【戦闘・冥府の番人】
苔むした石柱に座り、つかの間の休息を取っていたユウの隣で、ラティスが弾かれたように立ち上がった。
「どうかしたの。」
訊ねたユウに、ラティスは曖昧に頷いた。
何もないところに視線を泳がせる彼の瞳には、不思議な金色の光が踊っている。
「いま、精霊が……? 」
足元で眠っていたはずの黒犬も頭を上げ、落ち着きなく空気のにおいを嗅ぎ始めた。
「これ、やばそうだね。」
挙動不審な相棒に目配せして、ユウは自身の小刀に手を伸ばした。
ユウは、巫術師たちが『精霊』と呼ぶ、自然界を流れる星沁の流れを目視する事は出来ない。
しかし、首筋をピリピリと刺激するこの感覚。
仲間たちが視覚や嗅覚で感じているものと同じ何かに、ユウの六感が反応しているのだ。
「何が、起きてるの。」
「分からない。けど……」
言いかけたラティスが、ギョッとしたように後ろを振り返った。
彫像の前に跪く少女を見て、ユウもその原因を悟る。
「彫像に、術式を?」
トランス状態、とでも言うべきだろうか。
明らかに尋常ではない様子の少女から、大量の星沁が流れ出ている。
「エリハル、やめさせろ!」
それを見て、冷静さをかなぐり捨てたラティスが叫んだ。
「結界が展開されてる。閉じ込められるぞ!」
その言葉に目を見開いた少年は、星沁を展開する少女の肩を掴もうと手を伸ばした。しかし。
『紅緋の聖地でともに踊れ 愚者の悲鳴が天地を裂くまで』
バチッと、激しい閃光。
少女を護るように展開された光の盾に、小柄な少年は勢いよく弾き飛ばされた。
「大丈夫かい⁈」
小柄なハルは盛大に弾き飛ばされ、ラティスに受け止められた。
めまぐるしく変わる状況に三人が呆然とする中、少女に星沁光が収束する。
「っ!」
矢のように飛び出し、少女の元へと駈け出す少年。
「ちょっと⁈」
とっさに追いかけようとしたユウを、ラティスが強い力で引き戻した。
「リシュナ、行けっ!」
ラティスがユウを抱えて後退すると同時に、指示を出された黒狼が少年を追いかける。
糸が切れたように崩れ落ちた少女を、ハルが受けとめたのが遠目に見えた。
「離してっ。なんで止めて……」
振り返ったユウが、混乱に任せて叫んだ時だった。
ハッと目を見開いたラティスがユウを腕に抱え、地面を蹴飛ばした。
何が起きたのか分からず、ユウの中で時間が停滞した。刹那。
『目覚めよ 冥府の番人』
怖気がした。
触手にも似た揺らめきを持つ方陣が、ありえない速度でせり上がって来たのだ。
「ぐっ……! 」
飛び出した勢いのまま、地面に投げ出されたラティスが、苦しそうに身じろぎした。
「ら、らてぃっ、背中が……。」
身を起こしたユウは、ラティスの背を覆う火傷に息を飲んだ。
高い術式防御力を持つケープは無事だが、ケープに覆われていなかった部分が無残に焼け爛れている。
すぐ後ろで展開された結界の壁に、背中を焼かれたのだ。
「すぐ治せるよ」
ラティスは、短剣の柄に嵌められた宝石に手をかざした。
囁くような詠唱で湧き上がった星沁の光が、背中の火傷を取り巻いて治していく。
「結界の中にはリシュナがいる。しばらくは保たせてくれるだろう。ユウ、その間に解読できるかい」
「え? 」
「この結界の構築式だよ。巫術は俺の分野だけど、罠解除はお前の分野だろ? 」
冗談っぽく微笑まれて、ユウは瞬きした。
そう、罠の解除はわたしの専門分野だ。どんな状況下だろうと、わたしの為すべき仕事は変わらない。
「……。こんなもの。」
ユウは立ち上がった。
袖口から小さな石を取り出し、結界と己の間にかざす。
直後、石の輪から展開された術式言語の羅列を目で追いながら、不敵な笑みを浮かべた。
「待ってて。こんな結界、わたしが、すぐにぶっ壊してあげるんだから。」
◇◇◇
幼い頃のチェリンにとって、大陸の国々は好奇の対象だった。
貿易によってもたらされる、不思議な工芸品を作る人々を見てみたいと思った。
彼らが住む街、彼らの生活を、間近で見てみたいと思った。
自分が生まれながらに背負わされた責務から、逃れられる時が来るのであれば、島の外へ行きたい。
そう願ったチェリンが、港に立ち寄った商人たちの元にこっそり赴き、イウロ語や帝国の習慣を教わる事に、ほとんどの者が良い顔をしなかったものだ。
「……。」
だが、帝国の魔手が島に伸び、じわじわと侵略が始められた頃には、チェリンの大陸への憧れは薄れていた。
イウロという帝国は『先祖から聖地を奪い、隔絶された辺境の島に追いやった種族の住む土地なのだ』という、神官たちの考えに同意するようにもなった。
イウロ帝国は憎むべき存在だ。
そんな意識を念頭に置きながら、それでもチェリンは、執拗に帝国の知識を吸収し続けた。
「……。……っ!」
何故かと訊かれても分からない。答えられない。
帝国の習慣を知っていれば、交渉が少しでも有利に進められると考えたからだろうか。
幼い頃の自分の夢を、大人になった今でも信じたいという気持ちがあったのだろうか。
それとも……
「起きろっ、チェリン!」
◆◆◆
「う……」
三度目の怒鳴り声で、少女はようやく目を開けた。
「伏せてろ!」
叫んで、自分も地面に身体を伏せる。
頭の上を通過して行った光線は、背後にそびえ立つ巨木の幹を貫いて消えた。
「え……?」
轟音、霧に混ざって砂煙が上がる。
ハルの背後で身を起こしたチェリンは、霧の中に佇む巨影を見、目を見開いた。
『ァア…… 』
恍惚とした女が漏らしたかのような、甘い音声。
その声に酔いしれ、かしずくかのように、周囲を覆っていた霧が裂ける。
『ァアアァ……ァアアアァッハハハハッ!』
魔女のような高笑い。
大きくのけぞった巨影は、片方しか無い翼を誇示するようにバサッと広げた。
巨影の正体は、白い片翼を持つ女神像。
祈るように合わせていたはずの手はダラリとぶら下がり、虚空を見上げていたはずの首は、まっすぐこちらを凝視している。
「術式傀儡? どうして……」
「こっちが聞きたい。お前、何をしたんだ?」
「分からないよ」
チェリンは顔を青ざめさせた。
「なんで、あたし、いったい何を?」
少女は座り込んだまま、短槍を抱きしめ震えている。
動揺しきったその様子を見て、ハルはチェリンが嘘をついていない事──少なくとも、意図的に何かを行ったわけではないという事を理解した。
「覚えていないのか」
「分からない。あたし、本当に何をして」
「なら、もういい。無駄話をしているひまは無さそうだしな」
ハルは立ち上がると、片手剣に手をかけた。
鞘走りの音が、キンッと鋭く響く。
『。。。』
霧をまとった彫像が、いびつな音を立てて首を動かした。
何をしているの?とばかりに可愛らしく小首をかしげたその姿は、いっそ醜悪と言っていい。
「お前、戦えるな」
訊ねたハルの耳に、ロン、と弦をつま弾いたような音が響いた。
横目に振り返ると、少女の周りを淡い紅色の星沁光が取り巻いているのが見える。
『始原の風、天翔る焔よ』
少女の発した声が、結界の中に反響した。
微かに震えているが、しっかりと通る声で紡がれた詠唱が、淡い光粒の形を取って具現化を始める。
『戦へ赴く我が友に どうか星の祝福を』
チェリンの式句が終わると同時に、ハルが持つ片手剣に紅い光が宿った。
攻撃力や耐久力を上げる、付与術式の一種だろう。
「……。感謝する」
ほんのりと熱を帯びた剣を手に、ハルは駆け出した。
超然と待ち構えている彫像の足元めがけて、剣を打ち付けようとする。
『。。。! 』
彫像が、緩慢な動きで腕を伸ばしてきた。
あの、無茶な光線を放つ時に見せた動きだ。真っ直ぐ進めば直撃を喰らってしまう。
「ぁあぁあああぁっ!」
地面を蹴り飛ばし、上空に跳躍。
元いた場所を光線が穿つのを視界の隅に捉えながら、ハルは剣を振りかぶった。
『。。。? 』
急に姿を消した獲物を見つけられず、動きを止める彫像。
その肩に着地したハルは、後転しながら剣を横に凪いだ。
(やったか……っ⁈)
剣を振り切った、無防備に宙を舞うハルの視界に、胴体から切り離された頭像が落下してきた。
哀しげな表情を彫り込まれたそれは、与えられた衝撃に耐えらえずに砕け散り──
「なっ……?!」
──空中で、停止した。
彫像の頭は、宙に浮いているわけでは無かった。
目玉がたくさん付いた泥のようなモノ、黄土色の流動体に絡めとられて、彫像の胴体に繋ぎ止められているのだ。
ただ落ちていくしかないハルの眼前で、彫像の頭部は重力とは反対の方向に吸い上げられ、修復されていく。
「ハルっ!」
飛び出してきたチェリンが、彫像の腕に得物をぶち当てた。
そのお陰で、ハル目掛けて打ち出された光線の軌道がずれる。
『。。。! 』
彫像の視線が、ハルからチェリンに移動した。
攻撃を避けるには、距離が近過ぎる。
「せぁあぁああぁあっ!」
回避を捨て、チェリンは打ち掛かった。短槍の穂先が、圧倒的質量を支える彫像の下部に吸い込まれようとした、その瞬間。どろり、と。
「ぁぐっ?!」
粘土をこねるように、ぐにゃりと彫像の足元から生えてきた流動体が、チェリンの肩を直撃した。
──まずい。
目を見開くチェリンの前に飛び出し、ハルは彫像の足元を一閃した。剣に付与された星沁が衝撃波と共に拡散し、流動体を一掃する。
「っ! 始原の……」
追い討ちを掛けにかかるハルの背中に向けて、すかさず詠唱を始めるチェリン。
ふたりの連携に触手を吹き飛ばされた彫像は、クパァと口を開き。
『アァアァアァァアァアァァァッ!! 』
奇声、いや、歌声を張り上げた。
「ぐっ?! 」「っあ……⁈」
鼓膜を切り裂くような超音波に平衡感覚が狂い、ふたりして地面に崩れ落ちる。
『。。。』
動けないふたりめがけて、彫像が無慈悲な一撃を放とうとした。刹那。
『ガゥウルルッ!』
彫像に匹敵する大きさに膨れ上がった黒狼が、ふたりの前に躍り出た。
「はっ?」「えっ⁈」
『グルラァアァァアァッ!』
彫像以上に化け物じみた声をあげて、彫像に襲いかかる黒狼。
全身から藍色の星沁を溢れさせ、必死の形相で、奇妙に折れ曲がった彫像の首に牙を突き立てている。
「っ! 」
この好機を逃すわけにはいかない。即座に後退すると、ハルは手を組んで身構えた。
「チェリン、跳べっ!」
頷いたチェリンは、即座に走り出した。
ハルの手を踏んで跳躍すると、黒狼が飛びのいた瞬間、彫像の首に短槍を突き立てる。
「……我が牙に宿れ」
ひび割れた彫像を見下ろしながら、少女は詠唱を紡いだ。
『始原の風っ!』
ロン、と琴の音を奏でた短槍が発光する。
ギョッとしたような彫像がチェリンを振り落とすよりも先に、短槍の穂先が彫像の頭部にめり込んだ。
『。。。』
勢いよく吹き飛ばされた頭部は、今度こそ破砕した。
触手がその破片を回収する前に、紅い光に包まれて消滅する。
しかし、彫像は止まらなかった。
『■■■…■■……■……! 』
耳を引っ掻く雑音を羅列し、首からも流動体を溢れさせる。
不気味な黄土色から、禍々しい黒色に変化した流動体は、倍の速度でチェリンに襲いかかった。
「っ?! 」
とっさに肩布を掴み、自らの前に広げるチェリン。
流動体は深緑色の護布に衝突し、高い音を立てて弾き飛ばされた。術式耐性を高めた装備なのだろう。
「あ……っ! 」
それでも、全ての攻撃を防ぐ事はできなかった。
彫像から溢れ出たそれが触れた瞬間、チェリンは悲鳴をあげて短槍を取り落した。
腕からは、どす黒い煙が上がっている。
「っ! 」
ハルは、迷わず彫像に打ちかかった。
チェリンを捕えようとする触手に斬り付けるが、硬い手応えが攻撃を受け止める。単純な物理属性が効かなくなっているのだ。
「くそっ! 」
攻撃を諦め、ハルはベルトから鞘を引き抜いた。
護布を斜めがけにした少女の腹を鞘で打ち、触手に巻きつかれる寸前で吹き飛ばす。彼女が受け身をとって地面に転がるのを確認したと同時に、ハルの脇腹に激痛が走った。
「がっ……!」
触手に腹を焼かれ、殴り飛ばされた。
樹幹に衝突し、崩れ落ちた身体に、内臓全てを吐き出したくなるような衝撃が走る。肺の空気が抜け、背骨が軋んで動けなかった。
『グルァアァアァアッ!』
そんなハルを庇うように、黒狼が咆哮を上げた。
ただの威嚇ではなく、星沁を声に乗せた付与攻撃。衝撃波が直撃した触手は破砕させられて、慌てたように身を縮めていく。
「ハルッ!」
駆けて来たチェリンに助け起こされ、ハルは息をついた。
「無事か」
「そりゃ痛かったけど。キミの方が重症よ」
「……。そのようだな」
言いながら、ハルは商人から貰い受けた回復薬を乱暴に煽った。
回復薬の中では安価な物なので、痛みが完全に引くことは無いが、表面的な傷を塞ぐことはできる。
「お前にも感謝する、リシュナとやら」
言葉を理解したのだろうか、黒狼はふたりを庇う位置に陣取ったまま尻尾を振った。
超然と構える彫像を睨み付け、よろめきながら歩き出そうとしたハルの手首を、チェリンが強く掴んで引き止める。
「待って」
大きく息を吸ったチェリンの身体を、ふわりと紅緋色の星沁光が覆った。
蛍のように揺らめく光は少女を介し、ハルの腕へと流れ込んでくる。
『始原の風 天翔る焔よ。刃に伏せし我が友に どうか貴女の慈悲の手を』
ハルは目を見開いた。ほんの少しだが、全身の痛みが和らいでいく。
表面的な傷の回復にしか作用しない回復薬と違い、痛みの緩和に作用する術式なのだろう。
「お前、術式の心得があったんだな」
「本当は奥の手だけど」
ハルから手を離すと、チェリンは短槍を突いて立ち上がった。
目立つ外傷は左肩の傷だけだが、額には異常なほどの脂汗が浮かんでいる。生命力の変換……星沁術式の乱用による『星沁疲労』の症状だ。
「お前も飲んでおけ。星沁疲労にも、多少は効く」
残る一本の回復薬を放ると、チェリンは即座に中身を飲み干した。
ハル同様、乱暴に口元を拭って彫像を見据える。
「ハル、あいつの胸を狙って」
「胸?」
チェリンは頷いた。
「首を飛ばした時、一瞬だけ見えたの。ちょうど胸の位置に、赤い……」
『グワゥアッ!』
チェリンの言葉が終わらぬうちに、突然、星沁を纏った黒狼が跳躍した。
光線を浴びても平然と前に突き進み、彫像の豊かな胸めがけて長い尾を叩きつける。
『。。。!』
彫像はよろめいて、自分の身体をかばうような動作を見せた。
えぐれた胸の奥に、赤い光がちらついているのを確認した、と思った次の瞬間には、魔物の胸は元通りに修正される。
「いまのは、」
『ギアアァアァアウァウアゥアアッ!』
口に当たる位置から、金属をこするような音を立てて魔物が吠える。
目から溢れる流動体の量が増えたところを見ると、どうやらアタリだったらしい。
「胸が弱点なのか」
このまま攻め押してやる、と構えた二人に、彫像が必死とも思える気配を発した。
『■■■…■■……■…… 』
彫像はバッと両手を上げると、呪詛めいた言葉を唱え始めた。不気味な赤黒い光の波が、ドーム状に降り注ぎ始める。それをチェリンが、ギョッとした声を上げた。
「だめ!術式の起動句だよ!」
「っ! 」
同時に打ちかかろうとしたチェリンとハルの足めがけて、触手が伸びる。
初撃は回避したものの、二度三度と続く波状攻撃の防御で、攻撃はままならない。
『■■……■……■■■■ 』
術式の構築が終わったのだろうか、魔物の手のひらに集まった赤黒い光が、ふたりめがけて放たれる。それらは空気を切り裂きながら飛び、二人の目の前で無数の炎に変貌を遂げた。
(避けられない!)
無数の羽虫のように、四方八方から迫り来る業火。
停滞する時間感覚。
最期の情景を垣間見たハルの眼前に、ひらひらと藤色のモノが舞い降りてきた。
それが何なのかを確認する前に、襲いかかってくる火球。
身を固くするふたりの眼前で、火球は弾けるように消滅した。
「なっ…… 」
炎が直撃したはずの場所で、のん気に翅を羽ばたかせていたのは、チョウだった。
手のひらに乗るほどの、可愛らしい小さなチョウ。
ただし、チョウの翅は精巧に切り取られた白い和紙、描かれた模様は藤色に脈動する文字の羅列だ。
『しゃがんで!』
チョウから凛とした声が響くと、その翅が強い光を帯びた。
「あれ、この声…… フムグッ⁈」
「バカ伏せろ!」
少女の頭を引っつかんで、地面すれすれまで身をかがめる。
淡い色に輝いていたチョウは、炎が迫ると濃い竜胆色に変色した。
『唸れ、風閃の盾。』
起動句に応えて現れたのは、吹き荒れる紫風の刃。
ヒュアァアァという、高い風鳴り音を響かせて、それは再び襲いかかってきた火球を全て消滅させた。
力尽きたかのように、光を失い、ふらふらと地面に落ちるチョウ。半ば呆然と地面に伏したチェリンとハルに、蛇のような触手が迫る。
「くっ……!」
疲労を隠せないまま、ふたりが引き続き応戦しようとする、その前に。
水晶を砕くような美しい破砕音が、迷宮に響き渡った。
(何だ……?)
見上げたハルの頭上に、キラキラと輝く燐光の破片が降り注いだ。
濁った壁と霧が消滅し、元見ていた森の景色が視界に出現する。結界が、解けたのだ。
『■……? ■■……■■■■ ?? 』
ギギ、ギチギチと、壊れた人形のように首をかしげる彫像に。
「あぁ、ぶつくさ、煩いなぁ。」
竜胆色を纏った少女が、強襲する。
「少し黙ってなよ。このっ、大仰やろうっ!」
強襲者は彫像の肩に取り付くと、身に纏った風刃を解放した。
『。。。! 』
次の瞬間。
ガキィイインと、ガラスを重たくしたような鈍い破壊音が響きわたり、彫像の頭部が完全に砕け散った。
『◾︎◾︎……◾︎◼︎■■■ 』
追撃を免れようと、触手を伸ばす彫像。
「黙って。くそ彫像。」
強襲者は、伸ばされた触手に動じない。
ひょいっと触手をかわし、空中に踊りながら
『舞え、夢見鳥。』
淡々と詠唱う。
和紙で作られた胡蝶が強い星沁を発し──
『■■■■■■ ⁈』
──閃光、そして爆発。
「なっ…… 」
あっさりと形勢が逆転した。
彫像を蹂躙する少女を、半ば呆然と見ていたふたりの前で、緑色のケープがふわりと揺れた。
「あぁ、良かった……。間に合ったみたいだね」




