EPISODE:13[少年よ、黒く煌け!!]
ネオンにとって自らの拳から現れた「撃つ拳」はヨモツマチにいた頃から今までに見た事のない現象であった。人間としての生前の記憶のないネオンではあるが、直感的に言葉や文字で言い表すのであれば「拳に纏わりつく泡を飛ばす」ような感覚。しかし何故なのだろう…ネオンは自身が抱いたこの感覚を過去に経験しているような気がしたのだ。そう…ネオンの頭によぎったその過去とは、自分が初めて骨格を使った時…
ゴズとの戦いで、初めて勝利したキッカケとなった苦し紛れの一撃で感じたものに似ていた。
「ん…ンだよテメェ、今何しやがったァ?」
遅く時が流れているような感覚に浸っていたネオンであったが、ベンケイの言葉を耳にしてようやく我に帰ることができた。体勢的にはネオンにとって不利かと思われていたが、先程の自分が向けた視線に誘導されたベンケイの意識も別方向に向いていた。
「っク(今のうちに……ッッ)!!!」
鍵をとることはできなかったものの、脚で押さえつけられていた右腕を振り払う。その場から数メートル分距離を置いたネオンは解除キー付きの長刀に手を掛けようと全力で走る。
「だから何べんも言わせんなやァ、追いかけっこすら成立しネェんだヨォ!!」
拘束を外されキーを取られそうになっているにも関わらず、ベンケイはあっさりとネオンの前へ飛蝗のように跳び越えた。先に手にしたベンケイは刀身が深く突き刺さった状態の長刀を大振りする。ネオンは寸前の所で先程の攻撃で学習したのか低い姿勢によって攻撃を回避した。
(そうだ、まず確認するのは…この能力が「どこまで出来得るか」だ…!!)
ネオンは回避しながらも、頭の中で今やるべきことを組み立てていた。たとえ能力を使えたと発覚してもそれを使うタイミングや詳細な情報を確認しない限り、現在のような状況を打破することはできない…そう悟ったからである。それはツバサとの戦いで学習したからこその考えでもあった。
(…だが幸いにも相手は僕の能力を眼にしていない。目にしていないからこそ…この戦いの中で見つけていくしかない……!!!)
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ネオンたちが激戦中の頃ヨヅクはモニターでその様子を監視していると、持っているプラスドライバーを机上に置いた。画面での映るのヨヅクの眼には苛つきの色が見える。
「……ベンケイめ、アイツ…抜いてんな」
「えっ?」
牢中での長時間の戦闘によって自分の能力に気づいたネオン、しかし…
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ベンケイの長刀による絶え間なき連続の突きを回避しながら、拳を撃つ隙を伺うネオン。相手の動きを観察していた為か攻撃のパターンが読めるようになっていた。
「粘り強さだけは兄貴譲りみてぇだが…果たしてどこまで続くかァ?」
ベンケイは柄を長く持ち変えると、左右に大きく振り払った。ネオンはベンケイの足元へスライディングして回避…後ろに周り拳を虚空に向けて撃った。
(よしっ、今撃って分かる限りだと射程距離は4~7m程か。あとは、精度よく攻撃できるかどうかだ…!!)
ベンケイは後ろにいる気配に反応し柄で後ろにいるネオンを突こうとするも避けられる。ネオンとベンケイは再び面を向き合って留まらぬ攻防が始まる。その時のネオンは左腕に集中しながらも頭の中である事を念じていた。確かめる価値があると感じたネオンはベンケイの長刀の刃を手でしっかりと正面で受け止めた。
「なっ!?」
さっきとは違った動きをしたネオンに少し動じたベンケイ。ネオンは掴んだ刃から急に手を離し、刃先に体重をかけていたベンケイはバランスを崩す。そのまま地面に倒れるベンケイの後ろから拳を撃ち込んだ。ただし今度の拳は先程のように直線コースではなく緩やかな弧が描かれるようにカーブとなっていた。
「やった…曲がッ…!」
視線が地面に向いているベンケイに気づかれないように近づいていく拳の弾丸が長刀の先にある鍵に近づいてゆく…あと数センチで触れようとしたその時だった。
『油断すんなベンケイ! 鍵が奴の「手」に触れそうだぞ!!!』
スピーカーから大音量でヨヅクの声が牢屋の中に響き、ベンケイは反射的に柄を素早く元の持ち方へと戻し、自分を中心にして円状に長刀を振り回す。ベンケイ本人は気づかなかったものの、ネオンの拳は長刀によって掻き消されてしまった。
「ヨヅクさん、余計な勧告は慎んで頂きたいんスけど」
戦闘中に水を差されたことに静かに怒るベンケイだったが…
『心配せずとも俺はこの一回で控えたい…だがお前の手加減の有無次第だ』
「俺が? …そんなつもりは」
『無意識になってるから問題なんだ! お前も気を引き締めろッ、じゃなきゃソイツは得るものも得られずにクオンの二の舞になるんだぞ!』
スピーカー越し雑音の混じった怒号は部屋中に響いた後に静寂が十数秒続くと、ベンケイは深呼吸を行った。
「…言われなくとも」
そう言ったベンケイは長刀を強く再び握り攻撃態勢に入ったが、相対しているネオンにはその気迫を先程よりも強く感じた。
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掴んでいたマイクを手離したヨヅクは監視カメラのモニターを睨むように見る。
(霊としての力を認識し始めた…でもそれだけじゃ駄目だ! その力を有効的に使えなければ意味を成さない! ネオン、お前にそれができるか?)
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その後の十数分間は同じようにベンケイの優勢が続いた。ネオンはバレずに何度か攻撃を仕掛けようとするが、常に相手が長刀を振り回している為に隙がない。二人の距離が離れたまま戦況は停滞したままだった。
(相手からより一層緊張感が増した、つまり…今までみたいに拳を撃たせてもらえないってこと。恐らくだけどベンケイさんに攻撃できるのは一・二発、それを躱されたら……たぶんだけど好機はもう無い!!)
攻撃しながらも考えているネオン、若干の焦りと苦渋の表情を見せていた。
(この数時間の間に分かったことを思い出せ、まず拳の弾丸は―――ッ!!)
交戦中に知った限りの「撃つ拳」の情報を脳内で整理した。
・拳を銃弾のように撃ちこめる。
・ノーモーションでも撃てるが、腕を振るようにすれば射程と威力が増す。
・射程距離は4~7m、それ以後は煙のように消滅する。
・ある程度イメージができていれば、軌道を変化させることが可能。
(判明できうる限り特徴はこの四つ…でもどうすれば)
「やベェ…ッ!?」
戦略を立てようとした時、調子の崩れたベンケイの声と共に偶然にもそれが起きた。手を滑らせてしまった相手の手元から武器が離れたのだ、しかもその武器が飛ぶ先には自分を弾き飛ばした「結械」が作動していた。
「あっ…鍵が」
好機だと思い咄嗟に手を伸ばすネオン。だがベンケイがネオンの腹部を蹴りあげ距離を離した。
「っぐ!」
ベンケイの長刀が結械と接触した瞬間、仄暗い牢獄に雷のように閃光が割れながら走った。触れた結械に弾かれた長刀を持ち主の手元に戻った。
「とッ……危ねェ!!」
「…」
「ヘマしちまいそうになったぜェ、だがまぁ―――…もうそろそろ決着をつけなきゃいけネェ事ぐらい、無駄に利口なお前なら分かってる筈だろ?」
それに対し、ネオンは静かに頷く。恐らく…ここが限界だろうとは感じているらしい。
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「もうすぐ決着が…つく?」
マドカはベンケイの一言に疑問を持った。
「霊媒骨格に憑いた霊体に戦い方を攻略されれば、これからの都衛軍との戦いに圧倒的に不利になるだろう。戦いが長引けば長引く程相手の戦術がどんどんと浮き彫りになってパターンも見えてくる、…要するに最善の選択をするのなら霊としての力でこの状況をひっくり返さなければならないという事だ!」
「もし…終わらなかったら?」
「…大した事はない。渡すべきモノが、渡せなくなるだけだ」
ヨヅクは後ろに置かれている「黒い霊媒骨格」を横目に見る。この牢屋に出ることこそ陰陽庁との戦いに参加できる資格を手に入れる事でもある。自分たちが長年築き上げた希望を持てる資格があるのかどうかも…この一瞬で分かれる。
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一方的にも見えた日を跨いで先程まで続いた激しい攻防戦は終わり、互いの間合いを維持しつつ円を描きながら動き始める。
「ベンケイさん、僕はこの数か月間で色んなものを失いながらも…同時に現実を知ることができました。ヒーローになる素質があるかどうかも、正直言って不安です」
「……」
「僕は心の底でヒーローになれない…勝てないからって…憧れの存在だって決めつけていた…!!」
今は亡き兄の背中は、確かに彼の中で強く残っている。但しそれは希望の象徴でありながら自分の描いた「超えられない限界」でもあったが、兄の意志を受け継ぐ覚悟を決めたネオンが今…やらなければならないことは一つしかなかった。
「だけど、憧憬が枷になっているなら…ヒーローが壁だというのなら……僕の未来を賭けたこの数秒で…貴方という壁を超えます!!!」
「そういう燃える展開、待ってればくるモンなんだなァ…本気以上の力で来なッ黒坊主!!」
円を描く両者の脚は対する者の方へと向かっていった。
「うおぁあああああああああ!!!!!」
ベンケイが長刀の攻撃を仕掛けようと振り上げようとした時を狙ったネオンはアッパーカットをかけるように「撃つ拳」を放った。その攻撃は、少年相応の小さな拳だったが彼の覚悟を感じ取れた。ヒーローとなる少年の最初の一撃…最初の技…心の中でネオンは叫んだ。
――――――『鉄拳ッッ、一號ッ』!!!
放たれた「鉄拳」はベンケイ目がけて真っ正面に向かってゆく。
「それがお前の特性か、いいねェ!!」
標的の顔の横を掠るまでの距離に「鉄拳」が横切り、後ろへと流される…
「よしッ、躱し……!!」
「今、僕が何故そこを狙ったか分かりますか? 攻撃は…まだ、続いてますよ」
ネオンのその一言にゾッとしたベンケイだったが、もう既に長刀は横へ方向転換していた。今の一瞬で起きたことは至って単純、ネオンが二つ目の「鉄拳」を長刀にぶつけたのだ。「鉄拳」がぶつかった衝撃によってベンケイの長刀は真横に弾かれる。すると後ろから火花が散る音が聞こえた。
「なッ……結械が?!」
一瞬後ろを見ると、結械に接触したのはネオンが最初に放った「鉄拳」だった。霊力の一部である「鉄拳」は弾かれ、あさっての方向に向けられた長刀についた鍵を掴み取った。
ネオンは素早く移動し、ブーメランのように帰ってきた自らの拳を握りつぶすと、自動的に「鉄拳」が握っていた鍵を手にした。
「兄さん、…………………初めて何かを掴められた気がするよ…」
長時間の戦いが終え二人はその場で倒れ込んだ。ネオンは鍵を持った手を挙げながらも牢屋の天井を眺める、この戦いで得られた事の多さと重大さを嚙み締めるネオンに、久しぶりにジャンプスーツの青年幽霊の姿のベンケイがいた。
「…使い勝手の良い技持ってんなぁオイ」
ベンケイが差し伸べた手を取って立ち上がるネオン。この時ベンケイはネオンに手を触れた瞬間に霊として成長していることを感じたのであった…。すると牢屋の出入口のドアが開いた。
「75時間31分40秒、存分に見せてもらったぞ…二人共」
外からの光によってヨヅクとマドカの影が見えた。
「ヨヅクさん…マドカさんも…」
「本当にお疲れ様、ネオン君」
マドカは優しく労いの言葉をかける。
「まぁ…だがそんなボロボロになっちまうんじゃあ、実戦はもっとボロボロになるぞ」
「ヨヅクさん、そういう意地悪は良くないと思いますよ」
ネオンはやっとの思いで手に入れた鍵をマドカに開錠してもらい、牢屋の扉を開くとヨヅクの前で歩みを止めた。
「俺が忌み嫌う存在に近づいちまったな…」
「…そうですね」
「もうこれ以上テメェを止めない。今俺がお前に与えるものと言えば―――こ(・)れ(・)くらいだ」
ヨヅクはポケットから何かを取ると、それをネオンに差し出した。黒い「憑依装弾」…しかし兄が使っていたモノでもなければ、ゴズやツバサと戦う時に使ったものとは異なり白い十字星のデザインが施されていた。
「これって……」
ヨヅクの目を見たネオンは数秒の沈黙で察した。と同時にこの装弾の中に秘められた霊媒骨格に、兄の意志を受け継ぐことを改めて誓った。
「苛烈な戦いで散る覚悟はできてるか、ネオン?」
「死にはしませんが…戦い続ける覚悟はできてますよ、その為に…僕はここにいる」
この瞬間から少年幽霊はモヅク探偵事務所の一員となり、戦う資格を手に入れた。
「後悔するなよ、今更骨格の返品するってのは無しだからな……」
そう、避けることも逃げ惑うこともできない――――ヒーロー同士が戦う壮絶な運命に。
~ほぼ同時刻、陰陽庁某所・「技術開発局」にて~
「しばらくは黒い霊力の調査実験を行う必要がありますナ」
「…そのようだねぇ」
緑色の小柄な老人型のヒーローと共にマガツは長い回廊を歩きながら持っているタブレットを見ていた…。タブレット端末の画面には電子新聞が開かれており、記事には「ファレルスタジアム、謎の破壊痕!!」という見出しと荒らされたサッカーコートの写真が載っていた。新聞を見ているマガツの気持ち悪い程の笑顔も引き攣っている様子だった。
「おまけにキックエースに付いていたGPSも反応していません、現場の方にも落ちていなかったとなると…破損した後に盗まれましたナ」
「その件については青の部隊全員で捜索中です、とは言っても憑依装弾の中身を取り扱える人間は…」
「…一人しかいないですナ、開発局長である私を除いて」
「そうですね…」
自らを開発局長と呼ぶ緑色のヒーローにタブレットを渡すマガツは笑顔によって歪めた瞼を開け、微かではあるが隠れていた瞳を見せるが、いつも通りの笑みによって隠れる。
「あぁそうそう、例の最新式の霊媒骨格はどうですか?」
「活動内容を見るに、性能的にも問題無いかと…所有者となる隊員も優秀ですナ」
タブレットを数回スライドさせた緑色のヒーローは、再びマガツにタブレットを渡すと画面はとあるヒーロー隊員の活動調査報告書が映っていた。その報告書に眼を通すマガツ。
「フフフッ…これは期待できそうだねぇ」
EPISODE:13「少年よ、黒く煌け!!」END
EPISODE:14「怪盗団ヤミネズミ」に続く…
どうも、作者のTHE黒と申します。…本日からNIGHTNEONの方を再開させて頂きました。本作が中途半端だってのに中断してしまって申し訳ありませんでした、ですが短編小説シリーズを通して自分の今後の投稿活動での方向性を確かめるために必要だと思ったのでこちらのシリーズを書かせて頂きました。やっぱTwitterのアカ名を作者名と同じにするべきだったなぁ…(虚目)。まぁ今回の短編小説を読んで頂いた方、
並びにアドバイス・感想等のコメントを寄越して頂いた皆様には本当に感謝したいと思います。本当にありがとうございました!!さて本作ではネオンが骨格を手に入れ、物語はようやく進み始めますので今後も「NIGHTNEON」の方をよろしくお願いします。あと、先程もボソッと言いましたが、Twitterのアカ名を作者名の「THE黒」に変えたいと思いますのでそちらの方もご了承くださいませ。それでは、また近いうちに…