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NIGHT NEON(ナイトネオン)  作者: THE黒
12/15

EPISODE:11[磨け、ベイビー!!]

夜のアストロンベイ・モヅク探偵事務所。埃が微かにコンクリートの床の上で揺れ動いている中、事務所の主である八百村百尽ヤオムラモヅク…本名・夜乃村与月ヨノムラヨヅクはオフィスソファで寝そべっている。周りの空間スペースには何かの資料らしき複数の分厚いファイルによって見事な連峰ヤマが生まれていた。その生みの親であるヨヅクがはファイルで顔を覆うかのように置きつつ寝ているようだが、当然ファイルには「陰陽庁」「マガツの動向」「六人の賢者」「霊媒骨格研究」のようにネームシールが貼られていた。マドカはそんな様子を傍目から見て一回ため息を吐く。テレビの電源は点いたままになっており、ニュース番組が放送している。


『アストロンベイで英勇都衛軍第一支部が設立されて三日が経ち、アストロンベイの治安維持は一段と強まりました! 「赤の部隊ヒロイック・レッド」副隊長であるブラッドワスプを支部長としたこの第一支部は…』


テレビに映っているアストロンベイ限定チャンネルである「アストラCHチャンネル.」には既に英勇都衛軍のコーナーが設けられており、隊員ヒーローたちが市民に親しまれ馴染み始めていた。ニュースで報じられたようにアストロンベイの中心区「N」に都衛軍の支部が置かれた。しかも皮肉なことに置かれた場所は、エヴァーダークと暗黒連合の最後の戦いの舞台となったアストリック教会の正面であった。


「はぁ、状況は刻々と厄介なものに変貌していってるな…」


ヨヅクは顔に置いているファイルをどけてテレビを視聴する。睡眠をとってはいなかったものの、ここ数日間の不眠不休が一目で分かる程の太い「くま」ができていた。


「でも確実に治安が良くなっているのは事実です。 他の都市や国からの引っ越してくる人も増加の一途を辿っているらしいですし…」


バイトで助手(兼お世話係)担当のマドカは相席である別のソファに座りながら何やらレポートらしきものを書いている。彼女は現在23歳で大学院生として理工学部について勉学に励んでいる。


『本日開かれた9時の会見にて、陰陽庁はパトロール強化月間を試行すると発表するとのことです…続いては、ファレルスタジアムの大破騒動についての』


電源を切られたテレビが沈黙し、ヨヅクは鬼の形相でリモコンの電源スイッチを強く押している…勢いでリモコンがバキバキに折れそうな程に。


「…オマケに面倒くせぇガキの面倒までやらされてる始末か、怒りを超えて笑えてくるよ…!!」


両手で表情をハッキリと見せないようにしてはいるが、結局ヨヅクが抱いている感情は一つしかない。ヨヅクの身体全身を揺らす貧乏ゆすりに、ククッと笑っているはずなのに下へと屈折している右片方の口角。そしてなにより威圧感を隠し切れていない…


(マグマみたいな笑顔…)


そう、煮え滾った激情の籠った不細工な苦笑いであった。


~~~


この照明の少ない薄暗い一室は、先程の探偵事務所がある建物・「ヨモスエビルディング」の地下一階。その一室には蛍光灯によってほのかに明るく、目立つようなモノは置いてないように見えるが、その部屋を半分に分けるように結械が張られていた。出口のない方には暗い顔で体育座りをするネオンがいた。するとドアが開き、一筋の明かりが差し込んだ。入室してきたのはマドカとヨヅクだった。


「ヨヅクさん…マドカさんも」

「こんばんは、ネオン君」

「少しは頭を冷やす時間を費やせたか…?」


ヨヅクは結械のそばへ歩み寄り、その場で胡坐あぐらを掻いて座る。マドカは入ってヨヅクの後ろで立つ。


「この建物は「結械コレ」と同じように霊体を弾く性質を持ってる、霊体たちにしてみればここは唯一無二の侵入不可能な要塞だ。まぁ中に入れたとしても脱出不可能な牢獄に早変わりだ」

「…気が滅入るほどにそれは身に染みました」


ファレルスタジアムでの一件の直後、ネオンは無理矢理にこの「結械牢獄」に入れられた。こんな状況で独断専行したことに後悔しないなんてことはないであろう…たとえ自分だけに非が無いと思ったとしても。


「お前に「謹慎処分」を与えていた数日間に表でも少し変化している,最初に何か聞きたい事は?」

「ツバサはっ、ツバサはどうなんですか…?」

「最初に聞くのがそれか…お前と同じようなものだ、別室の結械の中に入ってもらってる」


ヨヅクの報告に安堵のひと息をついたネオン。


「マドカ、テープを」

「はい、こちらです」


マドカからヨヅクに手渡されたのは1つの古いタイプのテープレコーダーだった。


「…それは?」

「俺達がお前に聞かせたい事実ものだ…」


『本当に、良いんだね?』

『…はい』


再生ボタンを押して、最初にレコーダーから聴こえたのは二人の声だった。一つは優しい声色で心配しているマドカ。もう一つの声にネオンは直ぐに気づいた。


「ツバサ…」

「数日前、アイツから色々と教えてくれた。自白テープって奴だ」


静まり返る薄暗い部屋の中、レコーダーの中にいるツバサの声は語り始めた。

今まで自分達に起きたこと、何故故郷を売ったのか、犯してしまった罪さえも…。

そう、始まりは―――


~~~


七年前の或る夜…廃地下街・ヨモツマチから外へと続く通路の一つ、12番街路にて―――――。


ツバサ、ゴズに加えて、ヨモツマチで最古参のジャクソン、等…他十数体の幽霊は一体の幽霊についていた。ホークと呼ばれているその幽霊はゴズ一派の一員で、ネオンたちとは直接関わったことはなかったゴズとはそれなりに親しかった。そんな彼らはゴズに良い話がある持ちかけられて、この街路に来た…のだが、


「…こりゃあどういうことだ、ホーク?」

「うぅ、動けない」

「まさか、貴方が人間側につくとはね…」


集団の先頭にいたホークを除く幽霊たちは一瞬にして制圧されてしまった。彼らを制圧したのは白い鎧を身に纏った部隊、「白の部隊ヒロイック・ホワイト」であった。


「ご命令通り連れてまいりました、マガツ司令官…」

「ご苦労でしたソニックブーム…どうも初めましてだね、アストロンベイの幽霊たちよ」


物陰から現れたのは陰陽庁大臣となる前のマガツ。ホークはマガツに道を譲るように立ち位置を少しずらす。ゴズたち相変わらずはライトに照らされながら、後頭部には隊員たちの武器が接触していた。


「無口なテメェにこんな知り合いがいるとはな?」

「口を慎めゴズ…ジャクソンもだ、お前らを消すのは息を吸うよりも容易なことなんだぞ?」

「あら…まるで自分は選ばれた者だとか思っている口調だけど、人間そいつらが幽霊わたしたちをどう思っているのかしら?」


そんなホーク、並びに「白の部隊ヒロイック・ホワイト」に手を出すなと言わんばかりに手で合図をしたマガツはゴズに近づいてゆっくりと座り込む。と同時に指示を受けたホークたちも一歩下がる。


「こんな手荒な真似をして申し訳なかった。でもこれ以上の荒事をするつもりも、僕も長話をするつもりはない…さて、では「本題」に移るとしようか」


マガツの言っていた「仕事」は、都衛軍の隊員となって陰陽庁の戦闘実験や訓練に協力だった。霊体であるゴズらが協力すれば実践的なデータを得ることができ、指令や任務を完遂すれば…


「生身の肉体カラダを手に入れられるだとッ!?」

「それって、つまり…」


「ええ…もう一度、人として生まれ変われるのです!」


ゴズも驚きを隠せない様子で咄嗟に聞き返すがそうなるのも無理はない。一度命と肉体を失って幽霊となってしまった自分たちが、再び人間として蘇るとは…非科学オカルト的な存在である亡霊にとっても信じられない話であった。


「到底信じられる話題ではないわね…死人が生き返るなんて」

「信用しなくても構いませんし、先程言いましたが「無条件」というわけではありません。ですがこれはあなた達にしかできない役割であり、互いにWINウィンWINウィンな取引だと判断しております…今後、アストロンベイがより完璧な都市に生まれ変わらせる為にも是非ご協力を」

「一つ、聞きたいことがあんだけど?」


マガツの話を一旦遮ったのは、帽子のつばに触れているゴズ。


「何でしょうか?」

黄泉街このまちはどうなるんだ?」

「…残念ながら、こちらは我ら陰陽庁が本格的に活動を行う本部を設置する為、今棲みついていらっしゃる方々には「立ち退き」を迫る必要がございます。その時にはお辛いかもしれませんが、あなた方にもご協力して頂きたいと…」


亡霊たちのざわめき声がピタッと止み、空気にはより一層の緊張感が漂っている。先ほどまで自分たちの居場所だったヨモツマチを捨てるのは、あまり気が進まないのか…それとも話を聞いている内に恐れをなしたのか…ツバサたちは正直狼狽えていた。だが…


「テメェらはどうすんだ…?」


後ろを振り向いて他の亡霊たちの顔を一瞬見回した。その時ツバサが見たゴズの顔には全く焦燥を感じず、逆にケロっとした表情であった。


「…」


俯いて悩んでいる彼らを見て、ゴズはやれやれと言わんばかりのため息を吐くと、マガツに歩み寄った。


「へッ…んじゃやらせてもらおっか、仕事ってやつを」

「「「ッ!!?」」」


「…ゴズちゃん、アンタ本気?」

「宜しいのですね?」


確認をするジャクソンとマガツ。


「どうせ断ったとしてもあんな地下街いえでの毎日が待ってるだけだ…オメェらも同じだから来たんだろ?」


ゴズが被っていた帽子に溜まっている埃を叩いて、ネクタイを締め直すように再び帽子を深く被った。


「では、残りの皆さまは?」


覚悟に燃えるゴズを見た他の幽霊たちも、自分たちの今の現状を変えたいと次々と互いに顔を見合わせて頷く。


「…」


否もうとする者は誰一人としていなくなった。これにはマガツも喜んだ表情で辺りを見回す。



「では早速ビジネスの概要について話しましょうか…」



こうしてゴズたち十数名の亡霊は、陰陽庁の一員となった。戦闘訓練・霊力のコントロール、アストロンベイ都市内全域の情報収集、そしてエヴァーダークの敵役である「暗黒連合」となって行う「シックスシリーズ」の実験…「偽りの英雄譚」の協力…幾年に渡って数々の任務を全うするようになり、数ヶ月前に起きたヨモツマチ襲撃へと続く。


「おっお前ら、一体なんのつもりだ!?」


ヨモツマチにいた何も知らない幽霊たちは恐れおののき、ゴズたちが彼らを取り囲んでいた。彼ら一人一人の手元には装弾ボムが握りしめられていた。


「急な話だが、地下街ココにいる奴ら全員…引っ越してもらうことになった」

「私たちのいうことを聞かないと…消えちゃうかもよ☆」

「では、始めるとするか…」

「…」


陰陽庁側に寝返った造反者ゴズたちは持っている装弾ボムに指をかけた。


そこから先は悪夢のような蹂躙であった。幽霊たちは結械の中へとぎゅうぎゅう詰めにされ、ヨモツマチは静まりかえった。人によっては変わっていないように見えないかもだが、この時ようやくヨモツマチは完全なる亡骸の街ゴーストタウンとなり果てたのだ。


隊員となった他の霊たちがどう考えているかは知らないが、ツバサは日が経つにつれて不安と罪悪感に襲われていた。自由の為とはいえ、故郷を売り手に入れた力を使って仲間を襲ったのは紛れもない事実であり、許されない行為でもあるのではないか?しかし心にそんな迷いが生じながらも訓練を受けている最中であった。


「よッ新入りィ。 ゲキヤマテンサゲェって感じん所マジゴメスね…マガツ様から指令書コレを君に渡して来いってさ」


青の部隊ヒロイック・ブルー」隊長のレップウブルーはいつものテンションで、ツバサに手紙を渡した。ツバサが気づいて顔をあげた頃には、レップウブルーがいつの間にか消え去っていた。開いた手紙の内容は次の任務に関してのことが記されており、内容は端的にまとめるとこうだった。



『支部所建設をに行うため、予定地に市民をに立ち退かせてほしい』



陰陽庁、ならびに英勇都衛軍が今後アストロンベイ全域に大々的に活動を行うには、支部所を建てて活動範囲を拡げる必要であると判断した。そこでマガツが目につけたのは利益が発生しない公共施設を建設予定地にするというものだった、ところがここである一つ問題が浮上する。予定地にする公園やサッカー場を使用しているスポーツクラブや団体の反感を買う恐れがあったのだ…そこでマガツはある「解決策」に乗り出した。霊体隊員のツバサが骨格の力を使って予定地を使えないように破壊すれば、怖がって誰もそこへ踏み入れなくなる…無論証拠を一切出さずに。


この指令が下されてツバサは陰陽庁に対して初めて恐怖を感じた。陰陽庁が目的の為なら手段を選ばないと察した。「自分は間違えていたのでは」と一瞬思いとどまったが…


『アストロンベイが絶対なる平和と秩序をもたらす真の意味での「英雄都市ヒーローシティ」に生まれ変われば、君は今以上に人々に敬愛される存在になる。君が健全で完璧なヒーロー隊員となることを心から願う』


指令書の最後に書かれていたメッセージを見て、今まで「生」に対しての執着と噛みしめきれない程の孤独と絶望がこみ上がった。結局自分の輝かしくも捻じ曲がった「願い」の為に、彼は踏みとどまることなく任務を遂げる決心がついてしまった。内容としてはあまり大事にならないよう、一部の道具・施設を発見したその日に使用できないような状態にする程度に。任務開始した時には何の問題もなく遂行しているように見られたが、問題となったのは4件目のサッカー施設の時であった。人気のないとあるサッカー場で、指示された通りにサッカー場を使えない状態にしようとした。その時、追い込まれたツバサを支配するかのように黒い霊力が彼を狂わせた。…気がついた時には周りの惨状に寒気を感じずにはいられなかった。


「…そんな」


周りの状況を見ても、自分が起こした惨状であることを悟ったツバサ。数日後サッカー場を使っていた児童サッカークラブの保護者たちが警察に捜索届が出されたと報告が入った。即座に対応したためにメディアには取り上げられなかったものの、行き過ぎた破壊行為によってツバサは数週間任務活動を中止し待機を命じられたのだ。


~~~


レコーダーから聴こえる「声」はヨヅクが押したボタンによって止められる。


「…ちなみにだが、お前が奴と再会したグリンドット公園も任務の対象だったらしい。だがマガツたちに抱く疑念からか任務を遂行することに戸惑っていたそうだ…」


ツバサの証言に添えるように言うヨヅクに、ネオンはハッと気づく。確かに再会を果たした自然公園でツバサは紛れもなく少年たちがサッカーをしている様子を見ていた。


「そんな…ツバサが?」


自分を極限に追い込むような現実を叩きつけられて激しく動揺するネオン。


「でもってその後は…言わずとも、だろ? 傷つけてでもお前をマガツに差し出せばって思ったんだろう…」

「…」

「これでようやく分かった筈だ…もう奴らを信じきることはするなッ、これ以上馬鹿を見たくなければ!」


ヨヅクの言葉に耳を傾けているのか、ネオンは啞然とした表情のまま固まっている。マドカは喋っているヨヅクの肩を掴んで抑えようとするが、すぐに手で弾かれてネオンの顔が向いている方へ位置を移動した。


「霊体であるお前らは自分の願望に対しての抑制力は低い…友情なんかよりも自分の」

「何て言ってましたか、アイツは自分のやったことについては?」

「………ハァ」


ヨヅクは憤りを耐え抜いてはいるものの、ネオンの落ち込みようを見て深いため息をついた。すると、停止させたテープを数秒間早送りしてスピードを元に戻して再生した。


『ちゃんと話してくれてありがとね、ツバサ君…』

『僕は…消えるべきですか?』

『え…?』


~~~


「僕は人間の友達をつくりたい、そんな想いで都衛軍の一員になりました。…だから僕はやってきたことを振りかえらずに曲げられなかったからネオンと戦うことになった…でも、スタジアムの惨状を見て、ネオンの言葉を聞いて…僕の心が捻じ曲がっていたことに気づきました」

「…」

「人を傷つけてしまう力を持ったことを…初めて実感しました、そして自分がどれだけ罪深いことをしたのかを…」

「ツバサ君…」


人間たちと仲良くなりたかっただけの為に、自分の周りから失ったものの大きさを実感してしまったツバサは唇に穴が開いてしまう程に噛みしめていた。例え傷が出来ずとも、血が流れずとも…


「マドカさん…でしたよね? ネオン君には今まで黙ってて…騙してごめんって…伝えて下さいッ!!」


ツバサの胸中が軋むほどに膨らむ自己嫌悪に襲われていることを近くにいたマドカは直に感じた。

それは、


~~~


「…ツバサ」


レコーダー越しに聴いていたネオンにさえ感じることができた。その場にいたヨヅクもさすがにこの声に同情を…



「けどまぁ俺に言わせば、馬鹿で惨めなこったよな?」


一片も見せることはなくアッサリと非情な言葉を口にした。


「………え?」


声の持ち主の親友であるネオンも、助手であるマドカもこの言葉に耳を疑った。されどそんな空気の中でもヨヅクは全く姿勢を転じることもなかった。


「今まで散々仲間や家族を裏切っといて、叶う筈のない自分の願いを正当化して…挙句の果てに自分のやらかした事に後になって気づいて心傷めるなんて…ムシが良すぎだ、反吐が出そうにな!!」

「ちょっヨヅクさん、いくらなんでもそこまで言うのは!!」

「スタジアムの惨状を思い出してもそんなこと言えるのか、マドカッ!!」

「…ッ!!」


流石にヨヅクの激しい言葉を止めようとするマドカであったが、ネオンもファレルスタジアムでの件が頭をよぎった。誰がどう見てもあの場所に人がいれば、怪我だけで済むはずはなかった。


幽霊こいつらの願いが叶う為なら、お前は死んでもいいってのか…人が死んでも良いってのか?!」

「そっ…それは……」


マドカも口を濁してしまうと、ヨヅクはその場で膝をついた。


「なぁネオン…お前はゴズやツバサのように自分のエゴや欲望に負けてしまわないと…ハッキリと言えるか?

ましてや人の忠告を無視してまで仲間として接触しようとした、お前が!!」

「…」


追い込むような口調ではあったが、ヨヅクの目を見てネオンはヨヅクが苛立ちや憤りだけで責めているのではないと感じた。幽霊たちの抱く願いはどういった経路であろうとおのれの破滅をもたらした。ゴズやツバサだけでなく自分さえも強い願望を抑える事ができなかった…できなかったからこそ、ああいった形で友と傷つけあってしまった。その事実は無かったことはできない。


「何も言えねぇとは情けねぇ限りだな」

「…僕は一体どうすれば良いんですか?」

「今自分がなすべき事をやれ。お前が、「お前の意志」で兄貴エヴァーダークと同じように誰かを救いたいんならばな…」

「…クオン兄さん、みたいに…」


ネオンの脳裏に映る場面は、あの日、兄・クオンに何故戦い続けるのかとい問いかけた時であった。


『俺しか「戦える」奴がいなかったからだ。 20年前のあの日、アストロンベイで「悪の組織」と戦える奴は俺の他にはいなかった…だから「戦った」、それだけだ』


そしてもう一つ…ファレルスタジアムで「ナギナタマル」と呼ばれていた黄色い骨格のヒーローのあの言葉。


『「霊媒骨格」は使い方を一つ間違えれば…俺達をただのバケモンに変えちまう代物なんだからなァ』


自分の出せる霊媒骨格の能力、迷いを生んでしまう未熟な精神、そして自分が目指すヒーロー像…

それらは未だ形を成していない。


「さぁどうするクソガキ…希望を目指して共に戦うか、諦めて檻の中で傍観するか…選ぶのはお前次第だ!」


自分が…本物のヒーローとなる為に、行くべき道は…ただ一つ。


「やって…みせます!!!」


未熟であった少年幽霊の決意は再びいや以前以上に固められ、本当の意味を持つヒーローとしての力を求めた。


「…前者ってことで受け取って良いんだな?」


ヨヅクが先程まで纏っていた怒りも一先ず落ち着いた事が分かり、マドカもホッと胸をなでおろした。

すると


「ならばお前には教えてやる…というより気づいてもらう必要があるな」

「気づいてもらうって?」

「…お前の霊体としての力だ」


意味も分からず首を傾けるネオンであったが、すぐ後ろに何者かの気配を感じた。


「よっ、久しぶりだなァ黒坊主!」


瞬時に後ろを振り向くと、そこには一人の幽霊が立っていた。とは言ってもヨモツマチで見かけた事の無い幽霊だった、下半身はトラックスーツを履いているがスーツの上部を腰に結んで、白のタンクトップを着ている。顔と背丈からしてゴズと同じくらいにも見える。ネオンは久しぶりだと言われたが全く見知らぬ顔で戸惑った。


「えっと…」

「って…しまったぁ、この姿を見せんのは初めてだったな」

(この姿…って?)

「…へっ、ポカーンとしてる所悪いけど、今から簡潔に話してやる」


トラックスーツの青年は腰に結んでいるトラックスーツのポケットから現れたのは電子カードだった。


「これは結界装置の解除キーだ…これを俺から取ってみろ、それがお前の課題…らしい!」


青年幽霊はそう言って解除キーをタグ型のカード入れに入れた。勝手に進んでいく話の内容が見えないネオン。


「…というか「課題」って?」

「お前があの骨格フレームを使い切れていないのは、まず第一にお前が自分の潜在能力を知らないからだ…。

だからこそ霊体としての力を見出して、その使い方も覚えてもらう」

「ああ…成程、確かに今まで骨格の力にしか目を向けていなかった…」


ネオンたちの使う霊媒骨格とは霊体専用の鎧…扱う者によって不動の英雄にも醜い化物にもなってしまう。

たとえ攻撃力の高いと思われる「黒の霊媒骨格」を操作するといえども、ネオン自身の能力や特性を知らなければ相手に打ち勝つことはできない…それは経験が少なくとも過去の戦いから知ることのできた教訓であった。


「という訳で後は頼むぞ。俺はこれから熟睡タイムだ、騒いだらぶん殴るかんな…いくぞ、マドカ」

「それじゃネオン君、がんばってね…」


ヨヅクはネオンに大きな欠伸をしながら、マドカはネオンに手を振りながら去っていった。


「…ん?」


「さてと…んじゃ、始めようじゃねェか?」


名前も分からないトラックスーツの青年は先程出した箇所とは逆のポケットから取り出した。


「えっ、それって?」

「ん、勿論憑依装弾ヨロイボムだけど?」


手に持っていたものは黄色の憑依装弾ヨロイボムであった。実戦的な課題であることは明白だった。


「あの、課題をするって言っても…今僕持ってないんですけど…骨格スーツ?」


しかしネオンは謹慎中ヨヅクに黒の装弾を預けているため、今すぐ変身することはできない。もしこの状況で敵と戦闘を行うのであれば瞬殺は免れないだろう。


「おいおィ今自分で言っただろ、霊体であるお前自身の能力を試すってよォ…」

「いやそういうことじゃ」


そう言いかけたネオンはふと気づいてしまう。自分自身の能力というのは骨格からだ無しの能力ポテンシャルを鍛えるということは…


(あれ? …この展開って…)

「ああそうだった、まだ自己紹介してなかったな…」


青年は装弾を指で弾くと、そのまま落ちて地面に着こうとした時に青年が装弾を踏み砕いた。先程までネオンは見損ねてはいたが、ようやく自分の眼の前にいるこの青年幽霊が何者であるかを悟り始めた。彼が踏み砕いた憑依装弾は黄色くカラーリングされている。


「ってちょっと待ってください!! き、黄色の装弾ボムってことは…まさか!?」

「元は「黄の部隊ヒロイック・イエロー」の一員だったが…俺の名前は改めて覚えておきな!」


踏み砕いた足に纏わりつくように装備されていく骨格。黄色い鎧を着た足軽が姿を現した。



「俺の名はベンケイ、またの名を…人呼んで「千戟のセンゴク」!!」


かつて自分を窮地から救ってくれた黄色の骨格を駆使するベンケイ。するとベンケイは解除キーが入っているカード入れを持っている長刀にひっかけた。まさかと思ったネオンであったが、どうやら的中のようだ。


「さぁ…俺からこの解除キーを取って牢獄から出てみろ…装備無しすっぱだかのお前の全てを見せろ、未熟者ベイビィ! 」


ヒーロー・センゴクの持つ長刀の刃に近い柄の部分にカード入れがぶら下がっている状態になっており、臨戦態勢でネオンに矛先を向けていた。つまり…骨格無しで、骨格に憑いている敵から、解除キーを盗んで脱出しろ…ということであった。


(拝啓クオン兄さん、初っ端から、…何もかも叩き折れそうです)


それが遺言のようにボソッと口にしたネオンの一言である。


Episode:11[磨け、ベイビー!!]END

次回、Episode12[疼く拳銃]に続く。

【NO.5】「千戟のセンゴク」(元ヒーロー名・「ナギナタマル」)

[当時所属部隊(序列)]黄の部隊(2位)[身長]:179cm [体重]:153kg [パンチ力/キック力]9.2t/13t

都衛軍から脱退したヒーローの一人で、現在はヨヅクたちの仲間となっている!だが部隊序列2位の実力は

決して伊達ではなく、「黄の部隊」に所属していた名残で常備している長刀、そして本霊發器である「千手尖兵(ザ・ミリオン)」によって繰り出される千本槍での連続攻撃によって相手に攻撃どころか防御する余裕を与えない! 強いぞ、すごいぞ、ナ…センゴク!!


・作者にて

どうも、作者のTHE黒と申します。今回この11話を読んでいただきありがとうございます。夏が…もうそこまで…。ちなみ自室は陽の光は入りませんが、部屋の構造上の都合で熱気がこもってしまいます。結果、朝起きた時のベッドがびちょびちょになってたりもします。外へ出てくるたびにポカリを購入し、家へ帰っても少しぬるくなったポカリを飲み干し、実質今私のデスクワークはポカリの空ボトル置き場になってます苦笑。皆さんもこれから夏真っ盛りになってイベントとか外に出る機会が増えると思いますけども、

水分補給を忘れずにこまめにしましょう…。ネオンvsベンケイの戦いが予想される第12話もお楽しみに。それと作品についての感想・コメントもTwitterでお待ちしております。それでは、また近いうちに…

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