EPISODE:Bigins[僕らのヒーローと××××]
時刻は夜八時半頃、巨大都市「アストロンベイ」・ビル街南部。夜空に浮かぶ三日月は、アストロンベイの摩天楼にも優しく月光を照らしていた。時間的にも普段スーツ姿のサラリーマンやOLが疲れを癒すために居酒屋へ向かう場面を多く見られたが、その時は人影らしきものが見当たらなかった。勿論祝日だからというわけではない。
ビル街の至る所で激しい音が鳴る中、ビルの屋上にある広告用ポスターに何者かが突っ込み大破した。
「ひゃはっ、戦闘獣機民族「ビースタ」特攻部隊のNo.4であるこの「ゲルリザード」が…一撃で…」
広告ポスターに突っ込んで倒れていた蜥蜴に似た怪人はそう言い残してその場で倒れた。
「いい線行ってたと思うぜ。お前…」
ゲルリザードが倒れていたそのビルの向かいにあるビルの屋上には鎧のような黒いパワースーツを着た謎の「鎧武者」が立ちながらため息交じりで言った。するとその直後に後ろから八つの腕を持ったゴリラのような姿をした怪人が大振りのパンチを繰り出したが、「鎧武者」は見向きもせずにそれを回避してビルから下の道路に着地した。それに追うかのように八手のゴリラ怪人も飛び降り、車道にヒビが入る。
「次の相手は俺、宇宙帝国「ユニヴァリオン」・第三船団の「アイアゴン」だ…ってアレ?」
自らをアイアゴンと称した八手のゴリラ怪人だったが、目の前にいるはずの「鎧武者」の姿がどこにもなかった。咄嗟に周りを見渡すアイアゴンであったが、気づいた時には遅かった。「鎧武者」は空中で回転しながら上を向いたおかげで、アイアゴンの顔面に豪快なかかと落としを見舞った。そして、地面に叩きつけられた時の反動によって体が浮くと同時にトドメの一撃の裏拳を打ち込み、諸に食らったアイアゴンははるか上空に回転しながら舞った。
「不意打ちすんなら、巨体を何とかしろよゴリラ…さてあと何人なのかな」
空中に舞ったアイアゴンの様子を見ながらそう呟く「鎧武者」であったが、すぐさま後ろを振り向くとそこには数十体の怪人が彼を睨んでいた。しかし、当の本人は余裕ありげな様子であった。
「よーし分かった。ファンが多いのはうれしい事だが、夕食の時間が迫ってきてるからなぁ十分で終わらせたい。 面倒だから、全員で「悪人」…らしくな」
と手首を指さしながら時間がないことを動作で表したが、挑発にも見えることが火蓋となり、怪人たちは怒号を入り交えて鎧武者に突進していった。上空では、テレビ局のものらしきヘリが飛んでおりその中に居た女性レポーターが実況していた。
「ご覧ください! こちらアストロンベイのイリックビルストリート上空にいます。15分程前まで平和だったビル街でしたが、「いつも通り」怪人たちの襲撃が始まりました…しかし、「いつも通り」駆けつけてくれたアストロンベイの「黒の英雄」が今現在も尚「排除」…失礼しました。戦闘中とのことです!! 一旦スタジオにお返し致しますが、こちらの戦闘の様子は生中継!でお送りしたいと思いますっ!」
ヘリからカメラで撮られている戦闘の様子が、ワイプとなって報道番組でリアルタイムで放送されていた。しかし、見慣れた光景なのかその場にいる者たちは動揺など見せずに見ていた。
「今回も映像を見る限り、鮮やかな勝利で終わりそうですね」
「そうですねぇ…何といっても今もなお彼の「無敗伝説」は現在進行形で進んでいますからね。それでは今回の速報についてアストロンベイの歴史に詳しい古野町好男さんとお電話がつながってます…」
そんな風に番組を続けている最中にも戦闘の様子がワイプで流されているが、状況は一方的なものであった。「黒の英雄」と思しき人物が周りの怪人の攻撃を避け、あるいは封じながらも身軽に相手を倒していた。
「さて古野町さん、これまでの情報によれば「黒の英雄」が現れてからというものアストロンベイの治安が良くなったという噂がありますが、それに関してはどうでしょう?」
「ええ、やはりそれによる影響が一番の要因でしょうね。アストロンベイは数十年前までごく一般的ではありましたが治安は今とはかなり違って少し悪かったようにも見えました。しかし突如として彼の戦いが始まって以来、犯罪率の減少・外部の都市からの移住民による人口増加・それに伴う急激な都市開発により今やアストロンベイは全国区で2位の都市成長率を誇るマンモス級の巨大都市ですからね。しかも一部を除けばではありますが、住宅などの建築物の破損や一般市民の被害も少ないので彼には今後の活躍に期待しています」
「古野町さん、ありがとうございました。…ただ今速報が入ってきました。
どうやら「黒の英雄」と怪人たちの戦闘が終わったようです。現場から中継です。」
映し出された中継映像には倒された怪人たち、そしてその中心には「黒の英雄」の存在があった。
「再び現場から中継です! …といっても状況は「黒の英雄」の勝利に終わりました。スタジオでの話を聞きつつ現場の状況を確認していましたが、終始一方的な戦い方で敵を蹴散らすその姿はまさに圧巻でした。」
そんなヘリのレポートを後目に「黒の英雄」は…
「よし、とりあえず全部壊したようだな…。」
周りで倒れている怪人たちを見まわし何かを確認し終わり直ぐにその場から離れようとした。だが上空にテレビ局のヘリがあることに今頃気づき、軽く手を振った。
「ふぅ…あんまりこういうのすんなって言われてるんだけどなぁ。」
そう口にして、黒の英雄は瞬く間に走り出し、暗闇へと消えていった。その後ろ姿に興奮し、ビルの中に居た大勢の一般人たちは歓喜の声を挙げていた。その場にいたレポーターは身震いをしていたが、興奮の表情で実況を続けた。
「…視聴者の皆さん、並びにスタジオにいるキャスター並びにスタッフの方々、そしてアストロンベイに住む市民の方々…今しがた私たちに手を振り、幾度なくこの巨大都市の平和を守った「黒の英雄」こそ私たちの正義のヒーロー、アストロンベイ発展の立役者にして謎多き救世主…そう彼の名前はヒーロー――――」
「「常闇!!!!」」
レポーターと一緒に声をあげていたのは、その報道番組を爛々とした眼差しで見ていた少年・ネオンだった。テレビで放映されていると思われた報道番組は録画再生されていたものだったのだ。
「やっぱりカッコイイな、エヴァ―ダーク…」
ネオンが見ていたテレビは旧式のブラウン管型のテレビで、その上にはいくつものVHSが置かれていたテープのタイトル欄には「エヴァ―ダーク」関連の番組名ばかりだった。番組を見終えたネオンはビデオデッキを操作してVHSを取り出した。
「おいネオン、ちょっとコッチを手伝ってくれないか?」
テープを取り出そうとした時、ドアの向こうから誰かに呼ばれる。
「ちょっと待ってて、今からそっちに…あっ」
だがタイミングが悪かったのか、声に反応したネオンの手にあったVHSは、そのまま手をすり抜けて床に落としてしまった。慌てたネオンは、床に落としたテープを再び手にして壊れていないかを目視でチェックする。
「あっ、しまった…」
壊れていないことを確認した後、ネオンは落としたテープを元の場所であったテレビの上に置いてその部屋から出ていった。もう一度いうが、取り損ねたテープは彼の手をすり抜けて落ちたのだ。
改めてこの少年が何者であるかを紹介するのであれば、彼こそがこの物語の主人公であり、先程番組に登場してきたヒーロー「エヴァ―ダーク」の正体・クオンの弟であり、アストロンベイの廃地下街・ヨモツマチに棲みつく、少し弱気な少年「幽霊」である―――。
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―――同時刻、アストロンベイ・「某所」。そこはヨモツマチと同様に暗く、同時に途轍もなく大きな面積の室内であった。ただ一つヨモツマチと異なっているのは…数多の装置が並べられていた。その真ん中にはオフィス用のデスクとイスが置いてあった。
「さて諸君、間もなく計画の方は最終局面へと進捗している…この計画が進めば君たちがこれまでとは異なる開放的な生活を送れることを保証しよう」
その言葉を口にした不気味なほどに笑顔を崩さない男はその室内の真ん中にあるイスに座りながら、テーブルの上にある瓶入りのコーラをコップに移して飲み干した。だがその光景は余りにも奇妙で男以外の人間はその場にはおらずまるで独り言してるように見えた。
「それでは後半戦といこうか―――」
再び独り言をしているかと思うと男は飲み干したコップを高々と放り投げる。綺麗な円形の軌道を描きつつ落ちてゆくコップ、それが地面まであと数十センチの時に金属同士がぶつかる音が部屋中に満たされ、次の瞬間には両断されたコップと中に入っていた氷が落ちた音が遅れて響く。その音に対して反応せずに不気味な男は暗い部屋から照明のついた回廊へと進む。その回廊への扉が開いた瞬間に生まれた影は6つ存在していた。
「―――まず早速、あの下らない「ヒーローショー」を終わらせよう」
Episode:Bigins[僕らのヒーローとそれぞれの始まり]END
次回、Episode:1[英雄よ、×××××]に続く…
ドーモ、初めまして。「小説家になろう」新参者にして「ナイトネオン」の著者・THE黒と申します。さて、本編の前日譚(第0話)である「Episode:Bigins」はいかがだったでしょうか?…とはいっても、「最初だから分かんねぇよ」とか「何だか稚拙な表現方法だな~」とか思うかもですが、皆さんの評価が例えどんな形であれ、丁重に受け止めたいと思っていますので心からの評価や感想をお待ちしております。次の投稿では本作の世界観や用語の解説をしたいと思っています。ちなみに解説はストーリー進行するにつれて更新していく予定です。本編は書くのに少し間が空いてしまうかもしれませんが、気を長くしてお待ちしていただくことをお勧めします…なんか言い方が固くなりましたが、今後の「THE黒」印のナイトネオンを是非よろしくお願いします。