ゆず湯に入ろう
冬休みに入ってすぐの日にすることといえば何だろうか。
まだ日にちがあるから宿題に取り掛かる気分ではなく。
学校生活の習慣が抜けきらずに無駄に早起きしてしまう。
そんな時、私たちは睡眠とは人類の至福であるということを知る。
「おきろー!」
そんな風にグダグダと惰眠を貪っていた昼頃。
何か用でもあるのか幼馴染の侑珠が部屋にやってきた。
「起きてるぞ……?」
「さっきまで布団にくるまっていた癖に何を言う」
布団の中あったかいナリィ。
「こらこら、また布団に入ろうとするなー!」
布団をベッドから落とされ俺の天国は消えてしまった。
ていうか落とすなよ、戻すのめんどくさいんだから。
「……で、何か用か? こんな時間に珍しい」
「いや、珍しくないでしょ。いい加減なこと言わない。
えっと……用事? そうそう、これよ」
そう言って手に持っていたものを突き出してくる。
コンビニ袋? ああ、中に入ってるものは……柚子、か?
「……なんだ、洒落か? 朝からご苦労だな」
「ちっがーう。今日は12月22日! 分かる?」
「……あぁ、一緒に入ればいいのか。柚子と」
冬至か……忘れていたな。
侑珠はこういう記念日の行事をちゃんとしたがる。
俺はあまり興味がないのだが……侑珠と一緒にやることは多い。
「……あ、うん。そう! 侑珠と一緒にお風呂に入ろ!」
「……おい? おまえは何を言っているんだ」
いきなり真っ赤になったから何かと思えば。
流石に高校生にもなってそれは無理があるだろう。
「ほら。童心にかえって、ね」
「あほか……年齢と体型を考えろ」
「失礼な、太ってなんかないよ!」
「……お前のスリーサイズくらい知っとるわ!」
上から88・56・87とかいうモデル体型してるくせに。
むしろその太ってない体のほうが危ないってことが分かってるのだろうか。
「うー……」
「そんなに一緒に入りたいのか……?」
「だって……付き合い始めてからの方が遠くなった気がするから……」
…………相変わらず、猪突猛進なやつだ。
これは、好きになったもの負けというやつなのか。
しょぼくれて俯かれると断れないんだよな。
「……わかったよ。今から入るか?」
「え? 入って、いいの? 一緒に?」
「ふふ……たまにはいいさ」
「わぁ、ありがとっ! 大好きだよー!」
おっと、いきなり抱きつくのは危ないって言ったはずなんだけどな。
お風呂は寝る前に入ってあわよくばベッドインしたい!
とかアホなことをぬかす幼馴染には制裁のデコピンを食らわせてやった。
だが、いつも風呂に入るのは寝る前だし、時間帯には文句は出ない。
「……だが、ベッドインは許さん」
「もぅ、ケチだなー」
言いながら侑珠の手の中で柚子がもてあそばれる。
そんな無邪気な姿に愛おしさが湧き上がる。
後ろから抱きつくようにしてその腕を掴む。
密着した侑珠の体から感じる鼓動に感覚を集中する。
「こうしてると、昔を思い出すなー」
「……あぁ、ゆず湯。だろ」
幼い、まだ小学生になるまえぐらいの頃。
その時は友達だった侑珠と家で遊んでいたときに母に言われたのだ。
「ゆず湯に入りなさい」と。
「それで、”ゆずのことー?” って。あはは」
「やー……小さかったからな。
一緒に風呂に入るのも気にしてなかったし……」
「ゆず湯だよ、一緒に入ろっ!」と言う侑珠と一緒に風呂に入った思い出。
「……懐かしいな」
「うん、ほんとに。えへへ」
そんな昔とよく似た、まさに再現とも言える。
だが、俺たちは高校生。確かな差が、それだけで分かる。
「そのときは、好きって感情もなかった」
「……どうだ? 今の気分は」
胸に重みを感じる、侑珠が体をあずけてきた。
それに合わせて彼女の手が俺の顔を撫でる。
「すっごく、幸せだよー」
「……そうか、俺はな――――」
するり、と侑珠の身体に手が伸びる。
ついでに唇が触れる程度まで顔を近づける。
「っ!」
「――理性が、限界だ」
冬至どころか年明けてからという……。
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