そ直観で攻撃が間に合わないと感じて敵の一撃をなんとか防御した。


「反応は良いが、判断の方はまだ若いようだな…」


暗がりにいる者の言葉にハッとしたネオンは、防御につかった右腕が何かに絞めつけられるような感覚に見舞われた。


「……グッ(腕に絡まって…いや、纏わり付いてる)!!」


鞭型だったハズの水が元の液状へと形を崩しながらもネオンの右腕に纏わりつき、そのまま胴体から足の方まで呑み込んでいく。


「み、身動きがとれない(…このままだとやられる)!」


身体のほとんどを大量の水によって地面から浮き上がる形で拘束されてしまったネオンは、身じろぎをして抵抗を見せていると…


ベンケイが憑依骨格(スーツ)を完全解放した時の姿・ヒーロー「センゴク」が…武器である槍をつかってネオンに纏わりついた水を両断した。


「挨拶代わりは済んだろォ、パラディーネ…」

「…その名で呼ぶなと忠告したハズだ、雑兵」


水の拘束が解かれ、水中に浮いていたネオンは着地する。


「もしかして、この人が…」

「お前にとって二人目の先輩だ、ネオン」


ヨヅクが頭を掻きながらエレベーターから降りてくる。


「やっぱ迫力あるねぇ、ヒーロー同士のバトルって…!」

「直ちにこの階の全照明をつけます」


レミが笑いながら興奮し、ジャンが上着のポケットからリモコンらしきものを取り出してボタンを押した。エレベーター付近の天井に付けられた蛍光灯がつき始めると、甲冑のようなデザインが施された青い女性ヒーローが其処に立っていた。


「無礼な真似をして申し訳ない、新入りは何分初めてでね…私はキリヒメ」


地下3階の照明が奥の方まで点灯しきるとその全貌が明かされた。そこは確かにタクシー用の地下駐車場となっていたが…電子基板が大量に入れられたプラスチックの箱、大小様々なドローンが並んでいる棚、エレベーターから降りた正面の壁には巨大ディスプレイ…それらを見てもここがただの駐車場でないことは明らかだった。


そして、何より―――――、


「――――そしてここが…百年以上の歴史を持つ義賊…怪盗団ヤミネズミの巣窟だ」


巨大ディスプレイの電源が入り、そこに映し出されていたのは…背を向けたネズミのマークだった。

皆さま、ホントにお待たせして申し訳ございませんでした…作者のTHE黒です。前のエピソードで再開宣言しておきながら、今回のエピソードを投稿するのに前回から6年経ってしまいました。別の仕事もやりながらも活動しようと思ったのですがうまくいかず、結果としてこのような遅筆となってしまったのではないかと思います。しかし、本作「NIGHTNEON」も含め小説投稿を続けたいと思っています。地道ではありますがこれからもよろしくお願いします。

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