第7話 初回ギルド
「へ~、これが地球のダンジョンか。…………役場?」
埼玉県にある唯一のダンジョン、さいたまダンジョンはさいたま市にある。
ダンジョンは現在日本に三十三個あり、そのいずれもまだ最下層まで到達できていない。場所に規則性は見つかっていないが、人が多くいるところにできやすい傾向はあるようだ。
現に大宮駅東口という埼玉県でも屈指の都会(埼玉比)の地域にさいたまダンジョンはある。
配信で見たダンジョンの様子は異世界と同じようだったが、しかしダンジョンの入口は大きく違っていた。
ダンジョンの入口を覆うように、建物が建っていたのだ。
『さいたまギルド』という看板の下の自動ドアをくぐり、俺はその建物の中に入った。
建物の中は、市役所の出張所みたいな感じだった。
ロビーと受付があり、ロビーから廊下が続いていて、そこからいくつかの部屋に入れる。受付には受付嬢がいるのは異世界のギルドと同じだな。でも紙の帳簿に書き込むのではなく、パソコンをカタカタと操作している。
これがギルドかー、隔世の感があるね。
「すいません、ダンジョンに入りたいんですが」
早速受付嬢さんに声をかけると、パソコンを操作する手を止めて笑顔を向けてくれた。
「そう言うということは、さいたまギルドは初めてですね? そちらの廊下を奥にいった突き当りがダンジョン入口のある“転移門の間”となっています。他のギルドと同じくQRコードをかざせばドアが開くので、それでどうぞ。あとは廊下の途中に買取所や売店等あるので、ダンジョン探索の際はご利用ください」
ロビーの右手奥へとリノリウムの廊下が伸びている。なるほどあの奥にダンジョンの入口が。
「他に決まりなどありますか?」
「特にさいたまだけのローカルルールはありません、他のギルドと同じ…………もしかしてダンジョン自体初めてですか?」
異世界でのダンジョン経験はあるけど、異世界に行ってたことが知られたら面倒くさそうだよねえ。一般人ならともかくここダンジョン管理してるギルドだし。ダンジョンと異世界の関連性が何かあるのか、とかあれこれ聞かれたり実験体にされそう。
……黙っておこう。面倒くさいのは嫌だ。余暇は減らさない、絶対にだ。
「ええ、初めてです」
「それなら、まずは講習を受ける必要があります」
「講習ですか?」
「はい。今ではダンジョンのことも結構分かってきたとはいえ、何も知らずに入るのは危険ですから。あちらの控室にパソコンがあるので、講習用動画を見てください」
「あ、動画でいいんだ」
「はい。最初は講師が教えてたのですが、新型コロナの時にこうなりました。オンラインで自宅でも見ることができますけど、ここに来たならここで見ちゃうほうが早いと思います」
なるほど対面でなくていいとは便利な世の中になったんだな。
お言葉に従ってここで見ていくか。
というわけで控室に行こうとすると、受付嬢さんが「あ、もうちょっぴり待ってください」と呼び止めてきた。
「今日の10時から実地講習があるので、それの参加も必要です」
「え、そうなんですか」
「はい。一週間に一度なんですよ。ちょうど今日で運がいいですね」
もし一日遅れてたら一週間ずっとお金ないマンだったのか。それは危なかった、たしかに運がいい。
ん? 10時?
「って、結構ぎりぎりじゃないですか」
「ええ。ビデオ教材が82分あって今が8時30分なので、早く見たほうがいいと思います」
「無駄口叩いてる場合じゃない! 急いで見ないと!」
「私の話が無駄だなんてひどいです」
受付嬢さんに背中で返事し、俺は大急ぎで控室に入り誰でも使用できるPCを立ち上げ、【ダンジョン探索者心得】の動画ファイルを再生した。
それからの話はスムーズに進んだ。
ダンジョン探索者心得の動画は俺にとってはよく知っていることばかりだったので問題なく居眠りもせず無事に履修。
そのあとの実地講習では元探索者らしきギルド職員の先導で、俺を含めた十人ほどが講習を受けることになった。一週間分の新冒険者を集めて十人っていうのは思ったより少ない気がするが、ダンジョンが出現してから二十年って話だし、やる気のある人はすでにほとんどが登録済みなんだろう。
実地訓練では、実際にダンジョンの一層に行って、ダンジョンの歩き方やモンスターの対処方法を教わっていった。
これについても、特に目あたらしい情報はなかったかな。ダンジョン、モンスター、スキル、アイテム、成長……向こうでの知識は、こっちでも同じように使えることが確認できた。
これは俺にとっては朗報だった。
この情報が得られたのは大きい。あちらで得たノウハウはそのまま使っていける。
講習なんて今更かったるいと思わず、ちゃんと話を聞いたかいがあったね。
そんな意義深い講習は、俺以外の他の参加者もモンスターにやられたり迷子になったりせず、つつがなく終了した。
そして座学と実地の両方の講習を終えた俺は、晴れて探索者資格を得た!
「……はい、これでオッケーです! 登録できたので、このアプリ起動してQRコードを読み込めばドアが開くし、あなたがダンジョンに入ったことも記録されます。出るときも忘れずやってくださいね?」
「そうじゃないとダンジョン内で行方不明かと思われちゃいますもんね」
「そういうことです。入る時はいいけど出る時はちょくちょく忘れる人がいるんですよねー、電話して確認しなきゃいけないから面倒なんですよ」
講習を終えた俺や他の生徒たちは、ギルドに戻り、探索者登録を行った。そしてスマホに探索者用アプリもインストール。
ダンジョンの入出場を管理するとともに、ギルドからのお知らせとかも配信される。たくさんダンジョン内のものをギルドで売るとポイントもつくらしい。スーパーかな?
ま、ともかくこれで晴れて探索者だ。
妹にお金を借りずにすむように頑張って稼ぐぞー!
時間はちょうど正午を回ったところ。
俺とともに講習を受けた人の中には今日はもう帰る人もいれば、さっそくダンジョン攻略を始める人もいる。
俺は……当然、ダンジョンにゴーだ。
まだ半日残ってるんだから当然だな。
今日何度目かのリノリウムの廊下を歩き、俺はダンジョンの入口に向かった。
ロビーから伸びる廊下を真っすぐ進んでいくと、突き当りに【転移門室】という表札のあるドアがあった。ドアの横の読み取り機にコードをかざして解錠。重たいドアを押し開けると、がらんとした部屋があり、その中央に、床下に三分の一ほどめり込んだ、どこかの景色を表面に映した黒い球体があった。
これが、さいたまダンジョンの転移門。
石造りの迷宮や林立する木々、スライムにオークにウルフなどのモンスターのビジョンなどダンジョンの要約のようなスナップショットが黒いドーム状の表面に貼り付けられているようだ。
「さて、これが本当の初回探索だな」
実地訓練でダンジョンに入って入口の近辺を歩きはしたが、やっぱりあれは講習って感じでダンジョン攻略って感じじゃなかったからな。
これが地球のダンジョン探索の本当のスタートだ。
行くぞ!
俺は転移門の中へと一歩、踏み込んだ。




