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前編

 下心とかそういうのではなく、クラスに放っておけないやつがいる。それがこの子との付き合いの始まりだった。

「今日もニラレバ炒めなのか? 最近多いな」

 俺、杁島鋼紀(いりじまこうき)は今、教室でその子と一緒に昼飯を食べている。

「ニラレバがなくては生きていけない。それに、昨日と違ってほうれん草がついてる……もぐもぐ」

 その子――今、ニラレバをついばんでいる子の名は白金鈴音(しろかねすずね)。身長は一四〇センチあるのかどうかってくらい小さい。一説によると身長は一三八センチらしい。とても可愛い子だが、無口で人見知りが激しいためか友達がいない。そんな彼女と一緒にいる俺は、クラスでは彼氏だ何だと言われている。が、別にそういう関係ではない。以前は周りがは(はや)し立てるたびに交際を否定していたが、今は気にしていない。

「相変わらず鉄分が多いね」

「……鉄が美味しい」

 コントレックスを一口飲む白金。ミネラルがものすごく多い『硬水』だが、俺はあまり好きではない。しかし、白金は他のミネラルウォーターや水道水より、これがうまいと主張している。

「ゴールデンウィークはどう過ごすのさ?」

 俺は白金に聞いた。

「部活……かな?」

「お前、軽音部を辞めたんじゃなかったのか?」

「そうだった」

 そもそもこいつと知り合ったきっかけは、一年の時に軽音部へ体験入部したことだった。当時の彼女は話しかけても最低限の返事しかしない、素っ気ない子だった。結局俺はそのまま入部せず、彼女とも仲を深めずに一年を過ごしたが、クラスが一緒になってから、こうやって昼飯を共にする仲となった。

「しかしどうして辞めたんだ?」

 俺は再び白金に聞いた。

「……思っていたより面白くなかった」

「ほう。そもそも白金って何か楽器やってた?」

「トライアングルと……あとカスタネットなら。うんたんうんたんって叩くんでしょ?」

「普通うんたんとは言わないが叩くのは合ってる。でも軽音とあまり関係がないぞ」

 カスタネットを叩く白金を想像してみる。うんたんうんたん、と無気力そうな声が脳内で反響する。本人が楽しそうかどうかは分からないが可愛らしいので見てみたい。

「ギターとか難しそうだったし、ドラムもやらせてもらったけど上手くいかなくって。それに他の人と仲良く出来なかった」

 黙々とほうれん草をつまみながら白金は答えた。彼女の食べるペースはゆっくりとしている。

「そうだ、今度タマダ電機行って新しいパーツを見に行かないと」

 白金ははっと思いだした。タマダ電機とは学校のすぐ近くにあるリサイクルショップだ。某大手量販店と名前は似ているが規模とか見た目とか全然違う。

「何のパーツだい?」

「パソコンだ」

「自分で作ってるのか?」

 白金は首を横に振る。

「見るだけで楽しい」

「そういうもんか。作った事はあるのか?」

 白金は再び首を横に振った。

「見てると難しそう」

「そうなのか。パソコン作るって面白そうだな」

「面白そう、というかむしろおい……いや、なんでもない」

「じゃあ放課後に一緒に行くか?」

「一緒? ……二人で一緒?」

 ぼんと白金の顔が一気に沸騰した。

「あ、やっぱ恥ずかしいか?」

 白金の耳からやかんの笛の音が聞こえてきそうだ。思わずお互いの耳を近づけてみた。すると、代わりに鼻と口から笛のような音が鳴った――ような気がした。彼女から鼻血も出てきそうだ。

「ううっ、これ以上近づくのらめ……お昼が食べられない」

 涙声で白金が言う。

「すまんな、ちょっとふざけてみたかっただけだ」

「……っ!」

 おでこにおでこをごちんとぶつけられた。でもそんなに痛くない。

「本当すまんな。これ以上はしないから安心して昼飯食ってくれ」

 白金は再び弁当を食べ始めた。そろそろ昼休みが終わる頃だ。

「……はっ、タマダ電機よりも大事な事があった。杁島、頼み事がある」

「『宿題を忘れちゃった。ノートを貸してくれ』」

 白金の口真似をしようとした。が、トーンしか真似できなかった。

「そういえばそうだ。ノートを貸して……じゃなくって」

 もじもじしながら白金は続けた。左手に握られている弁当が傾いていて、中身が落ちそうだ。

「捜し物を手伝って欲しい。昔のラジカセ」

「そんなもんを学校に持ってきているのか?」

「違う。学校にはない。その……」

 もじもじとしながら白金は俯く。

「あたしの家にある」

「それなら俺じゃなくて、親に任せておけばいいんじゃないか?」

「親は……」

 何も言えずに、不満そうな表情を見せる白金。

「親には任せられないのか?」

「そ、そうそう。だから友達の杁島に手伝って欲しいなって」

 言っていることが若干不自然だ。だが、俺には断る理由なんてなかった。

「分かった、一緒に探そうか」

「やった。ありがとう。はっ……そろそろ昼休みが終わる。早く弁当を食べないと」

 中身が落ちそうな弁当を机に置き、白金は食べるペースをさらに上げた。喉に詰まらせるなよ、と思いながら俺は彼女を見守った。

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