Demonic
久しぶりにこっちを更新
その城は強靭だと予想される。
たとえ主力が灰になっていても、一月は持つだろう。
主力の生き残りも合流しているだろうし。
だが、あくまで正攻法で行けばそうなんだろうな。
「急いで中にはいれ!」
兵士に従い城に入る。
ここの城の神殿は三日月教の聖地らしい。
ここを落とすことが今回の遠征の目的。
そして今、我々は城の内部に潜入した。
ここは農村と市街地が城を取り囲むようにして広がっている。
よって周囲の住民は包囲される前に遠くへ逃げるか、城に逃げるしかない。
今回は敢えてゆっくり進軍したため、城に篭る民間人は少ないだろう。
我々6人は商人を装っている。運悪く敵に遭遇した遠方の商人という設定だ。
市内で奪った馬車には農村で持っていかれなかった小麦や野菜に油と水。
主な武器は馬車の下に隠してあり、貧弱な護衛を名乗る程度の武装しかしていない。
城の防衛隊長のような男が、軽武装の私たちがいると知って小走りでかけてきた。
「よろしければ防衛戦に参加していただきたい」
第一声。それは依頼のようで脅迫だった。
参加しないと商売させないぞというつもりだろうが、こちとらそもそも商人ではない。
ただ、固まっていると色々捗るからお願いするか。
「それはもちろんかくまっていただいている身分、微力を尽くしますが..」
「なんだ?」
「我々を一単位で扱っていただきたい。他の兵士とは連携がとれませんので」
「そんなことならかまわない。城壁の上での戦闘をお願いする。ただ、こちらも余計なことに人手を割けない。案内の兵はつけられない」
「お構い無く。周りを見て判断させていただきます」
「よろしく頼む」
ありがとうございます。これで工作が楽になる。
翌日、包囲がなった。
明朝、こっそりと農民に化けた部下たちが井戸に灰を投入する。
井戸は三ヶ所しかない。お粗末な造りだが、どうせすぐ墜ちるんだ。
水がなければいつまでも籠城できない。
一方、こちらは一応飲み水を用意しておいたから全員で分けても一週間は戦える。
午後から攻城戦が始まる。
カタパルトで投石し、はしごをかける。
防衛側も上からはしごを落としたり、石や熱した油をかける。
戦いは日が墜ちるまで続き、初日は防衛側の勝利だ。
我々商人に化けた六人と、義勇軍の扱いの七人は後詰めに数えられている。
城壁の上で鍋に薪をくべる仕事だ。
その鍋の中身は油。
降りかかる先は遠征軍。
..裏切ってはいないよ?たぶん。
まぁ、有象無象の木っ端兵士が二人死のうが二兆人死のうが知ったことではないのだが。
そして農民に化けた四人は戦力外。
防衛側は監視の余裕なんてないのでバンバンこっそり働いている。
今日は穴を掘らせた。
城壁の下を両側から掘っていき、外部から援軍を引き入れる。
防衛側は皆、やる気がない感じだ。
水の配給が少なすぎる。
一日に約2Lは必要とされる水が、一日に1L程度だ。
士気はだだ下がり。
しかし城壁が守られただけ、信仰心は篤いのだろう。
籠城四日目の夜は新月で、仕上げの夜だ。
部下の一部を門に向かわせた。
残りは馬車をこっそり神殿に近づける。
中には油と薪。
きっとよく燃える。
「さーんにーいーち..」
積み上げた薪に油をかけ、松明を灯す。
持ち込んだ分では足りなかったが、防衛用の油を寸借した。
神殿警備の兵士があわてて出てきて火を消そうとする。
そいつらに矢弾を浴びせる。
さらにやって来た敵を暗闇の中に引きずり込んで沈黙させる。
固く閉ざされた門が開いた。
そこから遠征軍のお出ましだ。
「どうすればいい!」
「神殿の賊を伐て!」
「入ってきた敵が優先だ!」
混乱する兵士。
錯綜する命令。
ーーダン
ーーシャッ
銃と弓で遠くの警備兵を除去。
残りも順調に排除。
つぎは神殿制圧だ。
(けっこう壮大だよな、ここ)
暗いのでわからないが、昼間のここはたいそう立派なところだ。
しかし今は、自慢の石造りの彫刻や内装も傷ついている。
ちなみに騎士団の砦と同じ規模の神殿。
かなり広い。
だから警備の兵士の生き残りも隠れていて、
「がはぁ..」
死体が転がっていても狭く感じない。
薙刀だって自在に振るえる。
室内で弓が使えるんだ。かなり広い。
我々は神殿を蹂躙していく。
城の他の区画にも遠征軍が浸入していく。
そこで門の開放を指揮していたユーカと合流する。
「ルクレール、主力軍よ。引きましょう」
「承知」
主力軍と入れ替わり、神殿をあとにする。
向かうは城壁の脇の小屋。
そこにはなぞの地下室の入口があるらしい。
「こっちです」
発見した農民に化けた部下につれられて地下に急ぐ。
そこは暗く、狭い空間だった。
横2ヤード、縦2.5ヤード。
兵士が安全に通れるくらいか。
トンネルを進むと、本道に出た。
こっちも同じ広さだが、足場がしっかりしている。
石造りだ。
「しずかに、足音よ」
一人の隊員が小さく呼び掛けた数秒後、本道の奥から集団が表れた。
「隠れて」
ユーカはこの遮蔽物がない通路で無茶を言う。
もとの道に戻れそうにないやつらはかがんで頭からぼろ布を被り、縮こまる。
なかなかに愉快な格好だこと。
「?....急ぎましょう」
それを見つけても何も言わんのか?
段ボールじゃないんだぞ。
先導する兵士は我々が潜入したときにいた奴だ。
お前の目は節穴か?
「待ちなさい、こんな暗がりをどこへ行こうと言うのかしら?」
「敵がここにも!おにげくだs」
松明に照らされた彼の頭を槍が貫く。
護衛はあと三人。
その一人が頭に別の槍を生やし、もう一人は剣で斬られる。
よく見たら槍を刺したのはロイじゃないか。
なんでそこに紛れていたんだ?
「神殿で撤退するときに道を間違って、たまたまこの大司祭にであってしまい、成り行きで護衛をしながら首を狙っていたんです」
「結果はいいけど、道を間違えたなんて失格ね」
「たのむ..命だけは..ほしいものはなんでもやろう。金か?女か?」
なんとこの大司祭殿、命乞いをなされた。
しかもなんかアンモニアが匂う。
「..呆れたわ。捕縛しなさい。上へ運ぶわ」
もと来たルートをたどって小屋から地上に出ると、主力軍が囲んでいた。
戸を開けると、矢が刺さっていた。
「スター!」
..返事はない。テキサスくらい返してみろ。
奴らは裏切ったのではなく、ただ誤認識しているだけのようだ。
さて、どうしたものか。
「この偉大なる大司祭殿を先にしていくというのは?」
「却下。こいつが死んだら意味ないわ」
小屋の中を見回すと、いいものがあった。
そうだ。いいこと思い付いた。
大司祭殿の立派な衣服を少し頂き、恭しく刃をいれる。
それを釘で板に打ち付ける。
それを窓からそーっと出す。
板に貼り付けられたのは太陽教のシンボル。
戸を開き、三日月教の大司祭が囚われているのがわかるようにゆっくりと出ていく。
矢は、飛んでこない。
「我々は敵の旗を手にいれた。我々の勝利だ」