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3.カバード・バイ・パーフェクト・ブルー

 もうじっとしてはいられなかった。

 先生は、「青い薔薇の香りはどうだった?」と訊いた。それはつまり、この青い薔薇には何かの薬物なり劇物なりを含ませてある、ということだ。そういえば、棘の多い薔薇だった。触れた時にちくちくとしたので、棘で指を傷つけたかもしれない。失敗だった……!

(触っちまった……)

 研究室に戻って、薔薇の成分分析をしなければ。力強く脈動をはじめた先生の遺志を止めなければ……! 

 直ちに対処をしなければ何もかもが、手遅れになりそうだった。

 一刻の猶予もない。ぐずぐずしていては俺の命も飲み込まれる。

 気持ちばかりがはやった。まず俺がしたことといえば、妻と共に皮がむけそうになるまで手を洗い、アルコールで洗浄した。

 次にディスポーザブル手袋をして薔薇の花束を元の容器に戻し、ジップした。


「ラボに戻る! 何日か家をあけるから」

「ちょっと、あなた! そんな、突然!」

 投げ捨てるように妻に一方的に告げ、訳もわからず家を飛び出した。

「気を付けて!」

 職場を目指し、雷雨のさなか愛車に乗り込む。フロントガラスのナビゲートシステムの投影時計は午後八時を回った。

 厳重に密封した青い薔薇の花束も、車のシートに載せた。


挿絵(By みてみん)


 オートドライブを起動しようとしてふと手元に視線を向けると、強烈な違和感を覚えた。二度見をして違和感の正体に気が付く。車内のパネルライトに照らされた俺自身の手の甲が、指が、やけにぼんやりと、蛍光青色に発光しているように見える。

 シアンともいえる、特徴的な蛍光色彩だった。


 俺はおそるおそるライトの前に両手を近づけた。裏も表も、透かしてみる。

 信じたくなかったが、断じて見間違いではなかった。

「うわ……ぁ……!」

 右手も左手も、指先に至るまで。昨日まで、こんな珍妙な現象がわが身に降りかかるとは思ってもみなかった。手にたまたま、蛍光色素が付着したか? もしかして、薔薇についていた? 


(そうだ、そうに違いない)

 その可能性は、無残にも否定された。付着したものではなく、内側から発光しているようでもある。


「なんだ、これ。なんだよ……これ!」

 俺は大人げもなく半べそになりながら、気付けば叫んでいた。胸騒ぎを否定しつつ、車を出した。

 研究室に人の気配はなかった。今日は日曜日だということで、部下たちも家にいるのだろう。普段は人がいない方が実験が捗って有難いのだが、今日ばかりは人恋しかった。

 手の震えを抑えながら、ライブセルイメージング用の顕微鏡システムを立ち上げ、自らの頬の内側の細胞を擦りステージに載せた。端末と観察ソフトを立ち上げ、全深度にオートフォーカスをかけてゆく。直後、ズームアップされた視野を見た瞬間、俺は再度現実を突き付けられた。


「うそ……だろ?」

 頭を抱えそうになった。実際、頭は抱えていたと思う。


 観察ソフトにあらゆる視野を探索させても、どの細胞の微細構造も精緻に観察できるほど、細胞は強いシアン色系蛍光色素のシグナルを発していた。その細胞内タンパク質発現率はまさに100%に限りなく近い。その強度たるや、断じて自家蛍光ではない。人工的にデザインされた蛍光タンパク質がいつの間にか俺の細胞の中で発現している、としか思えなかった。


 これを可能とするのはやはり、ウイルスベクターでしかありえない。

 感染確立から、遺伝子発現まで、わずか4時間程度……。


「早すぎだろ、クソが!」

 悲鳴にも似た悪態をつく。皮膚片や血液サンプルも同様の状態。血球細胞でまで発現している。局在は不明。どの細胞内小器官を標的としているのかも不明。


「一体何なんだ、これは!」

 自身の研究サンプルの封じ込め、拡散防止措置の失敗……つまり俺自身が引き起こした汚染によるバイオハザードの発生は一議に及ばず。過去にこのような蛍光タグのついた感染性サンプルを扱った経験はない。


 ただちに質量顕微鏡、自動発現解析などのデータセットを収集した。費用は惜しまなかった、確実に、感染初期状態のゲノムデータは取得しておく必要がある。ウイルスベクターが俺の身体の外に出て新たな宿主しゅくしゅを見つけたあかつきには、急速に変異を繰り返すだろう。したがって最初のコンストラクトを抑えるのは必須だ。俺は、文字通り身を切って自身でサンプルを採取し凍結した。

 ゲノム情報によると、蛍光タンパク質の正体は、C社の青色蛍光タンパク質発現ベクターをコードした製品で、ブルーベリーというものだと判明した。この蛍光タンパク質タグのシリーズは他にチェリー、プラム、ストロベリー、バナナなどというフルーツのような名のついたものがあり、通称名はそのタンパク質の発する蛍光色に対応している。

 だが……これらは全て、過去の製品だ。

 今、この製品は分子生物学の研究現場ではほぼ使われていない。現在ではもっと蛍光強度の強い他のタグが使われている。


 頭が冷えるにつれて、彼女のキスの味が口腔に再現され、脳内でぼんやりとリンクを形成した。

 果実のようなあの甘いキスは、この日の訪れの暗喩だった――?


「……やはり、あの青い薔薇に……?」

 自宅から持ち出していた薔薇の花束でサンプルを作り観察したところ、青い薔薇それ自体は蛍光を発してはいなかったが、微量サンプル分析によってベクターの付着は裏付けられた。これは人の細胞に選択的、特異的に感染し、感染したことをレポートする為に青色蛍光を発現するものだ。


 過去からのタイムカプセルの密封容器の封を切り俺が薔薇の香りをかいだとき、俺の運命は定まった。先生は俺にこれらの蛍光タンパク質をマーカー(目印)とし、その他の機能を持たせた新たなベクターを、鼻腔粘膜を通して俺に感染させたんだ……。

 感染から、4時間。ウイルスの感染確率とタンパク質発現系のスピードは、まさに驚異的だった。

 完全に裏をかかれた。俺は、契約者をすら欺く、冴えた先生の手口に戦慄しながら、上書きされた先生の遺言を反芻する。


 その時が来たら、光らせること。


 青色蛍光タンパク質の発現自体は、人体にはさして害はない。

 そんなことは問題ではない。”何の遺伝子を”乗せたか、が問題だ。


 光らせてと言われても、俺が手を動かして何かを光らせるでもない。

 俺自身がいつの間にか蛍光タンパク質を発現している、という滑稽さに、変な笑いがこみあげてきそうになる。

 何故かと言うと先生は、俺の能力を見込んで頼んだのではなく、第二のウイルスベクターの宿主として利用しただけだ。俺の研究者としてのプライドは粉々だ、砂を噛む思いを味わう。

 先生からしてみれば16年後に、俺がまだ研究環境にいるかどうか疑わしかったのだろう。だから”俺が何もしなくてもいい”という状況を見越して、彼女の作品を未来へと送り出した……。


 残虐なまでの周到さだ。


 とはいえ、暗闇で素肌にブラックライトを当てでもしない限り、蛍光タンパク質の蛍光(fluorescence)は他人の目には分からないし、他人に見せる機会もそうはない。そもそも今のこの現象は夜光虫の発光とは原理が違う。夜光虫の放つそれはルシフェリン-ルシフェラーゼ反応であり、”光を当てなくても”光る。

 ここでの蛍光とは、励起状態の一重項状態から一重項基底状態に到達するまでの輻射失活、発光現象をいう。だから、そもそも励起光による刺激とエネルギー吸収がなければ、蛍光は第三者からは判別できない。感染者の外見を、著しく変えてしまうわけではない。


 つまり十分な期間、俺が感染したことは隠し通すことはできる。

 ――人として間違っている、そんなことは承知のうえ。

 俺は本来、ただちに世間にこの事実を知らしめて、未知の病原体の感染源として隔離されるべきだ。

 それと同時に、自身の責任のもとに、あるいは他者の手を借りてでも、これら二つのベクターの正体を暴き、駆逐しなければならない。

 彼女の手を離れ蠢く、彼女の残渣を始末をしなければならなかった。



 ところが、俺は解析を進めるうちに、意外な朗報を得た。人類の敵だと俺が思い込んだ第二のベクターは、人々に意外な福音を齎すようだ。

 第二のベクターは第一の腫瘍ウイルスが造りだした腫瘍を特異的に溶解するコンストラクトの組まれたベクターであり、これに感染し青色蛍光のレポーターを全身に発現した人間は、生還する……それが判明した。

 第一と第二、二つのベクターの組み合わせは、まるで鍵と鍵穴のように厳密で協働的だ。

 第一のベクターには発現タイマーがあり、一見無害のように見えるステルスベクターだ。これは医療者の監視の目をかいくぐり、十数年をかけてほぼ全人類に感染を果たし、丁度大規模感染を遂げたタイミングで一斉に活性化した。そしてとりわけ強い残虐性、攻撃性を持つ人間に対し選択的に腫瘍を齎した。


 ただし、第一のウイルスはその変異のしやすさから不完全な構成であり、客観的に見てもただの殺戮装置だ。

 何故といって、個人の持つ攻撃性の高さは、先生の定義による”悪人”という概念を充足しないこともある。

 特に雄の生殖原理においては、危険に対する攻撃性は種の保存を図る働きがあるし、物事への情熱、意欲、性欲、闘争心と密接に関わっている場合もある。これを標的とするのは馬鹿だ。

 なのに第一のウイルスベクターでは、およそ”無実の”人々であっても、見境なく腫瘍化してしまっていた。世界を牽引するトップリーダーたちも、何らかのアグレッシブさに満ちている。格闘技系の選手や、兵士らもこれに該当する。彼らを淘汰してしまっては、人類という種に多大な不利益を与える。

 それを、先生も考慮に入れていたらしい。


 第二のベクターには更に巧妙な分子センサーが組み込まれており、特定の遺伝子発現パターンを認識して、第一のウイルスを不活化させたことをレポートする、青色蛍光タンパク質を発現させることになっていた。

 つまり、このウイルスは二種類の、選別様式の異なるウイルスベクターによって、宿主である人間をある条件のもとにポジティブ選別し、予めコードされた遺伝子発現パターンを持つ人間のみを救済する、厳しい条件の付された……おそらくは特効薬だったのだ。


 そしてそれは、空気感染ではなく、血液および体液の接触感染によって伝播される――……。

 結果からいうと俺は青蛍光を宿す、世界に一つの歩く感染源であり、生ける治療薬となった。


―君は優しい、わたしには分かるわ―


 先生の言葉は、社交辞令などではなかった。俺がベクターのバイオセンサーや受容体を免れて、青色蛍光タンパク質を強制発現させることを計画に入れていた。第二のベクターを俺という個体に最適化して、特異的に増殖するよう設計したのだ。

 選ばれたのが他の学生ではなくて俺だったのは、先生が俺の性格を気に入ったという単純な理由ではない。俺は当時、さかんに国際学会に出席していた。もっとも効率的にウイルス拡散活動を行うポテンシャルを秘めていた。


 いずれにしろ。彼女は俺に利用価値を見出し、生かした。

 彼女の信じる、理想世界の実現のために――!



 明け方になって、俺はしたたか殴られたような酷い顔をしたままラボを出て、よろよろと研究棟の屋上に出た。

 湿気を含んだ強風が俺を打つ。空には分厚い黒雲が垂れこめ、風の吹くまま流されていた。屋外に出たとしても、俺の体内で増殖したウイルスが外に拡散する心配は、今のところない。


 闇夜から脱走したかった。黎明が、見たかった。

「うおおおおおおおおああああ!」

 俺は狂人のように、雲間からかろうじて射す太陽に向かって吠えた。

 強すぎる太陽光が乾ききった目を苛む。


「先生……、こんなのは間違ってる……こんなの、誰も望んでない」

 とめどなく涙が出てきた。堪えられずに、嗚咽した。


「これは、この先にあるものは優しい世界ではないです! あなたの独善だ!」


 それでも俺は俺の裡にあって、宿主の袋小路になっている第二のベクターを解放して、できるだけ多くの人を救済する以外に方法がない。抜本的な治療薬を待つ間に、死者は膨れ上がってゆくだろう。また、ざっと考慮しただけでも、今からすぐにどこかのラボが治療薬を造ったとして生産体制にもってゆく時間に、手遅れになる。求められるのはハイスループットだ。


 俺が救える人間を、救うほかにない。


 俺は昏い海の中にインパクトを投じるだろう。

 彼女の望むままノクティルカ・ブルーの波紋を呼び起こして――。



 *


 その日のうちに情報をまとめ、関係する主要な研究機関、および行政に第二のベクターの存在を報告し、それらはNBV1、NBV2と名付けられた。

 ノクティルカ・ブルー・ウイルス。

 名付け親は、俺だ。

 ウイルスの命名法則を無視しているし、恐らくレトロウイルスをベースとし複数のウイルスのタンパク質をコードした合成ウイルスなのだが、先生はあの夜光虫のシアン色蛍光に魅せられ、シグナルの伝播に拘っていた……いや、執りつかれていたようなので本望だろう。ウイルスと名付けたのは、ベクターとすると犯人捜しを始めなければならない、その動きを、数々の取引の末に封じ込めた。先生は死んだのでどうしようもないのだし、俺も先生との関係を取りざたされると身動きが取れなくなり困る。


 俺を宿主として得られた第二のベクターNBV2は、先生の定義する”優しい”患者を癒し、第一のベクターNBV1のキャリアを、青く輝く人間へと変えた。だが、予想通り……NBV2を投与しても、攻撃性の高く、残虐で狡猾な……と看做される遺伝子発現パターンを持つ人々は救済されなかった。感染しても人体が青色蛍光を発することなく、人為的に淘汰される。


 世界中の人間が、ごくごく短期間の間に、理不尽な審判に晒された。


 NBV2ベクターは、約90%の人々の腫瘍ウイルス治療に対して強力に奏功し、完全寛解させたため、特効薬として扱われ重宝された。NBV1ベクターの伝播の裏に隠れ、NBV2のベクターとの協働によって、人為選択は急速に進んでゆく。

 生還者は口を閉ざし、犠牲者は偏見の目で見られ、永遠に沈黙する。

 また、死に瀕し、改心をした者には、それが遅すぎない場合に限り救済が用意されていた。

 世論は、この人為選択を受容する方向に流れた。


 最後の審判に耐え、ポジティブセレクションされた生存者は全員、青色蛍光を発現する。

 過去から現在へと託された、とある一人の死者の願い。


 世界は静かに生まれ変わり、動的平衡に達してゆく。

 その願いに、世界中が染め上げられた。



 *


 ――あれからもう、三年が経つ。


 NBV2ウイルスベクターが俺の手によって放たれてから、世界情勢は一変した。

 もはや世界地図上のどこにも、あからさまな戦闘継続地域というものは存在しない。正確には、無期限に休戦しているという状況で、こまごまとした諍いはある。軍隊も、災害派遣や平和活動などに携わる以外に出動は稀だし、凶悪犯罪は激減し、地域見守り型へと様変わりした。

 もはや各国は核抑止力を必要としなくなったし、小さな紛争から戦争に至るまで、それらの概念は形骸化した。

 この世界では、誰かを殺傷したいという衝動、あるいは他者を鑑みない利己心を強く懐いた人間は、それがNBV1、2の選別パターンに合致し、二つのベクターが協働して腫瘍化を誘導し、すみやかな死を招く。


 NBVが厳密に定義する「優しい人間」以外、生き残れないのだ。

 しかしあらゆる人々が等しく人為淘汰という名の審判と粛清を受けたのち、世界はようやく平穏を取り戻した。そこはまったく以前と同じようでありながら、青く優しい人間の住まう、異世界そのものだった。

 

 曽我先生が人類の課題として挙げていた……貧困、飢餓、差別、環境問題などは解決していないが、それでも、それが正しいか間違っているかは別として、大きな変革が起きた。


 この、交渉不可能な人類監視システムによって、表向きには比較的穏健な人々による社会生活が静かに維持されている。凶悪犯罪者はすみやかに死をもって断罪されることにより、社会から排除され続けている。経済活動は人口の減少などにより鈍足化し、政治のうえでも大きな混乱はあった。NBV1とNBV2そのものを根絶させてしまおうという、各国研究機関の動きも一時はあったものの、結局、どこの国も本腰を入れることはなかった。


 NBV1とNBV2に感染し、青色蛍光を呈した人間は極端に、あらゆる疾患にかかりにくくなったからだ。特に、腫瘍ウイルスの一種であるNBVの全身感染により、従来の疾患である悪性腫瘍がレスキューされるというのは、皮肉なものだ。


 今になって思うに、曽我先生は末期癌の多発転移で死んだのではない。

 全身感染を起こして腫瘍を確実に寛解させるようなベクターを開発していたのだとしたら、真っ先に自分に使えばいい。だからあれは、嘘だ。先生は俺に、多くの嘘をついた。


 そのかわり何が真実であるかというと、NBV1と2のプロトタイプベクターを開発し、その効果を自らテストしていたのだろう。

 あの夜、俺が先生に触れた時に存在した腫瘍は、NBVによってできたものだ。

 そうやって完成したNBVの第一と第二の組み合わせがあって、両方とも自身に感染させたのに、何故先生が死んでしまったのだろうか。


 先生は、NBVの定義する「優しい人間」ではなかったからだ。


 彼女は何千万、何億という人間を殺害すると決意した。だから……

 先生はNBVが自分を殺す、それを知っていて、それでも死を選んだ。


 NBVを制御するのは、先生には無理だったんだ。そして、何も知らない俺が選ばれた。俺は、先生の計画を知っていてはいけなかった。




 今年も、また俺の誕生日がやってきた。誕生日を迎えるたびに、俺は憂鬱な気分になる。

 そして、――。


「横山修一さんですね? 30年前からのタイムカプセル小包のようです、ご実家が一緒でよかった」

 俺はそのパンドラの箱を開けるべきか、永遠に封じるべきか、分からないでいる。

 先生の計画の第二フェーズが始まっている、そう確信した。何しろ先生が考えていた”人類の果たすべき課題”は、まだいくつかあるのだ。開けても開けなくても、何かが進行している。

 開けなかったとしても、最悪の方向へ転がってゆくかもしれない。


 ハッピーバースディ・横山君……小包の中から、そんな声が聞こえてきそうだった。

 先生は、白髪の生え始めた俺に何と言うのだろう。


 そして俺は、いや人類は……彼女からあといくつのプレゼントを受け取るのだろう。

 潮騒音が聞こえてきた。


 波間から生まれ陸へあがった俺たちは、どこへかと収束してゆく。

 でも……その理由なんて、存在すらしない。

 何が正しいかなんて、人類の進化史においてはあまり意味をなさないのかもしれない。

 生命は46億年間という、気の遠くなるほどの時間をこんな風に、突然発生した理不尽な淘汰圧を受けながら、進化を繰り返してきたのだ。人もまた、例外ではなく……


 またこれから先、多くの人間が死んでゆくのだろう。

 彼女のパーフェクト・ワークスは、彼女の理想へと漸近してゆく。


 さらなる完全を目指して――。


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