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オレの聖剣伝説が始まる時

「アルスおうず、こっちだす!」


 今、オレはメリルとともにアーメリカへと向かっている。アーメリカへと続く街道をひたすら歩いているわけだが、心身ともにヘロヘロだ。なぜなら、もうかれこれ3日は歩いているからだ。にも関わらず、いまだにアーメリカの関所にもたどり着けていない。


「おいおい、本当にこっちで合ってるのか?ちゃんと地図を見た方が……」

「だいじょぶっす! こっちで合ってるっす!」


 そこまで自信満々で言うのなら、合っているのだろう。


「あっしの勘が、こっちだって言ってるっす!」

「勘かよっ!!??」


 あ、ヤバい。この子、ちょっと、アレだ。一人で突っ走っちゃうタイプだ……。


「待て待て。おま、いつから勘で歩き回ってた!?」

「いつからって……。お城を出た瞬間からっす!」


 ガッデーーーム!

 なんてこった……。


「ていうか、今、どこ歩いているかわかっているのか?」

「あははは、わかるわけねっす」


 メリルは、渾身の笑みを浮かべてそんなことを言った。くそうっ!


「な、なあ……? なら、まず近くの町か村に立ち寄ろう。そこで地図を買おう」

「あ、地図なら持ってるっす!!」


 持ってるんかい。


「そうか、なら、今どの辺にいるか、見させてくれ」

「お安い御用でさ!」


 確かにお安い御用だな。

 と、思っていると彼女はメイド服のポケットから一枚の地図をドヤ顔で取り出した。


「てれれれっててー! せかいちずー!」


 なんだ、その効果音は。なんとなく、未来のネコ型ロボットが目に浮かぶ。


「アルスおうず、おおさめくだせえ」


 サッと片膝をついて、丸まった地図を両手に乗せて差し出してきた。いちいちめんどくさい。悪い子じゃないんだけど……。


「お、おう」


 オレはメリルから地図を受け取り、するすると広げてみる。

 ……でかい。

 いや、地図じゃなくて、世界が。


「メリル、これって、世界地図か……?」

「さっき言ったじゃないっすか。せかいちずって」


 いろいろツッコみどころ満載で、スルーしてた。


「ていうか、こんなでかい地図じゃ、今オレたちがどこにいるかわからんだろ」

「わかるっすよ。あっしらのいる場所、ここっす!」


 うん、それ、全然違う国だよね……。

 ドヤ顔しても、無意味だよね。


「メリル、やっぱ近くの町に寄ろう。まずは、ここがどこだかを調べないと」

「アルスおうずがそこまで言うのなら、不本意ながら従うしかないっす!」


 とんだ従者だな。

 とはいえ、このメリルはサバイバル生活には長けている。この三日間、火を起こしたり、採ってきた山菜でうまいメシを作ってくれたのは彼女だ。オレはただ見ているしかなかった。その点では、さすがだと言わざる負えない。


「じゃあ、まずは町を探しに……」

「アルスおうず、あぶない!」


 メリルの叫び声に、オレは思わず身をかがめた。その瞬間、オレの頭上を得体の知れない物体が通り過ぎていく。


「な、な、な……」


 ぺたり、と地面にへたり込み、顔をあげると目の前には巨大な獣が「ぐるるるる」と鎌首をもたげていた。

 体長は、ゆうに3メートルはありそうだ。クマのようなその顔。オレの頭上を通過したのは、その獣の前足だったことがわかった。あっぶねー!


「アルスおうず、ナイス空振り!」


 いや、空振りしたの、あっちだから。


「ていうか、なに、こいつ……」


 こんな凶暴そうなの、この国にいたっけ?見るからにヤバそうじゃん。目なんか真っ赤に充血して、口からは黒い煙を吐きだしている。


「これが、いわゆるモンスターっていうやつっす!」


 メリルが自慢げに教えてくれる。


「そ、そうなのか? じ、じゃあ、退治しないと近隣の町が危険だな」

「お。アルスおうずの出番っすね!」

「いやいやいや、お前も戦えよ」

「無理っす。自分、動物アレルギーっす」

「…………」


 ええええぇぇぇーーーっっ!!??

 なにそれ、なにそれ。そんなの、一言も言ってなかったじゃん!!


「おま、動物アレルギーなの!?」

「ドヤ」

「ドヤじゃねえよ! じゃあ、基本的に獣タイプの戦闘はオレがメインかよ!」

「声援だけは、送るっす」


 それはなんの足しにもならない。

 そうこうするうちに、目の前のクマがじりじりと詰め寄ってくる。


 オレは、腰にぶら下げた聖剣エクスカリバーを抜いた。


「お、ついに使う時が……! 聖剣伝説の幕開けっすね!」


 み、耳が痛い。

 この剣、父上が通販で買ったやつなのだが、おもっくそ鞘に『聖剣エクスカリバー』とマジックで書かれただけのパチモンだった。


 旅に出る前に、父上が得意げになって

「聖剣エクスカリバーをつかわす」

 と言ってくれたものだ。どう見ても、ただのロングソードなのだが、メリルは初めて見る剣に大興奮。


「聖剣エクスカリバーの担い手だったとわぁーー!!」

 とか言いながら、思いっきり地面に平伏していた。


 結局、何も言い出せずオレは聖剣エクスカリバーの使い手として今日まできてしまった。


「い、い、い、いったい、どれほどの威力が……。ごくり」


 メリルはそう言って、すっごい期待した眼差しを送る。

 仕方ない、パチモンとはいえ、通販で2万ゴールドもしたやつだ(と、父上が言っていた)。そこそこ斬れるだろう。


 オレは、剣を構えるや目の前のモンスターに斬りかかった。


「でえええい!!」


 がつっ! と剣はクマの前足に当たる。


「ぐるる?」


 あ、ヤベ。きいてねえ……。


「やあああ!」


 もう一度剣を振るう。

 ごつっ! と今度は反対の足に当たった。

 な、なに、この足……。ふっとい鉄パイプみたいに頑丈なんですけど。


「アルスおうず、聖剣の切れ味はいかがっすか!?」


 まったく斬れてません!


 そうこうするうちに、クマが前足をふるってきた。


「うひゃあ!!」


 慌ててかわす。

 こわ! めっちゃこわ!


「アルスおうず、腰が入ってねっす! もっと、腰に力いれて!」


 メリルがトレーナーのごとく叫ぶ。

 なるほど、腰か。要は、ベースボールのバッターと同じ要領か。


 オレはバッターボックスに立つスラッガーの気分になりながら、聖剣エクスカリバーを構える。

 よーし、やってやる。


「ぐおおおおお!!」


 クマが雄たけびをあげながら向かってきた。


「ふっ!!」


 小さく息を吐きながら、思いっきり剣をフルスイングした。


 パッ……


「パ……?」


 キイィィーーーーン!!


「う、うそおおぉぉん!?」


 聖剣エクスカリバーは、小気味いい音を響かせて根元からポッキリと折れてしまった。


「せ、聖剣エクスカリバーが……!!!!」


 メリルが唖然とする顔で見つめている。オレも、唖然とした顔で折れた剣を見つめている。クマは、してやったりといった顔でオレを見つめている。

 どうすんの、これ……。


 クマがその隙にオレに襲い掛かってきた。ジャンピング体当たり───!!


 あんな巨体につっこまれたら、間違いなく死ぬだろう。クマの動きがスローモーションのように目に映る。ああ、人が死ぬときって、時間が遅くなるっていうけど、これがそうなんだろうな……。


 そう思った瞬間、オレの目の前にメリルが飛びこんできた。

 さっそうと、オレとクマの間に立ちふさがる。

 彼女は腰を低く構えるとジャンピング体当たりをかましてきたクマに回し蹴りをくらわした!!


「げぼおっ!!!!」


 クマは、空中で2回転半したあと、地面に崩れ落ちた。

 す、すげえ……!!


「アルスおうずに手ぇ出すでね!!」


 この子、世界格闘技世界チャンピオンだったというのは、本当だったんだ。


「す、すまん。助かった。でもおまえ、動物アレルギーじゃなかったのか?」

「動物アレルギーっす。体中、鳥肌立ってるっす」


 よく見れば、確かに肌がすごいことになっている。

 年頃の娘が、こんなになってまでオレを助けてくれたことに、妙に感動していた。


「わ、悪い……。オレ、なんの役にも立たなかった」

「何言ってるっすか! 聖剣エクスカリバーを叩き折っちまうなんて、普通の人間じゃできねっす! オラ、すっげえもん見たっす! さすがアルスおうずっす!」


 すごいのは、そんな化け物を倒したあなたなんだけど……。


「これは、国に帰ったら未来永劫、語り継ぐッス! 聖剣エクスカリバーを、たった一度の戦いで叩き折った伝説の勇者として!」

「語り継がなくていいよ!」


 本気でやりそうだから怖い。オレは、ため息をついて近くの町を目指すことにした。とりあえず必要なのは、普通の(←強調)剣とこのあたりの地図だ。

 いったい、アーメリカへはいつごろ辿りつけるのだろう。オレはそれが心配でたまらなかった。


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