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「突撃用意」
敵の補給基地のそばの森、東方騎士団第三戦闘団総勢22名はその時をいまかいまかと待っていた。
敵の守備部隊は200程度。たいした数ではない。
総勢
「蹂躙せよ」
騎馬にまたがった剣士、槍兵が突撃。弓兵と銃兵が支援する。
銃兵?私一人です。
指揮官を優先して、次いで指揮を採ろうとした者。
指揮系統が寸断された軍はまともな反抗ができなくなる。
追い討ちをかける前衛の浸透。
予定通り、あっけなく補給基地は墜ちた。
「撤退急げ」
我々が次に狙うのは敵の主力のすぐ後ろ、一時間とかからない距離にある補給基地。
防備も堅く、落とすのは困難だがまさかの友軍の危機だという。
我々が補給基地を落としていたその時、貴族様は大敗を喫していた。
すでに半包囲されていて、数刻のうちに我々が動かないと一時に主力軍を失ってしまう。
主力軍は各王国の軍隊から抽出されている。
それが蒸発してしまえば、帝国全土で内乱も起こりうるだろう。
内乱にならずとも、全ての国が等しく弱まれば賊の跳梁も許すことになる。
主力軍の規模は約20000。
民兵こそいないが、これだけの消費者が消えるのは経済にも影響を与える。
生き延びて捕虜にでもなれば、身代金もかかる。
無関係な人間が二人死のうが二兆人死のうが知ったことではないが、後々面倒になるだろう。
「別にあいつら死んでも俺たちは生き残れるぜ?なぁ、副隊長」
一人の槍兵が提案する。
「ああ、問題ない。でしょう?隊長。だけど」
「だけど、あえて指示に従うわ」
「その心は?」
私は笑みを消した目でユーカを見る。
彼女は笑みを浮かべて答えた。
「私たちの価値を上げる。限りなく困難な状況でも助けに来てくれた。たとえそれが奴隷でも無視できなくなるわ。褒美も期待できるわよ?」
「わざわざ死地におもむくんだからな。褒美をけちるようであれば今後我々奴隷隊の支援は受けられない」
「いいわね?風下から奇襲をかけて補給基地を落とす」
これで半包囲は浮き足立つ。
「そのまま敵陣を強硬突破。これは数人で行うわ」
「他の人員は?」
彼女の性格は“やるからにはとことん追い詰めて殺る”みたいな感じだから、
「他の人員は強硬突破で狼狽えた敵を喰らうわ。私たちが観客の視線を集めるからその間に風上に回りなさい」
「そして火をつける?」
「ご名答。火に巻き込まれないように気をつけなさい」
ーー燃料は?
「弓兵の裁量に任せます。火がつけばいいわ」
ーー目標は?
「食糧を最優先」
そうだ、思い付いた。
「火をつける時に水樽を壊しておけ」
ーーいいですね、それ。
ーー刺激的です。
皆も賛成してくれる。
「突破の参加者は?隊長、志願します」
「私も志願します」
参加したらまず生きて帰れないミッションに、志願者は8人も集まった。
弓兵は火攻めの主力となるから参加させられない。
そしたら残りは6人。
だというのに、隊長はとんでもないことをのたまった。
「突破参加者は、私とルクレール、それにロイ、あなたが来なさい。この三人で突破します」
ロイは槍兵の中でも最もうまく槍をふるう。
馬上戦もうまい。部隊のナンバースリー、いざとなれば私の次に指揮をとる男だ。
指揮官としての教育もしてある。
だが三人というのは少数精鋭にしてもやりすぎだろう。
「生還は絶望的。普通に考えたら三人とも死ぬ。そんなことに指揮をとれる人間を三人も駆り出して投入するのはおかしい。隊長は残ったほうがいい」
「だからよ。私は生還することが皆できると信じているから、この三人にした。それにこの三人以外でも指揮はとれる。でしょ?」
「..たしかに、成功率を上げるためにはこの三人が一番あり得るな」
ロイ、覚悟はいいか?
「また不意討ちっすか?」
「ああ。22人で正面から切り結ぶか?死ぬぞ」
「..」
指揮官としての合理的思考を植え付けても、やはり反発はあるだろうな。
「ならば一番槍を私が務めよう」
「あなたは殿。私が先頭で蹴散らすから、いい感じにばらまかれた敵をロイが斬る。とどめをルクレール、あなたが」
「..了解っす」
「..承知した」
まぁ銃兵だしな。
これが互いに邪魔にならないポジションというわけだ。
たぶんユーカは連携なんてする気がない。
片端から刈り取っていくときに邪魔にならない程度の囮兼伐ち漏らし防止装置みたいなイメージだろう。
「隊長、我々は?」
「任せます。私たちの脱出はあなたたちの放火にあわせるわよ。期待しているわ」