月明かりの君
僕が彼女と出会って間も無くのこと。
その日、きっと僕は堕ちたんだと思う。彼女に。
***
突然で申し訳無く思うのだが僕には気になる……いや、はっきり言おう。好きな人がいる。その人の魅力を語ればありとあらゆる事が、物が足りないので割愛させてもらうけれどせめてこれだけは言わせて貰おう。彼女は、彼女こそは純粋で、純全で、完全な日本人。所謂大和撫子と呼ばれるそれだ。ついでに言えば文学少女でもある。
と、熱が入り過ぎてしまった。まあ、何はともあれ僕は片想い真っ只中なんだよ。
話しかけろよって?そんな器用なことができればもうとっくにしてる。恋人とはいかなくとも、友達くらいにはなれてる。……多分、きっと、恐らく。
そんな事を思いつつも行動は起こせず、今日も話しかけられなかったと悔みながら放課後が訪れ外履きに履き替えようとしたその時、件の彼女がこちらに向かって歩いてくるのが目に映る。
いや、まさかな。変な期待を持っていたって後で死にたくなるだけだ。何もこの場に居るのは僕だけではないんだし、きっと周りにいる女子の誰かだろう。
「すこし、よろしいですか?」
遠慮がちな声が“僕に”かけられた。
……いやいや、落ち着け僕。そんな事はあり得ない。よし、深呼吸だ。すーはー、すーはー、クンカクンカ。……ダメだ、落ち着けん。
「あの、聞こえてますか?」
やはり“僕”にかけられている。
「ひょっとして、僕?」
気になるものは仕方がない。僕は爆死覚悟で尋ねた。
「やっと気づいていただけましたね」
「僕……だったんだ」
聞いてみたものの自信なんぞ無かったため、僕は驚きを隠せないでいる。
「はい、あなたですよ。お話ししたいことがあります」
あろうことか彼女はそう言ってきた。
え? これは期待していいんだろうか?いや、ない。考える……までもなくない。
「よければ、お話しついでに一緒に帰りませんか?」
彼女に誘われた。お、落ち着け僕。よくあるじゃあないか。僕じゃなくて、僕の友達に。なんてことは。
自分で言ってて泣きたくなってきた。
とはいえ、お誘いは嬉しいので拒む理由も、道理もなく。
「ぼ、僕でいいんなら」
「まあ、あなたがいいんですよ?」
という訳で、下校イベントが発生しました。
***
そんなこんなで一緒に帰ったのだが、結局彼女は何も話さずに途中寄りたいと言った公園でもただ「ご都合が合うのでしたら夜、ここで」と言っただけだった。
夜、僕は気になって彼女と寄った公園に行った。
そこには既に彼女がいて、綺麗な黒髪を風に掬わせて立っていた。その立ち姿はとても美しくて、幻想的だった。
「待たせちゃったかな?」
恐る恐る、声をかけると彼女は緩慢な動作で振り向き、 月明かりに煌めく髪を靡かせ、彼女はゆっくりと言葉を紡いだ。
「月が綺麗ですね」
彼女はそう言って微笑んだ。
ドキリと胸が鳴った。ああ、やはり僕は彼女が好きらしい。夜空を見上げると確かに煌めく星々の中に一際大きく輝く惑星、月と呼ばれるそれが美しく存在していた。
何故、彼女が挨拶もそこそこに唐突に月が綺麗だと言ったのかは解らない。
それでも、月よりも彼女の方が綺麗だと僕は思った。




