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魔王城にて

「……う、ん」


 ラベンダーの香りが鼻につく。目を覚ますと、そこはキングサイズのベッドの上だった。

 いったいどれだけ眠っていたのだろう。

 身体が重い。


「よっこらせ」と言って起き上がる。


 どこだ、ここ。


 辺りを見渡す。どこかの部屋の中のようだ。大きなベッド以外、何もない。

 試しに、壁のドアの取っ手に手をかける。ガチャガチャとやってみるが、やっぱり開かない。

 どうやら閉じ込められているようだ。


 あたしは、冷静になって今の状況を考えた。

 これは、完全なる囚われ状態。籠の中の小鳥。逃げ出すことも助けを呼ぶこともできない。

 ヤバい、本気でヤバい。 

 つーか、公衆の面前で拉致るなんて、マジありえないんだけど。しかも両親の前で。公開プロポーズ的な言葉を言いながら。

 魔王サタンの妃って、なにそれ。

 魔王サタンの嫁になれってか。

 なれるわきゃないじゃない、あたしゃまだ16だっつーの。法律上は未成年だっつーの。


 あ、もしかして、魔王の世界だとOKなのか? 16もOKなのか?

 いいのか、それで。


 モヤモヤ考えていると、お腹がすいてきた。そういや、朝から何も食べてない。

 ぎゅるるるる、と胃が元気なお声をあげておる。


「あのー、すいませーん」


 あたしは、ためらいがちに声をあげてみた。もしかしたら、誰かいるかもしれない。


「あのー、どなたかいらっしゃいませんかー?」


 静かな部屋に自分の声とお腹の音だけが鳴り響く。


「おーい、誰かー。いないのー?」


 …………。


 ヤバい、マジで誰もいねえ。


 いいのか、これで? さらってきて、はいおしまいってことなのか?

 

「あのー! ちょっとー! 誰かいませんかー!」


 大声で叫んでみる。

 一生このまま、なんてことはないだろうけど、先のわからない状況なんて不安でしょうがない。

 てか、さらったんなら、誰か出てこいや。


「おーい、誰か……」

「おや、お目覚めですか?」

「ぎゃあああああああぁぁッッッ!!!!」


 いきなり目の前に、黒髪の男が姿を現した。

 あたしをさらったルシファーだ。


「うっさ……」

「いきなり出てくんなよお! びっくりするじゃんよお!」

「誰かいませんかって言ってたのはあなたでしょう。というより、地が出てますけど」


 あら、やだ。いっけなーい。


「ほほほほ、あまりにびっくりしすぎて言葉づかいが粗暴になってしまいましたわ。うほほほほ」

「笑い方がゴリラですよ」


 こ、殺す……!


「ていうか、無理にお姫様キャラを演じなくてけっこうですから。素のままでいてください」

「……? あ、あの、おっしゃってる意味がよくわからないのですが……」

「実はここ数か月、あなたを監視してましてね。普段の行いから口調にいたるまですべて把握してますんで、お気になさらずそのままで」


 ………監視してた? 私を? 数か月?

 なにそれ、なにそれ。


「え? それって、ようするに………」

「ええ、まあ、ようするに 盗 撮 です」

「い、いやああああ!! 変態!! エロがっぱ!! おに!! 鬼畜!!」


 ありえねえ、こいつマジでありえねえ!


「仕方ありません、これも仕事ですので」

「うう……、もうお嫁にいけない」

「ご安心ください。魔王サタン様が娶ってくれます」


 うっせー、ハゲ。いや、ハゲてねーか。えーと、このスカタン!


「ていうか、魔王サタンの妃がどうとかって言ってたけど……。あたし、サタンの妃になるの?」

「ええ、本当におめでとうございます。サタン様が人間に惚れるなど、天地がひっくり返ってもありえないぐらいですのに、地上に出たとき、あなた様に一目ぼれをしたそうで」


 うっわ。さいあく。それでさらってくるなんて、発想がほんと悪魔ね。


「ほんと、もう、あの時は本気でサタン様の悪魔性を疑いました。魔界にも、リリス様やエキドナ様など美女クラスが山ほどいらっしゃいますのに、なぜに人間? なぜにあなた様? マジで? え、それ、マジで言ってんの? と、それはもう魔界中が大混乱」


 ちょっと、どつきたいんですけど……、この人。


「そんなわけで、魔界の者たち、特に幹部クラスはあなた様が妃になられることを快く思っておられなくて……。不本意ながらあなたが魔王サタン様の妻にふさわしいかどうか監視していたのですよ」


 それで盗撮するほうもどうかしてる。どこまで見てたんだろう、このヘンタイ。


「で、監視した結果、あなたの普段の言動や行いが魔界の幹部たちに認められ、晴れてあなたはサタン様の妻に認められたのです」


 ひゃっほーーー、嬉しくねえーー!

 つーか、それ、どういう意味よ!? あたしの普段の言動や行いが悪魔的っつーことか!!


 ……うん、納得。


「ということで、さっそくサタン様にお会いになってください。心ウキウキにお待ちしておりますので」

「ま、マジ……?」


 魔王っつったら、アレか?


 身長20メートルくらいの黒いマントを羽織った鬼みたいな顔をしたやつか?

 角とか牙とか生えてて、「がはははは」とかって笑いながら下級の魔物とか殺してそうなやつか?


「さあ、ドアは開けましたのでこちらへどうぞ」

「……やっぱ、いい」

「は?」

「……想像しただけでお腹いっぱい。魔王なんてマジ勘弁」

「い、いえいえ。来ていただかないと私の立場が……」


 この男の立場なんてどうでもいいんですけど。


「それに、サタン様がご機嫌を損ねるとあなた様の王国が消し飛ぶかもしれませんよ」

「うっそ!?」

「サタン様の破壊力はそれぐらいありますから」


 マジキチだわ、ここの奴ら。

 あたしは言われた通り、ルシファーに連れられて部屋を後にした。



「うほ。これが例の人間の女か」

「うまそうだな~」


 一面がどす黒い壁に囲まれた毒々しい通路を歩くたびに、手足だけ発達した悪魔や一つ目に羽が生えた化け物など、見たこともないような魔物たちに出くわした。


「うけけけ、サタン様に飽きられたら、オレらがおいしく食べてあげるからね」


 牙の生えた人型の悪魔が気色の悪い笑みを浮かべて話しかけてくる。


 マジ、うざ。


「もしかしたら、もう飽きられてたりしてね~。うけけけけ」

「もし、そうでなかったら、サタンに言ってあんたをこの世から消滅させてあげるわ」


 あたしの言葉に、人型の悪魔が青ざめた顔をして黙りこくった。


 ふん、ざまあ。あー、なんかスッとした。


「悪魔を黙らせるとは、さすがでございますね」


 ルシファーが前を歩きながら褒めてきた。褒められると悪い気がしない。

 けど、サタンってほんとすごい存在なんだ。

 あたしはさっきよりもドキドキしてきた。



 やがて、大きな扉の前についた。


「ここが、魔王サタン様のお部屋でございます」


 で、でけえ……。


 扉だけで相当な高さがあるわ。

 やっぱ、巨大な鬼なんだ……。


 会いたくねえ~。


「さ、どうぞ。こちらに小さい扉がありますから」


 よく見たら、その大きな扉の脇に小さな(というか標準サイズの)扉があった。そこを開けてルシファーが入れとジェスチャーを送る。


 怖いよー。


 ドキドキしながらルシファーの開けてくれた扉を通ると、中は意外と普通だった。

 いや、普通というか。

 部屋自体は巨大な空間なのに、人間サイズのベッドやテーブルやソファーがちょこん、と真ん中に置かれていた。

 なに、この不釣り合い感。

 そして、ソファーには一人の青年がちょこん、と座っていた。


 ………あれが、魔王? なんだか、イメージと全然違うんですけど。


「おお、ついに着たか。我が妃よ!」


 ソファーに座っていた青年が立ち上がって手招きをする。あたしは、黙って中に入って行った。


 その魔王は、端正な顔立ちをしていた。

 ルシファーだって、かなりのイケメンではあるけれども、それすらかすんじゃうほどの完璧な顔。

 髪は金髪でショートのウルフカット。細い眉に切れ長の瞳、シャープな顎とニヒルな唇。

 頭のてっぺんには二本の小さな突起物が見えるけど、あれ、角だよね?

 黒いマントを羽織ってる姿は想像通りだけど、それ以外は、まんま人間だった。

 あれが魔王だなんて、誰も思わないんじゃない?


「ようやく、会えたな」


 ニコッと微笑むその口からは、可愛らしい八重歯が見える。

 こんな人がその気になれば王国を消滅させるの?


「そなたに合わせるために、サイズを小さくしておる。勘弁いたせ」


 勘弁も何も、このサイズがちょうどいいと思いますけど……。


「自己紹介がまだであったな。余は魔王サタン。魔界の王である」

「ミモザっす……」


 なんだか、想像と違うんですけど。この魔王ひと

 ニッコリと微笑む姿が、とても印象的だった。

つづけられるよう頑張ります。

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