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お城の監禁生活

 暇だ。


 ものすごく暇だ。


 この城に監禁されてから早3日。

 忘れられてるかのように、あたしは閉じ込められていた部屋でボーっと鉄格子の窓から外を眺めていた。


 あのメンチを切って以来、食事はまともなものが届けられている。

 いや、まともというか……。


「なんで毎日毎日コンビニ弁当なんだよ!!」

 と、叫びたくなるようなラインナップ。


 食事を届けてくれるルシファーが言うには、魔界には人間界の食事を作れる者がいないのだそうだ。

 そりゃそうよね。

 逆の立場で言えば、五つ星レストランのシェフが魔界の料理を作れるかって言われたら、絶対作れないだろうし。


 ということで魔王配下の悪魔が、毎日人間界のコンビニで弁当を買ってきてくれていた。

 いったい、どういう買い方をしてるんだろう。

 あの異形の姿で「温めなくていいです」とでも言ってるのだろうか。

 めっちゃ気になる。


 でもまあ、ルシファーが人間たちに混じっても全然気づかなかったくらいだし、悪魔って意外と人間に化けるの上手いのかも。



 それはともかく、彼らの持ってくる食事の量はハンパなかった。

 弁当10個におにぎり30個、麺類もサラダもありったけ、という有様。飲み物にいたっては2リットルのジュースが箱で置かれていた。

 あたしゃ、そんな大食漢に見えるかっつーの。

 こう見えても一国のお姫様なんだからプロポーション維持すんの大変なんだよ。察しろよ。



 そう思いながらも、テーブルの上に置かれたコンビニ袋の中からおにぎりを1個取り出そうと手を伸ばした。

 あまりに暇すぎて、もはや食べるしかない。


 今の楽しみは、袋から取り出すおにぎりの種類が何であるかという運だめし(悲しい……)。

 まるで福引のようにドキドキする。

 悪魔たちは食べないから、とりあえずあるものを買って来たらしい。だから、何が入っているかあたしもよく知らない。


 ガサゴソと袋の中をあさってひとつ掴むと、ひょい、と取り出した。

 やや、これは梅ではないか。

 大当たり。

 梅のおむすび大好きなんだよねー。


 いそいそと包み紙を取ると、はむ、と口に含んだ。

 梅の酸っぱさと、ご飯の甘みが口の中に一気にふくらむ。うまい、うますぎる。



 至福のひとときを味わっていると、突然目の前にルシファーがあらわれた。


「ミモザ姫」

「んがんぐ!!」


 おもわずむせる。


「げほ、げほ」

「おや、食事中でしたか。これは失敬」


 全然悪びれた様子もなく謝る。


「い、いきなりあらわれないでくれる?」


 マジでなんなの、こいつ。


「たまたま姿をあらわしたら目の前にいたということで、私の責任ではありません」


 あ、開き直りやがった。


「ていうか、なんの用? まさかまた魔王が会いたいとか言ってるんじゃないでしょうね」

「いえ、サタン様は今、勉強中でございます」

「べ、勉強中……?」


 勉強って、なにそれ。

 魔王も勉強すんの?


「仮にも魔界の王ですから。魔界の経済や歴史、政治や法律に関して熟知していただかないと」

「魔界にも経済とか法律ってあんの!?」


 意外……。

 魔界っていったら、至る所でモンスターたちが骨肉の争いが繰り広げられているイメージがあるんだけど。


「当たり前です。魔界といえども、秩序はあります。むしろ、人間界のほうが混沌とした感じではないですか?」


 ううん、そう言われると確かに。

 覇権争いやら継承権争いやらで国が乱れたりするしね。

 あたしも、それらを避けるための政略結婚をさせられるかもしれないし。そういえば、イタリアーナ王国の王子が年齢近かったっけ。会ったことないけど。

 なんか、お父様あたりがそこらへんで手を打ってそうな気がする。


 うう……。やだなあ、政略結婚……。

 見たこともない相手と結婚するんでしょ? うへえ、信じられないよ、まったく。


 あたしゃ、燃えるような恋がしたいのに。

 誰かいねえのかよ。

 誰かあらわれろよ。

 魔王に囚われてる今、最高の物件だよ。


「なんだか、だんだん目がすさんでいってますけど」



 ふとルシファーの言葉で目が覚めた。

 やっべ、ちょっと意識飛んでた。


「魔王の勉強って、どれくらい続くの?」

「そうですね、ぶっ続けで一週間ですね」

「い、一週間!?」


 しかもぶっ続け!?

 死なないの、それ?

 あたしだったら、たぶん3日で死ぬ自信がある。


「魔界の王を甘く見ないでいただきたい。あの方は、ああ見えて優秀なのです」


 あたしの脳裏には、泣きべそをかいている魔王しか記憶にない。


「サタン様の勉強は定期的に行われております。恋しいでしょうが、いましばらくお待ちください」

「んあ?」


 ルシファーの言葉に、あたしは思いっきり眉を寄せた。


 恋しい?

 何言ってんの?

 バカじゃないの?

 恋しいわけねーだろ。

 今、会いたいのは母様だよ。

 母様に会わせろよ。

 つーか、帰らせろよ。


 などと思っていると、ルシファーが「ふ」と笑った。


「………?」

「なるほど、サタン様が惚れるわけですね。あなた様のその荒んだ目、輝きを失った瞳、人間界の姫君としておくにはもったいないほど素晴らしいどす黒いオーラが見えます」


 それ、褒めてなくない?


「ではまたいずれ」


 そう言ってルシファーは姿を消した。


「………」


 また一人、ポツンとたたずむあたし。

 なんだよ、何か言いに来たんじゃないのかよ。

 何も言ってかないのかよ。

 何もないなら、相手しろよ。


 ………。


 ていうか、マジで何しにきたの、あいつ!?


 あたしは、ルシファーのいた辺りを不思議な想いで見つめていた。


更新がんばります。

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