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ミモザという姫~その2~

 ひゃっはーがアルバートによって簡単にねじ伏せられてしまったため、他の傭兵たちが戦意喪失していた。


「お、おい、やられちまったぜ」

「どうすんだよ、みんなで行くか?」

「いやいや、さっきの見たべ。あんなの、オレたちが束になっても勝てねえぞ」


 うん、よしよし。これで彼らが帰ってくれればいいんだけど……。

 そう思っていると、一人の貧弱そうな男がひょっこりと顔を出した。


「私が参りましょう」


 そのきれいな顔立ちに、まわりにいる侍女たちが「まあ!」と声を上げた。

 あたしも一瞬、目を奪われる。

 他の傭兵たちに紛れてて、全然気が付かなかったけど、長身のきれいな顔立ちの男だった。

 長い黒髪、黒いローブを身にまとい、腰には革のベルトを巻いている。



「私がみなさんの代表で戦います」

「お、おい兄ちゃん、やめとけやめとけ。今の見たろ? 一瞬でやられちまったんだぜ、あんな強そうなやつが」

「そうだぜ。一瞬だぜ、一瞬」

「一瞬の意味、わかるか? マッハって意味だぜ(←違う)」


 うん、こいつらはキング・オブ・バカだということがよくわかった。


「大丈夫です。一瞬でやられるほど私はヤワじゃありませんから」


 ずいっと前に出るローブ姿の男。

 どこにそんな自信があるのだろうか。

 アルバートのすごさは、見ていたはずなのに。

 しかし、ローブの男はまわりの意見に耳を貸すことなく懐から魔法のステッキらしきものを取り出した。

 ああ、この人魔法使いなのね?


「彼らの忠告は聞かないのか」


 アルバートがすらりと剣を抜き放ちながら言う。剣術試合用なので刃はないが、当たればかなり痛い。


「もちろん。ここで帰ったら、ここまで来た意味がなくなるのでね」


 ローブの男はクールにそんなことを言った。

 なに、この大物感。ただものじゃなさそう。


「わかった、手加減はしないよ」


 アルバートはそう言って、真剣な眼差しを向けて対峙した。

 お互いに見つめ合う二人。


 ピリピリとした緊張感が漂う。


 そんな中、先に仕掛けたのはアルバートのほうだった。

 電光石火の速さで男の懐に飛び込む。


「せい!」


 そのまま手に握った剣で胴をなぎにいった。

 倒した、そう思った矢先。

 男はその剣を魔法のステッキで受け止めていた。


「な、なに!?」


 アルバートが目を見開いて驚く。

 男はするすると滑るようにアルバートの背後に回り込むと、パコン! と魔法のステッキでアルバートの頭をこづいた。

 まさに、一瞬の出来事。マッハではなかったけど。


「……ま、まいった」


 頭をこづかれたアルバートは、潔く負けを宣言した。

 ていうか、魔法使わないのかよ。


「私の勝ちですね」


 ローブの男がステッキをしまって、笑顔で言った。

 ……あ、あの~、アルバート負けちゃったんですけど。

 お父様に顔を向けると、このオヤジは満足げにうなずいていた。


「ううむ、見事じゃ。あっぱれあっぱれ」


 あっぱれじゃねえよ、くそジジイ。


「決まりじゃな。ミモザの護衛はこの場の全員に決定じゃ」

「ひゃっほーーーー!」


 傭兵たちから歓声が巻き起こる。

 いやいやいや、てめえら、何もしてねえだろ。

 お父様は満面の笑みを浮かべてバルコニーごしから眼下の男に声をかけた。


「騎士団長のアルバートを打ち負かすとは、やりおるの。名はなんと申す?」

「私の名は……」


 彼が言葉を発した瞬間、一陣の風が吹いた。

 空気がピリッと変わる。


「魔界の天使ルシファー」


 その名を名乗った刹那、ものすごい突風が辺りを包んだ。


「きゃっ!!」

「か、風が………」


 突風に、その場の誰もが顔を覆う。

 やがて、風がおさまると、眼下にいたはずのルシファーと名乗った彼がいつの間にかあたしの目の前にいた。


「………え、な、なに?」


 いきなりのことで、思考が停止する。

 なんで……?

 いつの間に……?


「美しい人間界の姫君。我が主君、魔王サタン様がお待ちでございます」


 魔王サタン……? 待っている?

 なんのことだか、意味がわからない。

 でも、ひとつだけはっきりしたことがある。

 彼は、人間ではない。瞳の色がきれいな紫に変わっていた。


「あなたは、いったい……」


 彼はきれいな瞳を宿したまま、不気味に笑った。そして耳元でそっとささやく。


「あなたは魔王サタン様の妃に選ばれました」


 妃……? 選ばれた……?


 ギリギリギリ……、と機械のように固まった身体で顔を向けると、お父様もお母様も、呆然とした顔で突っ立っていた。二人ともいきなりのことで思考が停止しているらしい。


「あの~、娘がピンチですよ~?」


 あたしが声をかけると、お父様はハッと我に返った。


「い、いかん、みなのもの、であえであえー!!」


 うん、遅いよね。


「失礼」

「きゃっ!!」


 ガバッとルシファーのローブがあたしを包みこんだ瞬間、あたしの意識はそこで消えた。


つづけられるよう、がんばります。

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