表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
NIGHT NEON(ナイトネオン)  作者: THE黒
11/15

EPISODE:10[触れられぬ願い(後編)]

EPISODE:10「触れられぬ願い(後編)」


地下街の隅にある広場で、彼は一人でサッカーボールを壁に向けて蹴っていた。

ツバサと名乗るその幽霊は、当時ヨモツマチで珍しい少年の姿をした幽霊であり、地上では真夜中の公園で一人で遊んでいた。しかし生きた人間の子供たちと同じように共に遊ぶ友達がいなかった、後に現れる同じ少年幽霊のネオンを除いては…

正確に言うとネオンはツバサより少し上ではあったが、出会った当初から彼らはサッカーで遊ぶようになっていった。ある夕暮れ時に、ネオンはツバサと一緒にグリンドット公園の並木通りで人間の子供たちとすれ違った。年齢はおそらくツバサと同じくらいの子たちばかりであり、全員泥塗れになりながらも声を出しながら笑っていた。そんな彼らの後ろ姿を見てツバサはふと寂しそうな表情でネオンにこう質問した。


「ねぇ…ネオン、僕らは人間かれらと分かり合えることはないのかな? 確かに僕らは普通の人には見えないし、実在するモノに触れる事もできない。幽霊は人間と根本的に性質が違うかもしれない…でも心は人間じゃない、生きた人間と大差は無いでしょ?」

「…だからこそ人間たちと理解し合える、と思うのか」

「地上の人間も、ヨモツマチの幽霊たちも互いに相手を忌み嫌っていると思うけど…いつか人間の友達もつくりたい。…そう思う事って変な事だと思う?」


ネオンはこの少年の持つ子どもたちに対する憂いにも似た哀しい視線に気づく。


「幽霊と人間の間には確かな境界はあると思うし、その壁を超えるのは何十年後の話になるのかは誰にも分からない。」


立ち止まっているツバサを後にして歩み続けるネオンは夕陽が差す路に足を踏み入れ、歩みを止めた。


「だけど誰かが壁を越えようとしない限り、夢を実現させることはできない…だから諦めずその意志を持つべきだ。」

「ネオン…」


「といってもコレもクオン兄さんの受け売りだけどね…。」


その一言に笑ってしまうツバサとつられて笑うネオン。その声は普通の人間には聞こえないがヒーローを目指すネオンと人間の子供たちと友達になりたいツバサ…行く道は違えど彼らには確かな友情があるように思えた。



(どうして、どうしてなんだよ…ツバサ!?)



それから時が経ち、二人は各々の道へ歩み、やがて…最悪の再会を果たし、残酷な戦いを強いられている。



今現在、ネオンたちは池に落ちた公園・「ファレル国際記念公園」近くにある市民競技場に場所を変えた。

アストロンベイで住宅街が密集した「B区」には大小関係なく数ヵ所にスポーツ施設が存在する…その中でも、かつて世界的なスポーツ大会が開催されたことがある程に規格の大きい競技場がこの「ファレルスタジアム」である。


そのスタジアムへ急落下する「黒い物体」は着地すると同時に、上空から襲ってくる凄まじい突風によって吹き飛ばされた。黒い物体…もとい霊媒骨格に憑依したネオンは崩した体勢から戻ると、先ほどの上空から突風を起こした「キックエース」がゆっくりと滑空しながら降下していった。


「くッッ!」

「流石に一発で倒せるとは思ってないよネオン…攻撃力特化の「赤の部隊ヒロイック・レッド」の一人を倒した君を!!」


着地したこのスラッとした青のヒーロー「キックエース」、その正体はかつて相対している少年幽霊ネオンと夢を語りあったツバサであった。


「つ、ツバサ…これは君の夢にとってコレ・・は不可欠なことなのか? 自分たちの故郷いえを壊して、無理やり家族を捕まえて……

殺した奴らと組んでまで、お前の夢は汚れてもいいものじゃない筈だ!」


キックエースは右足を大きく後ろに勢い良く引く。攻撃すると判断したネオンも当然警戒体勢をとった。


「ネオン、残念だけど僕を説得する事は諦めてくれ…僕にはもう、これしかチャンスが無いんだ!!!」


そのままネオンが居る方向へキックエースは空いた空間を蹴った。そのキックによる風圧は尋常な威力ではなく、ネオンの体は数十メートルまで再び吹き飛ばされた。


「…くッ! 蹴った風圧でここまでの威力なんて…」

「心配しなくても僕も君を傷つけたくない…だけどもしこれ以上抵抗するなら」


今度は左脚で蹴ると、左膝から射出口らしき穴から空気弾が発射された。ネオンが気づいた時には自分の立っていた周辺のコートの芝生にサッカーボール規格サイズの穴が穿っていた。


「次は、外さない!!」


「やっと再会できたってのに…何で僕たちが戦うんだ?!」

「もう振り返る事なんてできない! この骨格スーツを手に入れた時…そう決めたんだ」


~~~~~


時は一年程遡り、ツバサが都衛隊に初めて入隊が決まった頃であった。陰陽庁の訓練所にて…

ツバサは自分が使用する「キックエース」の初メンテナンスを行っていた。


「やぁ、新人君。 霊媒ヒーロー骨格スーツの調子はどうだい?」


現・陰陽庁大臣であるマガツはツバサの入隊に対して相も変わらずの不気味な営業スマイルで


「未だに信じられないです、これさえあれば…」

「そう! その骨格フレームさえあれば君はもう今までのような「幽霊」という不確かな存在ではなく…誰からも愛される「ヒーロー」になれる!」


「だが我々が本格的な活動を行うとなると、より大きな拠点ホームが必要となります」

「…やっぱり地下街ヨモツマチを?」

「お気持ちも分かりますし、誠に勝手なお話であるということも重々承知です。ですがこれも君らのような

候補生の教育養成と、実部隊である英勇都衛隊の本格的な活動の為には…これは必須なのです」


無論ツバサには今まで過ごした場所を譲り渡すのは流石に後ろめたさがあった。少なからず友人であったネオンとのことも思い出していた…しかしそれ以前に頭によぎったのは、今までに感じていた幽霊であるがための孤独感、そして果てしない虚無感であり、それらは自分が幽霊として存在している間の中で何よりも心に刻まれていたものでしかなかった。


「貴方は候補生の中でも一、二を争う優等生です。 そんな君だからこそこの仕事を」

「あの…」


マガツが力説している最中にツバサはその言葉を一旦絶ち、変身を解除して元の霊体へと戻った。


「なら僕ら以外の幽霊ヒトたちは?」

「彼らの今後について詳しいことは残念ながら言えないが、ぞんざいな扱いはしないつもりだ…それだけは約束してあげよう」

「…その言葉、信じていいんですね?」


ツバサは憑依装弾ヨロイボムをマガツの手元に置いた。するとマガツは装弾を指で弾くと、それは天高く舞いあがる。


「私は英幽都衛軍の総司令ですよ? 「秩序」と「平和」と「約束」は守りますよので」


舞っていった装弾を再び弾いた手中へと戻った。


~~~~~


「…ヒーローになればッ! 誰もが認める「ヒーロー」という絶対的存在になれば、友達だってッッッ!!!!」


キックエースの脚力をつかってネオンを追い込んでいる。ジェット噴射によって驚異的なジャンプで移動しつつ右足の脚力による突風、左脚から射ち放った空気弾の雨霰によってネオンの逃げ道を絶たせた。


「ネオン、君だってこんな現実に嫌気が差しているはずだッッ!!」

「僕は断じてッ現実逃避がしたくて兄に憧れていたわけじゃない!」

黒い英雄ヒーローとしてのクオンさんが輝いていたからこそ、君はそうなりたいと思った…人々に称賛され、感謝され、愛され続けた完璧なヒーローにッ!!!」

「ッッッ!!」


そのツバサの一言に、ネオンはあの雑誌の記事を見た時がフラッシュバックとなって再生された。その時のクオンの言葉を忘れるはずがなかった。


『…いいか、ネオン。これが人間の「サガ」であり、お前が憧れている「ヒーロー」が背負うものの一つだ。』


確かに兄さんが黒い英雄・エヴァーダークとして人々に愛されていたことは明確だろう…だが、


「―――――――分かった!」


それでもクオンは、いつも耐えていた。


「――――――――――――ッような!!」


戦わなければならない重圧を背負う日々の中でも、飄々とした様子で


「―――――――――――――――――――ことを、言うなァァッッッ!!!」




彼は、人々を最期まで守ろうとしていた。




ネオンは心からの叫びと自らの拳に交えて、それらをキックエースにありったけのパワーでぶつけた。


「ヒーローは人々に愛されたいと思って戦うんじゃないッ! 存在が認められたくて存在するんじゃないッ! …たとえ望まれなくとも非難を浴びられても、見向きされず求められずにきられてもッッ!!!」


それと同時に殴り飛ばしたキックエースのもとへ駆けつけ、両肩に強く手をかけた。


「守りたくて守りきるのが、ヒーローなんだよォ!!!!!!」


その叫びはファレルコロシアム内に山びこのように響いた…そんな叫びにツバサは応えようとはしなかった。

掴まれたネオンの手をはねのけ、右足の突風で彼を遠くへ吹き飛ばした。幸いネオンは瞬時に片手片足に骨格を展開させて地面にしがみついていて空に舞い上がることは無かったが、掴まれたサッカーコートの芝生は削り取られて一本道ができていた。


「愛されないヒーローが、ヒーローの筈がないッ!! そんなのはヒーローなんかじゃない!!」


キックエースは再びジェットを使って猛スピードで突進し、「空気の弾丸」を放つ左足でネオンを蹴り飛ばそうとした。ゼロ距離で空気の弾丸が直撃すればネオンを戦闘不能にさせることができると踏んだのだ!


(この攻撃が通ればッ!!!)


弾丸を撃ちこんだ感覚も手応えも感じた…と思われたが、ネオンへのダメージは全く与えることはできなかった。ネオンの手はキックエースの弾丸の射出口を塞いでいた。


「チャンスを逃したな」

「…っだからどうした!!!」


右足のジェットで素早く移動しようとするも、ネオンは負けじと掴まれた足を引っ張る。

再びネオンはキックエースの顔に力をこめたパンチを見舞った。キックエースはネオンの時よりも派手に、遠く吹っ飛ばされた。ぶつかった観客席はことごとく大破してコンクリートにも割れ目ができていた。


「遠距離攻撃も可能な「キックエース」ならば、君に攻撃することができる…もういい加減諦めてくれッッ!!!」

「…左足なら、もう使えないよ」


その言葉を耳にしたキックエースは自分の左足を見ると、空気の射出口が土の塊で詰まっていた。


(…! さっき足を掴まれたときに!!?)


「その脚…ペットボトルやマヨネーズの容器と同じ仕組みなんでしょ? だからッ吸い込む時に口を塞がせてもらった」


キックエースは空気弾を補填しようとしたものの、完全に塞がれた左足は空気を吸い込むことができなかった。左足に意識を持っている内にネオンの攻撃に反応できずに受けてしまった…キックエースの体は地面に強く衝突し、ネオンはここで更なる打撃を加えようとする。その鉄拳パンチがあたる直前に、キックエースは最大出力のジェット噴射によって攻撃を回避した。急な高速移動であったためか、完全に崩れた体勢で向かい側のスタンド席まで移動し…そのまま衝突。先程と同様に観客席エリアが破壊された。


「何で…なの? 僕の夢を…応援してくれてたのに…あの言葉は、嘘…だったの?」 

「……ツバサ」

「同じヒーローの道を行こうとしているのにッ、ただ人間の友達が欲しいだけなのにッ!! それでも君は僕の夢を潰そうとするの!?」


ツバサはヨレヨレになりながらも立ち上がりながらも、ネオンに向けて言葉を投げかけた。それは聞いているネオンに思い出させる…幸せだと言えずとも夢や希望に満ち溢れた「過去」を。その「過去」はネオンたちにとって今思えば一番幸せに感じた瞬間だったのかもしれない、だが今やその瞬間の輝きは2人にとって皮肉にも重く辛く、そして片方ツバサにとっては絶望の他なかった。



「もう止めよう…こんな戦い、不毛以外のなんでも」

「…やめないッ、やめることなんて出来ない! ここで諦めるくらいなら…ッ!!」


キックエースの両脚後部、人体でいうところのアキレス腱にあたる部分が変形する。ネオンはなんとなくであるが瞬時に察知した。過去にコレと逢いまみえたことがあるからだ…!



「本霊………發器、展開!!!!」



秒数を数えようと考える余裕さえもなかった。ネオンはふと両隣を見た時の光景を瞬時に信じることはできなかった。それはサッカー場の芝生どころか後ろの観客席を三等分に断ち切られていたのだ。

後ろを向いたネオンは再び前へと顔を戻すと、そこに立っていたのは先程のキックエースとはかけ離れたヒーローの姿。その姿は余りにも神々しいものであり、両脚のジェット部分からはクリアな水色に光るブレードが鋭い光を放出されていた。


「それってゴズさんが使っていたものと同じ! っていうことは」

「使おうとなんて…思ってなかった、だけど…もう躊躇なんかしない! この一発で決めてやる!!」


本霊發器によってパワーアップしたキックエースはジェットで宙に高く浮き、両脚のブレードは徐々に長くなっていく。


「もう引き返さないんだね…ツバサ」

「さっき言った筈だよ、もう説得なんてしないでくれ…」


最早二人の決着は言葉で解決できる段階ではなかった。ネオンはキックエースの強化された一撃に対してフルパワーで応戦しようと両腕に骨格を憑依させる。キックエースもジェットの音が大きく変わっていくのが分かるほどに突進する構えをみせた。やがて互いの覚悟ができた二つの視線は火花を散らすように熱く重なって、数秒の間の後…


「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッ!!」」


二人の未熟な少年ヒーローの拳によって決着を迎えようとしていた…………






――――――筈だった。






「はい、それまでよォ…っと!!」

「「ッッッ!!!」」


それは今までの戦いにふさわしいと一切感じられない程に力の抜けた一言…そして突如現れた無数の腕によって両者は無理やり地面に組み伏せられ、身動き一つとれなくなっている。


「…ッ全くこれがガキの喧嘩か? シャレにならねぇ位にぶっ壊しちゃってよぉ…」


一体自分たちに何が起こったのかをすぐに判断できなかった、それほどに一瞬の出来事であった。

地面に伏せられたネオンの近くに何者かの足が近づいていることだけは分かった、ネオンとキックエース以外の何物か…その足はネオンの傍で歩みを止め、ネオンも顔を上げる。


「ッ! 貴方は……ッッ!!」


足の様子を見て分かってはいたが、それは自分達が身に纏っている霊媒骨格のそれと同じものだ。ただし今まで見てきた骨格と違ったのは、眩い黄色い光沢を奔らせたヒーロー…しかも長い柄が特徴的な長刀、機動性に特化したスマートなフォルムを持つまさに戦場を駆け巡る「足軽」のような姿をしていた。その正体をキックエースは知っているようで、驚いた様子を見せた。


「『黄の部隊ヒロイック・イエロー』の元ナンバー2、ナギナタマル!!」

「…その名前ヒーローネームで憶えてほしくないし、ナンバー2になった憶えもねェ!」

「どうしてここをっ!?」

「俺も子守りなんてしたくてやってる訳じゃねェ…ただコイツがくたばっちまうと困るってウチのボスが言ってるんでねェ」


ネオンに視線を向けるナギナタマルであったが、目が合ってしまったネオン本人は逸らしてしまう。


「夜乃村与月も、英幽都衛軍を裏切った貴方達三名も…アストロンベイに潜む忌むべき巨悪だ!」

「…知らず知らずのうちに嫌われ者になっちまったなァ、俺達」


ナギナタマルはケタケタ笑いながらも、おもむろに自分の所持する長刀を回す。



「僕の夢を、願いを壊すのならば容赦はしない…たとえ誰であったとしても!!」



キックエースから漏れ出す霊力にネオンは違和感を覚えた。足についていた水色に発光していたブレードや身に纏う霊力が変質し、徐々に色調が濁り始めたのである。骨格に憑依していたから確たるものは決して見えない、しかし周りから見ても分かるほどにツバサは殺意と嫌悪に満ちた眼に見えたような気がした。


「…何、あれ…?」

「こりゃまたいいタイミングで暴走したなァ。 おい黒坊主、お前にも見えてるよなァ?」


黒坊主と呼称されているのが自分である察するのに数秒かかって改めてナギナタマルに眼を向ける。

ナギナタマルは振り回していた槍を暴走しているツバサに向けて、ネオンの視線を移動させた。


「あれが、俺やヨヅクさんが陰陽庁あいつらから抜けぴした理由の一つさァ!」

「…黒い…霊、力?」

「あの霊力を放出している奴には2つ共通点がある…一つは放出している間、凶暴化して暴走する。 そしてもう一つはクソ野郎マガツの手によって改良された骨格を使ってる奴ら全員もれなくアレを発症してるってことだ!」


ツバサの黒い霊力の流れがみるみるうちに速くなっていく。動きを止めていた幾多の腕は限界がきたのか自然と拘束がゆるくなっている。


「さてと…そろそろ本分の仕事すっかァ…」

「ッそんな…あんな状態のツバサと戦ったら!」


その言葉に反応するかのように、地に伏せていたネオンは空中に舞っていた腕が持つ槍によって無理矢理首を上に向けられる。ネオンの顔にくっつくような距離にナギナタマルの顔があった。


「ンな事言える程にテメェは力を扱えてるとは到底思えねぇけどな、未熟児ベイビィ?」

「…何だって?」

「っへ…まぁじっとして見てな、「この姿で出来る事」のごく一部をな―――ッッ!!!」


ナギナタマルは槍を諸手で持ちながら、ツバサの下へと駆けていき、暴走状態のツバサも既に多腕の拘束から解かれていた。拘束を解いて暴走したキックエースはジェットによってあらゆる方向、角度へと瞬間移動と思われるほどのスピードでナギナタマルを包囲した。


「本霊發器、展開――」


ナギナタマルが展開しようとする瞬間、ナギナタマルの居た場所に360度から数発の空気弾を撃たれた。さっきキックエースの撃ったものよりも更に衝撃が強くネオンにも突風が直撃した…直接当たってしまったと思われたナギナタマルの姿は土煙が晴れてすぐに見る事ができた。ナギナタマルの周りには今ネオンを組み伏せているモノと同じ「浮遊する腕」が、ネオンの首元にあるものと同じ「槍」を持っていた。ただ圧倒されるべきはその量であった。


「――――千手尖兵ザ・ミリオン!!」


ナギナタマルに対しての空気弾数発は、ナギナタマルを包み込んでしまうような千を当に超える程の「槍を持つ腕」によって防がれていた。ネオンが先程ビクビクしながら避けることしかできなかった恐ろしい威力の空気弾は風となって空へ消えてゆく。


「こんなモンなのかァ?」

「数が足りなかっただけだ、これで終わりにしてやる!!」


キックエースの両脚が更に大きく変形していく…左足だけにあった空気弾の射出口は、右足にも現れて合計数が6から12に増えた。それから連続で何十発…いや下手をすれば何百発も空気弾をナギナタマル目掛けて撃ち込む。スタジアムの3分の1が空気弾によって削られてゆく。空気弾を放ち終わったキックエースの両脚からは白い煙が噴き出しており、撃った本人さえも重度の疲労が見てとれた。


「ハァ…ハァ…こ、これでようやく」

「終わったか、攻撃ィ?」

「っっ!!」



「『千本槍構せんぼんやりがまえ』……陣ノ弐、『塞千さいせん』ッ!!!」



なんと本霊發器と思われるが無数の腕がドーム状となってナギナタマルの身を守った。キックエースの攻撃をその身に受ける事なく軽々と凌いだナギナタマルがドーム状に盾となった本霊發器から顔をだす。


「…ッこんなのって!?」

「当然の現実だキックエース…お前と俺の戦力差は文字通り「一」と「千」! いや、実質「一」よりも劣っているお前の攻撃は、スカしっ屁と同様さネェ!!」


同様の隠せないツバサと余裕な様子のナギナタマル。だがどうやら決着はすぐについてしまうようであるのは戦闘経験が浅いネオンでも分かった。ナギナタマルを守った無数の腕はドーム状から形が変わってゆき…


「そして生憎…俺の攻撃は防御体勢こっからも行えるんでなァ!!」


巨大なドリルに似た形となっていた。と同時にナギナタマルの両腕は上腕部が分離された。


「『千本槍構せんぼんやりがまえ』、陣ノ壱…『螺千らせん』!!!!!!」


ナギナタマルの長刀を持った両上腕は、体から遠く撃ちだされてそれに呼応するかのようにドリル状になった無数の槍がキックエースを襲った。キックエースの骨格からだはボロボロに突き砕かれて原型がなくなってしまう程のダメージを受けた。


「うああああああああ!!!!!!」


あまりの攻撃に元の霊体であるツバサへと戻り、青い憑依装弾ヨロイボムは破損して使用不能と化した。地面に叩きつけられたツバサの霊力も弱まっていた。


「ツバサッッ!!!」

「心配すんなァ、成仏しちまう程のダメージじゃねェ…それよりか」

「ぐッ…あっうう…」


ネオンは心配そうにツバサを見る他できなかった。一方ツバサは立っていられない程にダメージを受けているのにも関わらず悪あがきなのか近くに落ちている憑依装弾ヨロイボムを拾おうとする…が、装弾はナギナタマルの槍によって両断された。


「コイツぁテメェに不要なモンだ…」

「不要…だって……?」


ツバサはナギナタマルの足に掴みかかり、ツバサは憤りの表情を見せた。


「お前になんか分かるか! 自分の夢や希望を踏みにじられた気持ちを…叶えられたはずの願いを叩き壊された奴の気持ちを!!!」

「ツバサ……」

「あともう少しだったんだ、あともう少しで人間の友達ができる機会チャンスをつかめた!! …なのにッ何でなんだよ!」


「夢、願い…なんて耳触りの良い言葉だろうなァ…?」


そんな責め立てに対してナギナタマルは何も言わずにツバサの背中を手にとって、片手で彼を高く持ち上げた。


「じゃあ…この光景を目にして、もう一度その台詞を言ってみろ!!」




ネオンとツバサは改めてスタジアムの惨状に初めて気がついた。今まで自分達が如何に盲目的に戦っていたのかを…




ネオンとツバサが戦った痕跡はまるで戦場と見間違うほどに荒れ果ててていた。サッカー場の芝生は傷つき、応援席はコンクリートごと砕かれ、スタジアムのモニターはキックエースの本霊發器によって切り裂かれている。少年幽霊かれらにとってその光景は心の内にある罪悪感が張り裂ける程に膨らませ、潰れる程に身体を重くさせた。


「どうした、今言った台詞を重複リピートしろっつったんだよォ?」

「…あ………」

「ようやくこれで分かったろ? 霊体おれらが操るこの霊媒骨格はあくまで実体のあるモノに触れられる・・・・・ってだけの代物だ。生身を持った人間は「出せうる限りの力」しか出せない…だが」


ナギナタマルは足元にあったスタジアムの瓦礫を、手首を固定したまま投げた。


投げられた瓦礫はスタジアムの屋根に直撃するほどの大きな弧を描いて落ちていく。


「霊体である俺達には力の制限は極めて困難だ…人間相手なら殺意がなくとも軽く殺せてしまう程にな…」

「そ、それって…」

「お前はその力を制御できていない、だからこの惨状をつくりあげた…力加減など気にせずに! そんな何もかも破壊しかねない奴の手を…自分を殺してしまうかもしれない奴の手を、一体誰が求めるってんだよォ?!」


「あ…ああ……」


暴走していた自分の純粋で真っ直ぐな醜悪さ、そして愚かさを知ってしまったツバサは泣くこともできずにその場に佇んでいた。


「お前もだ、黒坊主! 兄貴エヴァーダークの意志を受け継ぎてェッてんなら、力の使い方に気をつけな。「霊媒骨格」は使い方を一つ間違えれば…俺達をただのバケモンに変えちまう代物なんだからなァ」

「力を…制御、する?」


骨格の持つ力の恐ろしさはネオンが思っていた以上のものであったからなのか、それとも戦いが終わった後に変に力が抜けたからなのか…ネオンは自分の汚れた手に目を向けると、黒い骨格は微かに震えていた。するとようやく数十分前まで調査に行っていたヨヅクとマドカがスタジアムに到着していた。


「ベンケイ……この状況は何だ?」

「…これは!」


ヨヅクの顔には明らかに憤怒の相が見える、マドカはスタジアムの惨状を見て激しく動揺している。

そんな二人を見てベンケイも不自然に視線をあさっての方向に向けた。


「すんませんヨヅクさん、だけど俺が駆け込んだ時にゃもうこの状態でしたんで…」

「……ハァアアアアアアァ………」


ヨヅクはスタジアム全体を見回して、深い深いため息を漏らした…というより溢れ出ていた。

その後捕らえられたツバサ、完膚なきまでに壊された憑依装弾、そして…最後にネオンへ視線と体を向けた。

ネオンは後退りをするが、


「まぁでも両者確保できましたし…直に陰陽庁の奴らも来ると思うんで、ひとまず退散を」

「…」

「って………アレっヨヅクさん?」

「………」


ナギナタマルの正体である幽霊・ベンケイの言葉に耳を傾ける素振りもないまま、ヨヅクは早歩きで

ネオンに近寄る。手には見慣れたグローブをしており…ヨヅクは無言のまま―――


―――ネオンに鉄拳制裁を喰らわせた。


この時、ネオンの脳裏に刻まれたことが二つある…一つは殴られた瞬間に世界が何周も回ったこと、

そしてこのままの自分ではヒーローになれないということを実感した。


EPISODE:10[触れられぬ願い(後編)] END

EPISODE:11[磨け、ベイビー]へ続く…

[用語解説]更新!!


霊媒骨格

霊体でのみ操作できる外骨格の名称。「フレーム」、「疑似肉体」とも呼ばれている。

この骨格に「憑依」することによって、憑依した霊体が物体に接触する事も、生きた人間に

認識されることも可能となり人間を遥かに超えるパワーを得られる。但し、これは正確に言えば

人間を簡単に殺害してしまう程に超越してしまった…ということでもあり、「殺意なくとも十分に

目の前の人間を嬲り殺せる」代物とも言える。常時は小型化される。この形態を「憑依装弾(ヨロイボム)」と呼ばれ、これに衝撃を与える事によって元の状態に戻って自動的に「憑依」することができる。



[作者にて]

どうも皆さま、作者のTHE黒です。第10話「触れられぬ願い(後編)」いかがでしたでしょうか?

「いやそもそも遅いんだよ!」とか、「お前前回から4ヵ月以上何してた?!」とかさぞやお怒りだと思いますがそれに関してはお詫び申し上げますです(苦笑)。この四ヵ月間は色々なコンテストや大賞向けに他の漫画原作や小説を書いておりまして…NIGHTNEONの原作を進める余裕がなかったとです。最近不定期になっちゃっていますが、途中放棄は決してしません。これだけは約束します…唯一無二の趣味でありライフワークみたいなモンですからねぇ(笑)。10話については、改めて人間と幽霊たちの確たる違いと幽霊は人間と同じように生活することができないことを認識させられたネオンと認識させた元「都衛軍」隊員の「ナギナタマル」ことベンケイという新たなキャラクターが加わって、ネオンの成長に期待しながら本作を読んでもらうとありがたいです…これからもNIGHTNEONをよろしくお願いします。それではまた、できるだけ近いうちに…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ